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眠り姫

 その日、ミンスターの町は雪が降っていた。

 と言って空は明るい。晴れと言っていいほどに太陽は輝いており、雲も少ない。

 しかしながら雪がちらほらと降っている。それは幻想的ともいえる空模様だった。

 降雪している事からわかるように、気温は低い。だが、空模様はいっそ暖かささえ感じるような光景である。

 実際、窓から外を眺めたならば、外の気温は暖かいだろうなと思ってしまうような、そんな天気だった。


 そんな日の、とある宿屋。

 堅牢とは言えない作りの、いや、もしかすると元々は堅牢だったのかもしれない建物だが、増築や改築、補修や修繕を繰り返してボロボロに見えるその宿屋には入り口に看板が掛けられており、そこには『肝臓の目的地』と書いてある。

 なんでもこの辺りでは臓器や体の一部を入れた名前を屋号にする事が流行っていた事があるらしく、周りの店も『胃の休息』という軽食屋があったり、『十二指腸泣かせ』という武器屋があったりする。

 ともあれ、宿『肝臓の目的地』の軋むドアを開けると、一階は軽食が食べれられる場所になっていた。

 宿と言えば酒場が一階に併設されている事が多いのだが、ここはそうではない。

 だからこその看板の名前かもしれないが、ともあれ、酒場の喧騒は早いだろうという年頃の人間を宿泊させるには好都合な店でもある。

 そして、足を置くたびにギシギシと音を立てる階段を上った二階の一室に、6人の男女が集まっていた。


 一人目は、金髪碧眼の青年である。着ている青い襟付きのシャツは、皺の無さこそ几帳面さを現しているが、全体的にゆったりとしていそうなシルエットと袖口にボタンがない事でラフな印象を与えていた。

 今は椅子に姿勢よく座っている。

 もう一人は同じく金髪碧眼の少女である。顔つきも似ており、一見して兄妹なのだとわかった。実際に二人は双子であり、整った造形はまるで作り物の様だった。

 着ている物は先の青年と色違いのお揃いであり、彼女は真っ赤な衣服を纏っている。

 そんな彼女は、ベッドに腰掛け、ギターと呼ばれる楽器の調整をしている。


 そして、そのギターの調整が終わるのを心待ちにしている様子の同世代の人間が四人、並んで椅子を並べ座っている。

 その4人の内の1人、背の高い茶髪の女に向かって青いシャツの青年が、自身の前髪の辺りを指さしながら声を掛けた。


「ベズィー、それ、最近買ったの?」


「あ、気付いた? 可愛いでしょ」


 ベズィーと呼ばれた背の高い茶髪の女は、前髪に着けている髪留めに手をやりながら恥ずかしそうにしている。


「うん、似合ってるよ。ところでそれってなんだろう、トカゲ……いや、カメレオンかな?」


「惜しい! これはね、カメレオンモドキっていうイグアナだよ!」


 ベズィーがにこにこと笑って答え、次いで隣に座る長髪の少女に、「ね、トーアーサ」と同意を求めたのだが、トーアーサと呼ばれた女は、しっかりとアイシャドウを塗られ、瞼はキラキラとラメが光るその目元をベズィーに向け、少し嫌そうに答える。


「知らないけど」


「冷たい! あ、イグアナが変温動物で、かつては冷血動物と呼ばれていたっていう事に掛けてるって事?」


「いや、それほんとに知らないから」


 二人のやり取りに、堪らずといった体で割って入る青年がいる。彼はギターを持った金髪碧眼の少女の方を指さしながら言った。


「おい! お前らうるさいぞ! 折角シモンが『音楽』を聴かせてくれるっていうのにさ!」


「コギルの方がうるさいよ……」


 熱くなりかけていたコギルに、小さな声で言った体の小さな少年。だが、しっかりとコギルの耳に届いていた。

 じゃれ合うように「言ったなポルル!」「ごめん! やめてよー!」などといいながら、コギルがポルルをくすぐったり、それを避けようと身を捩ったりとしている。

 それを見て、一同は笑う。

 大した事は起きていない。面白い大きな出来事が起きたわけではない。

 けれど、目の前で起こる一つ一つが楽しくてたまらない。それはきっと天気がいいというだけで笑顔になるような、そんな平和で、満たされた笑顔だ。


 金髪碧眼の青年、ヨハン・トリスメギストスは、今幸せだった。

 友と過ごし、助け合い、笑い合う。これが幸せでなくて何だというのだろうか。

 こんな機会を与えてくれた父に心の中で小さく感謝の言葉を伝えようと目を閉じかけたが、その行動に何かを感じたのか、シモンが首を傾げるようにして口を開いた。


「どうしたのお兄様?」


「ああ、ごめん、なんでもない」


 手を上げながら苦笑してそう答え、皆に向かって口を開いた。


「じゃあみんな、そろそろ始めようか。シモン、準備は?」


「うん、いいよ。でも、どの曲がいいかな……」


「たまには、父上じゃなくてシモンが作った曲でもいいんじゃないかな」


「うーん……わかった。じゃあそれで!」


 言って、シモンはギターに指を這わせ、音を奏で始めた。


--------

眠り姫

作詞・作曲:シモン・トリスメギストス


街はいつまでも眠らない

寒くても冬眠すらしない

眠らない街でいくら過ごしても

眠くて眠くてしかたない

だから目をつむって全てを閉ざして

布団をかぶって全てを遠ざけて

それでも眠る事はできなくて

心の奥底で「はあ……」

眠る事を拒んでる


だって、こんな過酷な場所でも

だって、本当は楽しみたくて

だって、眠って逃げてても

なんにも変わらないから


あなたはベッドから出る勇者

私は未だに囚われたお姫様

いつか連れ出して欲しいと

望んでいるかぎり出る事は出来なくて


誰かが言い訳する悪魔

自分が理屈を生み出す魔王

倒すのは誰でもない

自分自身じゃなきゃいけないんだ


だけれどもねむいんだ


街の灯りは消えない

夜は静かすぎて眠れない

いくら部屋の電気を消してみても

眠れなくて眠れなくてしかたない

だから目をつむって逃げだして

布団を被って丸まっても

それでも眠る事は出来なくて

心の奥底では眠っちゃいけないって叫んでる


だって、こんなに明日に絶望して

今の自分にも諦めて

だから、眠って全てを忘れても

なんにも変わらないから


あなたは布団をはねのける王女さ

私はいつも何もしないお姫様

いつか連れ出して欲しいと願うけど

いつかなんて日はやってこない


わたしが言い訳する悪魔

世界が絶望を生み出す魔王

倒すのは誰でもない

自分自身じゃなきゃいけないんだ


だけれどもねむいんだ


--------


Tips

※作中に出てくる曲について、文だけでは伝わりにくいと思うので参考までに作成しました。

 気になる方は以下のリンクから視聴できます。

https://www.youtube.com/watch?v=0CO1PYcjsSw

 

Tips

※作中に出てくる曲について、文だけでは伝わりにくいと思うので参考までに作成しました。

 気になる方は以下のリンクから視聴できます。

https://www.youtube.com/watch?v=0CO1PYcjsSw

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