045
(DANKU’S EYES)
地方の田舎町は、突然現れた大きな黒い城の登場で混乱していた。
五十土の運転する車に、助手席に僕は乗っていた。
鹿山は自分の乗ってきた車に、一人で乗って後をつけていた。
乗りながらも、カーナビのテレビを見ていた。
テレビでは、緊急放送に切り替わっていた。
「どこからどう見ても、魔城トーリーよね」
「そうだな。五十土が。デザインしたとおりだ」
運転している長い髪の五十土と、俺は言葉をかわしていた。
「いいデザインでしょ」
「こうしてみると、魔城はかっこいいよな」
「でしょー、でも……ミスマッチよね。秋田の町並みとは」
「それがいいのよ」カーナビのテレビに、映された魔城トーリー。
それでも、褒められて照れくさそうな五十土。
「ああ、あの地震で城が復活したと言うことか?」
「そうみたいね。時間帯的にも、間違いなさそう」
「魔晶石を投入して、魔方円をいくつも無理矢理起動させて……大きなモノを転送させると思ったが……まさか」魔王の娘エフネも、驚きが隠せない。
とにかく、その城に俺たちは向かっていた。
「しかし、神『男駆』よ」
後ろ座席から、スピカが俺に声をかけてきた。
「どうした?」
「魔王を感じる」身を乗り出して、女勇者がカーナビのテレビを指さす。
「感じるって?」
俺が聞こうとした瞬間、カーナビの画面が切り替わった。
それは、一人の白い肌の男性を映し出していた。
この姿を見て、俺はあることを思いだした。
「これって、若返った魔王バロルだ」
キャラのデザインを、俺は恵太に頼まれたので覚えていた。
かつての栄華を誇った若かりし魔王バロル。
白く透き通る肌に、画面越しからも伝わる魔王独特の威圧感。
「あら、イケメンね」
「間違いない、これはバロルの若いバージョンだ」
そんなカーナビ画面から、声が聞こえた。
「聞け、愚民共よ。我が魔王軍は、これより世界を征服する。
手始めに我が精鋭達により、この近辺を支配する。
愚民共よ、わしらに降伏しひれ伏すがいい」
その後、電撃のようなモノがカメラに向かって飛び込んだ。
すぐに画面が乱れて……ザーザー画面に切り替わった。
「とうとう魔王も、出てきたか」
勇者スピカは、唇をかみしめていた。
魔王の娘エフネは、心配そうな目で父を画面越しに見ていた。
「はっきり感じる、あの魔王。
これは魔力源の強さが遥かに上昇している。
この仕業は……精霊神官の『ケイ』か」
「確かに恵太が、ちらっと映っていたわね」
「ああ、ケイも手を組んでいたんだな」
「だとすれば、相当厄介だ。
グランドファンタジアの魔王と、『オベロンの鏡』を彼は持っているからな。
オベロンの鏡は芝童森も知らない、未知のアイテム。
だけど、あのアイテムは……無くなったタブレット」
「それに、精霊王オベロンの力が重なったと言うことは……」
「精霊王の力はとてつもない。全ての精神を操れる。
一番の力の脅威は、実体化だ」
「もしかして、ガネーシャの体力回復も?」
「そもそも、ガネーシャが言っていた神こそこの『恵太』だと考えていい。
だとすれば、この二人はかなり危険な取り合わせになるだろう」
「力を現実にする、精霊オベロンの言い伝えか」
スピカが知っていた。
グランドファンタジアの精霊王、オベロン。
それは全ての精霊を従え、使役することが出来る精霊の王。
タブレットの中には、グランドファンタジアのデータが入っていた。
武器の値段、魔力源の強さ、そして魔物の強さ。
ゲームの数値は、芝童森が設定していた。
だけどその数値は、恵太の持っているタブレットで変更が出来ていた。
グランドファンタジアの世界の一部をこの現代に持ってきた以上、見過ごせない能力だ。
「それより、エフネ。本当に、いいのか?俺たちと一緒にいても」
「私の父は、間違いを起こした」
エフネは、ニューススタジオに切り替わった画面を見ていた。
悲しそうな顔で、若返った父を見ていた。
「間違い?」
「時間に逆行し、若返ったこと。そして、この世界に攻めてきたことだ。
私はこの世界に、短い間だけど触れることが出来た。
だが、私たちはこの世界を支配してはいけない。力を用いてはいけない。
神『男駆』よ、父バロルは間違っていると思うだろう」
「ああ、間違っている。
俺たちの世界に、グランドファンタジアの魔王はいてはいけないんだ」
二つの世界が別々だから、いいこともあるだろう。
地球とルドファーク、二つの世界は交わることの内世界。
それでも今のように現代の世界には、魔王がいるのはおかしい。
始めは、夢のある世界だと思っていた。
非現実的で、わくわくする世界を俺は望んでいた。
だけど現実の世界に、魔王が干渉してはいけない。
魔王だけじゃない、本来ないものが存在する……それはゲームの中だけで充分だ。
「私は父を正す。父の間違いを正して、私は元の世界に帰る」
「やっぱりその決意は、固いんだな」
「うん、私は、やはりグランドファンタジアの世界の住人だからな」
最後はその一言を言われて、神として嬉しかった。
自分と、隣にいる五十土が、エフネの言葉に救われた。
「だったら急ぐわよ、このままあたし達は魔城トーリーを目指すから」
夕方の交通量の激しい道路を、五十土は運転しながら前を向いていた。




