048
エフネの言うとおり、魔方円の繋がる先は最上階だ。
そこは『魔王の間』と言うところで、厳かな雰囲気が出ていた。
空気も冷たくピリつく中で、俺たちが次に意識を目覚めたときはエフネが驚いていた。
「ここは……」
王座の間だけど、雰囲気が少し違う。
黒い大理石の中、薄暗い王座に一人の若い男が座っていた。
「やっぱり来ると思っていたよ、男駆」
喋ったのは、王座に座る男ではない。
隣にいる赤いフードの男。ダボダボの赤いローブを着ていた。
頭に紋章の入った赤いフードを外すと、その中から顔が見えた。
「恵太っ!」
「ケイっ!」
俺とスピカが、恵太に向けて同時に叫ぶ。
恵太がその声を聞いた瞬間、頷いていた。
「久しぶりにこの世界に戻って最初に会うのが、君で良かったよ。男駆」
「何でこんなことをした?」
「そりゃあ、壊したかったからだよ。この世界を。汚いこの現代社会を」
「壊す?」
「聞いただろう、そこにいる魔王バロルの世界制服宣言を」
恵太の隣には、若くなった魔王バロルが座っていた。
不敵な笑みを浮かべて俺たちのやりとりを、腕を組みながら見ていた。
いや、むしろ俺たちの会話のやりとりを気にしていない様子だ。
俺たちと一緒にいるエフネの方を、じっと見ていた。
「エフネよ、帰ってきたのか」
「父よ、ここは私の家ではない。帰ったという言葉は、ふさわしくない」
「何を言う、ここはお前の家で……」
「違う、ここは私の知る世界ではない。
私のいるべき世界は、フォートマス大陸にある魔城トーリーだ」
エフネは、はっきりと言い放った。
それでも、若くなった父バロルは立ち上がった。
「では、お前は何の為に帰ってきた?」
「私が父の間違いを、正すためだ。
魔城トーリーは、ここにあってはいけない」
「そうきたか、エフネよ!」
「それに父は、そんな姿をしていない。父はもっと優しかった」
エフネは威圧感を放つ魔王に、それでも臆しないで言い放つ。
若い魔王バロルは、自分の娘をわらいながら見ていた。
「そうかそうか。エフネは、しわだらけの老人のわしが好きだったか」
そのまま、エフネの方に近づいて歩いて来た。
だけど、それを見ていたスピカが動いた。
「魔王よ。お前がやろうとする世界征服を、僕は絶対に認めない!」
走りながら、勇者の剣を取り出した。
魔王に対して、最も怒りを感じるスピカ。
そのまま勇者の剣を右手で握り、魔王バロルの方に走り出す。
「無駄なことを」
反応したバロルが、右手を突き出した。口元で呟くバロル。
ボソボソ聞こえた声で、エフネは反応した。
「いかん、あの魔法は闇超弾だ。あんなに短い詠唱で」
「もう、遅い!」
魔王の手から、真っ黒い闇球が出てきた。
迫る勇者に対し、闇球が飛んでいく。
「くうっ、かわせぬ!」
スピカの目の前で、闇珠が爆発した。
王の間に、煙が立ちこめた。
大きな爆発は、スピカに命中。
近くにいた俺も、爆風で吹き飛ばされていた。
(ダークシュメルゾンは、魔王最強の技。
それがあんなに、あっさりと使ってくるとは……)
俺は普通の人間だ。爆発に、巻き込まれたらひとたまりも無い。
爆発に直接巻き込まれなくても、爆風だけでも俺は吹き飛ばされた。
だけど、そんな僕を受け止めてくれたヤツがいた。
「大丈夫ですか?」
「え」俺を受け止めたのは、胸板の大きな人物。
俺の背中には、鉄の赤い鎧が当たっていた。
「お前は……もしかして」
「大丈夫なら良かったです、神『男駆』よ」
「俺の事を知っている?」
俺が見上げた男は、一人の戦士の顔が見えた。
中年の男で、赤の金属鎧を着ていた男が俺を両手で受け止めてくれていた。
そして、もう一人隣に緑のローブを着た女性も立っていた。
大きな樫の木の杖を持った女の杖から、煙が立ちこめていた。
「生きていたのか、アルク、デボネラ」
そうだ、新緑の魔女『アルク』。百戦錬磨の戦士『デボネラ』。
二人は、紛れもないスピカの仲間だった。




