143 戦術合同演習 学校へ戻りて
全員で学校に戻り、この日の訓練は終了となった。
クラウスは、授業が終わったらレオナルドに文句を言おうと決めていた。
そして実際、「おい」と声をかけようとした。
――かけようと、した。
「やったな!」
声をかける前に、コックスに肩を組まれた。
組まれたというか、クラウスは大きいので手を伸ばされただけに近かった。
「勝ったな!」
コックスの満面の笑み。
まだダメージの抜けきらないトマスも、嬉しそうだ。
「勝った! 優勝だ! ダリオも、やったな! お前らすごかったよ、本当に」
コックスは感極まった様子だ。
試合で出し切ったということもあり、まだ興奮が冷めやらない。
「すげぇな! 一瞬だった。全部がまとまって一瞬だった。正直最後は全然わかんなかったけど、すげぇよ。最高だよお前ら。……あぁくそ、俺も最後まで立ちたかった」
ちくしょう、と溢すコックスは、言葉通り悔しそうだった。
「勝ったくせに悔しがるなよ」
ケイランが会話に混じる。
先程ぼこぼこにされたトマスはビクッとしたが、当のケイランはいつもと同じ笑顔である。
ボコった様子を見ていたダリオは、珍しくちょっと引いた。
他の二班の面々も輪に加わった。
「いい試合だったな」
コンラッドがクラウスにニッと笑う。
「途中意識が飛んでたのが残念だよ」
〈障壁〉と〈水球〉で攻撃したクラウスはちょっと気まずかったが、コンラッドは責めたいわけではないらしい。
差し出した手を、クラウスが握る。
コンラッドはまだ少し濡れていたが、気候のおかげもあり寒くはなさそうだった。
わいわいと盛り上がるふた班に、他の班が声をかけて解散していく。
「お疲れ。お前ら全員強かったよ」
「クラウスとレオナルドだけじゃなくて、全員えぐい」
「どんな会議したのかとか他にどんな戦術があったのかとか、今度教えてくれ」
嫉妬ではない。向上心だ。
二ヶ月がっつりぶつかって、向き合ったからこその距離感。
「どうせなら全員で話そうぜ。つっても、今日はくたくただからまた今度な」
コックスの台詞に「そうだな」と口々に返す。
視線を少し上にやり、コックスが続けた。
「レポートとか、他の授業の兼ね合いとか考えると来週くらいか? 俺らも手の内晒すから、全員隠し事なしでいこうな」
五班の中のまとめ役はダリオだった。
その分コックスは中間管理職のような立ち位置をしていた。
その経験のせいか、皆の間に立つのが以前より上手くなった。
繋ぐのは、元々そういった立ち位置がうまいケイランだ。
「そうだな、調整しよう。あとで各班一人ずつ代表を出してくれ」
テオドールが「わかった」と頷き、他の面々も「おー」と返す。
そんな中、気配を薄くした男にケイランは釘を刺す。
「――サン、サボるなよ」
「ちっ。はいはい、わかったよ。決まったら教えてくれ。俺は疲れたからもう部屋に戻る」
「なんだよ、もう少し話していこうぜ」
コックスは、今度はサントスの肩を組んだ。
彼らの身長は近いので、今度は正しく肩を組めた。
肩に回された腕を外しながらサントスが言う。
「主役の一人のレオだってもう居ねえし、俺も消えていいだろ」
「レオは校庭二十周があるからなぁ」
コンラッドが苦笑した。
ここに居る者は、レオナルドの危険行為をあまりわかっていない。
戦闘中だった者、まだ頭がはっきりしていなかった者、ダリオたちの方を見ていた者、クラウスたちを見ていたが攻防が速すぎて理解できなかった者。
彼らの視線は、自然とクラウスに集まった。
「危なかったのか?」
ケイランが訊いた。
クラウスはむすっとして答えた。
「危なかった」
「オスヴァン教官の叱責も強かったもんなぁ」
ケイランのあきれ笑いに、クラウスは「違う」と言った。
「違う?」
問い返すケイランに、クラウスが答える。
「教官が言った攻撃は、別にいい。俺は、最後の〈氷矢〉が危なかったと思う。防御できない状態で浴びたら怪我するのに。受け身もとれないくせに撃った」
おや、とケイランは思った。
どうやら真面目に怒っているようだ。
クラウスはあまり怒りを見せない。
人を怖がらせないように父とレオナルド以外には怒りを我慢してきた結果、側からは穏やかな生き物に映る。
そんなクラウスが、唇を尖らせ、「不服だ」と表す。
「文句言ってやれよ」
サントスの煽るような言い方に、おいおいとコンラッドが止めようとする。
「試合中も言い争ってなかったか? ……いや、争ってはなかったか。なんかクラウスは厳しい顔してたのに、レオの方は笑ってただろ。あいつは頭がいいくせに性格が悪いからなぁ」
『人間性に問題がある』とでも言いたげである。
クラウスはレオナルドの性格を悪いとは思わないし、いいやつだと知ってる。
だけど、無茶するところは駄目だ。
「行ってくる」
皆に背を向け、校庭へ駆ける。
罰走を一緒に行いながら、たくさん文句を言ってやる。
殴り合いながらじゃないから、うまく言葉にできないかもだけど、危ないことはするなって伝えてやる。
伝わっても「はいはい、わかったよ」と聞き流される気もするけど、その先は走りながら考えよう。
本日二試合し、しかも決勝戦では多くの役割を果たした男が凄まじい速さで駆けていく。
だけど皆そこに畏れはなく、ただ日常に戻っていくのだと感じた。
次回のタイトルは、「最終評価」です。




