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葬の最期

 悲劇というのは、予告なく、突然やって来るものである。そんな事は分かっているのに、でもどうしても、「なんで」「どうして」「こうだったら」と、思わずにはいられない。


 葬として外へ出て、いつもの様に任務を全うしていた目隠しの男に、同じ葬の伝達班から、1つの報せが入る。その報せを聞いた瞬間、一気に顔から血の気が引き、生きた心地などしなかった。変に体がふわふわと浮つくような、呼吸の仕方すら忘れてしまうような、それぐらい衝撃で、ショックで…………。目隠しの男は、なりふり構わずとにかく必死に走ったのだった。


 到着した時、己の家でもある葬の屋敷は、出発した時とは全く違う様子をしていた。中には沢山の仲間たちがいた筈なのに、シンと静まり返っていて、あちこちには夥しい血と、人形の様に転がっている死体。その中を、目隠しの男はフラフラと、今にも倒れそうな足取りで歩いて行く。向かう先はただ1つ。自分が慕う師匠の元だ。


「師匠…………、師匠……………っ」


 譫言の様に繰り返しながら、はあ、はあ、と乱れる呼吸も整えぬまま、震える手で扉に手を掛ける。その扉を開ける前から、中からゴリッ、ゴリッ、と何かを砕くような咀嚼音が聞こえてきて、嫌な想像が膨らんだ。


「あ………………」


 そしてガラリと扉を開けた時。その想像は、見事に的中していたのだった。床に横たわった女の体は、それに覆い被さる黒い影に貪られている。既に半分は喰われているだろうか。腰から下はもう無くなっていて、もうかつての姿…………、師匠は、いなくなっていた。


「うっ…………、ぐ…………」


 目に飛び込んできた惨状に、目隠しの男はその場に膝を付いて蹲った。ビチャビチャと床を跳ね返る嘔吐物。今までこういう仕事をしてきて、悲惨な死体を目にする事は初めてではなかったが、それが最愛の師匠となると話は別だ。込み上げて来る嘔吐感。師匠との思い出。そして、憎しみ、怨み、悲しみ。


 部屋の傍で静かに蹲る目隠しの男に、黒い影はようやく気が付いた。食べる手を止めて、そちらに視線を移す。目隠しの男から感じる物凄い殺気から、黒い影も、今まで対峙した葬の奴等とは一味違う、と察知していた。ゆらゆらと立ち上がる目隠しの男を凝視し、どう出てくるのかを警戒していた。


 そこからは、覚えていない。自分のこと。師匠のこと。葬であること。仮面の理由。………何もかも忘れて、ただ無我夢中で戦った。一晩中、夜が明けるまで、戦い続けた。そして朝日が昇る頃。目隠しの男もまた、師匠を殺した黒い影の手によって、殺されたのだった。













「気が付いた時、俺はこの体になっていた」

「そんな………………」

「師匠を殺されたこと、そしてその憎き仇を殺せなかったことが、俺の未練だ」


 初めて聞いた目隠しさんの壮絶な過去に、私は言葉を失っていた。想像していた、「師匠は俺の初恋の人で………」というような、切ないお話なんかよりもずっと重くて、辛くて、衝撃的な話だ。何て返せばいいのか分からない。思わず俯く私に、目隠しさんは続ける。


「俺はその黒い影の霊を追っている。ソイツを殺すまでは………俺は成仏できない。死ぬことができないんだ」

「目隠しさん…………」


 つまり目隠しさんは今、憎しみでここに在るということなのだろうか。それってきっと、とてもしんどくて辛い道なのではないだろうか。彼のその心情を思うと、軽々しい言葉なんて掛けられなくて。でも何とか寄り添ってあげたくて、目隠しさんの手をそっと握り締めた。


「ごめん………なさい」

「…………?何故恋白が謝る」

「私…………、軽々しく知りたいなんて言って………。辛い過去の話しさせて…………」

「………別に構わない。それに、知りたかったのだろう。俺と師匠のことを」


 同時に思い知った。目隠しさんと師匠さんの間には、好きとか嫌いとか、そういう恋愛感情だけでは簡単に語れない、強い絆があったことを。目隠しさんにとっては、自分の命を救い、人生を変えてくれた大切な存在だ。だからこそ、目隠しさんは夢の中であの人と再会した時、あれだけ感情的に抱きしめたのだろう。けれど、ならば何故。先程花凛の術の中で、目隠しさんは迷いなく私を選んだのだろう。


「どうして…………」

「………?」

「どうして目隠しさんは、私を選んだの?」


 少しの沈黙の後、目隠しさんは言った。


「さっきも言っただろう………。今の俺が護りたいと思うのは、恋白だと………」

「でも………、あの人は目隠しさんの大事な人なんじゃ………!」

「確かに師匠は俺にとって大事な人だったが、もう過去の話だ………。生きてすらいない………。師匠への気持ちは、恋愛感情だったのか、憧れだったのか、家族に対しての気持ちだったのか………、俺にはよく分からない………」


 すると目隠しさんは突然私の前に片膝を付いた。呆然とする私の右手を取り、こうべを垂れる。それはまるで、姫に忠誠を誓う騎士のような、御伽話の1ページのような光景だった。流れる様な目隠しさんの所作に、私は目を奪われる。目隠しさんの格好、端正な顔立ちが、より一層その仕草を際立たせていた。


「お前は俺が護る」

「………目隠しさん…………」

「それが今の俺の使命だ………」


 そして私の手の平………薬指の部分に、目隠しさんの柔らかな唇が押し当てられた。まるでプロポーズみたいで…………、同時にラスト1発の大きな花火が打ち上がる。2人の新たな誓いを祝う様に、大きな花が夜空に咲いた。


「探しましたわよ!………って、何でそんなボロボロなんですの!?」

「へへ………、ちょっと、ね………」


 花火大会が終わり、神社に集まっていた人たちがどんどん帰路に着く中、私と目隠しさんはようやく和水たちと合流した。随分と心配してくれていたようだ。黙って消えたことを申し訳ないと思いつつ、その間にあった出来事は心の中に留めておくことにした。


「ハニー!足を痛めてるじゃないですか!俺が家までおぶっていきます!」

「じゃあお願いしよ………うわっ!?」


 正直足の痛みもかなりキツくて、歩いて帰るの辛いなあなんて考えていた矢先の吉光の提案だったので、ここはお言葉に甘えて………とか思っていたら、突然宙に浮く体。相変わらずスマートに私を抱き抱えてくれている目隠しさんがいて、その顔は少し不機嫌そうである。


「………俺が運ぶ」

「あ、ありがと…………」

「まあ!ずるいですわ恋白!私も足を痛めれば良かった!」

「なら吉光に頼んだらどうじゃ。どうやら背中が空いているみたいじゃからな」

「結構ですわ!!!」


 毎年恒例の花火大会。今年は色んな意味で、きっとずっと忘れることのない、印象深い花火大会となった。


 ………花凛、気持ちが伝わって良かったね。

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