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142 戦術合同演習 噛み合わない評価

「レオナルド、自覚はあるな」


「はっ」


 クラウスはオスヴァンの言葉に、「そうだそうだ」と心の中で頷いた。

 レオナルドはしっかりと注意されなければならない。そう考えていた。


 しかしオスヴァンの叱責を聞くと、クラウスが思っていた“危険な行為”とは違う。


 オスヴァンは、クラウスに向けられた〈氷槍〉を、訓練で行うべきでない危険な攻撃とした。

 至近距離から顔面と腹に目掛けたものである。

 しかしクラウスとしては、それはどうでも良かった。


 クラウスが危険だと思ったのは、最後の〈氷矢〉だった。


 跳ね飛ばしたとき、その反動でクラウスのスピードは一度緩んだ。

 しかし〈氷矢〉に気付き、再び即座に駆けた。


 ――レオナルドを守るために。


 レオナルドは、予期した衝撃を身に浴びなかった。

 クラウスがレオナルドを庇ったからだ。

 抱え込む形で、レオナルドを庇った。

 そのためレオナルドは、〈氷矢〉をほとんど浴びなかった。


 レオナルドが珍しくぽかんとしていると、レオナルドを離したクラウスが言った。


「危ないだろ!」


 そうやって、怒った。


 レオナルドとして、自分も当たるものなのだから、〈氷槍〉よりも格段に威力は下げている。

 クラウスが退場と判断されるギリギリを狙った。


「威力は下げてる」


「そういう問題じゃない。お前、仰向けだぞ。受け身だってまともじゃないし、顔だって怪我したかもしれない」


 自分への攻撃ではなく、レオナルドが怪我をするかもしれなかったことを心配するクラウスが可笑しくて、レオナルドは思わず笑いを溢した。


 寝転んだまま「ハハッ」と笑ったため、眼前にあったクラウスの顔はさらにレオナルドに寄せられた。

 その表情は非常に険しく、側から見ると猛獣が人を喰うかのようだった。


「おい、聞いてるのか」


「普段のお前の攻撃のが危ない。それより、俺もお前も脱落だろ。下がるぞ」


 そのとき、五班の勝利が響いた。

 にもかかわらず、クラウスはむすっとしたままだった。


 むすっとしたまま、レオナルドに右手を差し出す。

 その手を握ったレオナルドを、引っ張り起こした。


 そしてレオナルドに「行くぞ」と言われるがまま整列したが、クラウスの不満は収まらなかった。


 だからオスヴァンがレオナルドの危険行為を言及したとき、たくさん叱ってほしいと思った。

 けれどそれは、彼が求めたものと違った。


 納得がいかなかったので、終わったら再度レオナルドに文句を言おうと決めた。


「――それと、最後の〈氷矢〉についてだが。あれはクラウスの攻撃を受ける前と後、どちらのタイミングで放った」


「後です」


「自分は脱落したと思わなかったのか」


「この後脱落の宣告を受けると思いましたが、あの段階では『生きている』と判断しました」


 それに対してオスヴァンが口を開こうとすると、ミュラーが横から口を挟んだ。


「まぁそれについてはいいじゃないですか。この演習のルールは、オスヴァン教官に告げられたら脱落でしょう」


 遠回しに、「すぐさま“脱落”と言わなかったお前が悪い」と言われたようなものである。


 コンマ数秒の裁定だ。しかも終盤戦場は二つあった。

 他の誰であっても難しかっただろう。


 だが口にしたところで言い訳にしかならない。

 オスヴァンは苦渋を舐めた。


「ふぅ……わかりました。その件については、不問としましょう。しかしその他の危険行為については罰を科す。いいな」


「はっ!」


「お前の攻撃は訓練で許される範疇を超えていた。まずはその点について反省文の提出。加えて追加訓練として、校庭を二十周と魔術訓練。魔術訓練の詳細は後で伝える」


「はっ!」


 そのやりとりに、イヴァールが手を挙げた。


「コイツの場合、それくらいじゃ罰にならんだろ。しばらくの間パシリもさせよう。いいか、一週間、お前は俺らのパシリだ」


 “パシリ”という俗な単語に、ミュラーが『教育の場に相応しくない』と言いたげに眉をひそめた。


 オスヴァンは、イヴァールの意図的な言葉遣いとミュラーの反応に頭を抱えたくなったが、表には出さずに首を縦に振った。


「そうだな。雑用を命じるので、従うように」


「はっ!」


 レオナルドは、「まぁ仕方ないな」と思った。

 雑用によって時間を拘束されるのは痛いが、自分の尻拭いだ。


 クラウスから感じる、もの言いたげな視線は無視した。

 前を向け、前を。このあと総評だぞ。

 レオナルドが心の中でツッコむが、クラウスには伝わらない。


 オスヴァンによる各班への評価、他の教員や教官からの言葉が伝えられる。


 教員たちは速すぎる攻防についていっておらず、特にクラウスとレオナルドの攻防には目が追いつかなかった。

 だからこそレオナルドの危険行為への認識が甘く、二班全体への評価が高かった。


 教官も二班と五班全体への評価は高かったが、クラウスとレオナルドの戦いについては苦い顔をした。


 そんな中、イヴァールはゆるく笑いながらクラウスの〈障壁〉の使い方を評価した。

 はじめの追いかける〈障壁〉は面白かったと伝え、ジアナードから仲間を守った〈障壁〉、戦場を隔てた〈障壁〉、そしてレオナルドの攻撃を防いだ〈障壁〉それぞれの違いについて触れた。


 〈障壁〉に関しては真似ができることではないが、一つの魔術を様々な観点で切り取ることはできると生徒に伝えた。

 そのときミュラーが顔を歪めていたのを、オスヴァンは視界の端で確認した。


 この後の、最終的な評価を決める教員全体での会議は揉めるな。

 嘆息を押し殺しながら、オスヴァンは授業を締めた。

次回のタイトルは、「学校へ戻りて」です。

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