030
夕方になって、俺たちは人数が五人になって帰ってきた。
結局大学に行ったはずなのに、大学の授業を受けること無く俺は仙志荘に帰ってきた。
芝童森は、そのまま大学に残って研究のために今日も泊まることだろう。
講義を受けられなかった俺は、単位を落としそうで内心ヒヤヒヤしていた。
赤いフードを着た鹿山は、未だに目を覚まさない。
あのタックルで、死んでしまったかに思えたが眠り声は聞こえた。
鹿山には、自分の部屋でそのまま眠らせていた。
俺はリビングで、運転手をしていた五十土を対応していた。
スピカと一緒に行動した五十土には、何から何まで頼りっぱなしだ。
「助かったよ、五十土」
「感謝しなさい。このあたしを」
「本当に感謝している、ありがとう」
「それでそっちも、随分といろいろあったのね」
「ああ。魔方円は見つかったし、女巨人騒動も出てきた」
「エフネちゃんが、ちゃんと止めたのよね」
「ああ、勇気のある行動だ。魔力源を吸い尽くせば……小さくなったし。
俺がデザインしたペストラとも、面識があった。
なんにせよ巨人騒動は、これで沈静化するだろうな」
昨今、大学やネットで騒がれた女巨人。
黒髪の女巨人ペストラは、風呂に入っていた。
小さくなったペストラは、エフネと一緒だ。
こうしてみるとペストラは、どこにでもいる女の子にしか見えない。
「ねえ、ペストラはグランドファンタジアではボスキャラだったんでしょ」
「ああ、巨人里のボス。
HPはトップクラスに高い……と芝童森が言っていた」
「それでも、小さいバージョンをあなたは描いていたのね」
「恵太の設定にあったし、女にしたのは俺の趣味だ」
「少女でしょ、ロリコンイラストレーター」
「うるせえ!」五十土にからかわれて、俺はそっぽを向いた。
それでも、俺のイラストを恵太は認めてくれたんだよな。
巨人族の設定で、大型化と小型化の見た目のイラスト。
ペストラ以外も何人か、巨人族の設定として幼い姿のイラストを描いていた。
思い出したように俺は、カバンの中から絵かき用のタブレットを取り出した。
そこには、グランドファンタジアのキャライラストがデータとして残っていた。
五十土に、俺はペストラのキャラデザインを見せていた。
「本当に趣味……の世界」
「裸の幼女とか、すごくいい感じだろ」
「でも、あたしは嫌いじゃ無いけど」
「それでも一緒に連れて歩くと、治安のいい日本なら警察行きだよな」
「刑務所入ったら、差し入れぐらいしとくから」
五十土は、悪戯っぽく笑って見せた。
俺はすぐさま、タブレット端末を閉まっていた。
「じゃあ、可愛い女の子が出ている漫画で」
「それは却下。というか、昔は結構硬派な漫画を読んでいたでしょ」
「まあ、今もそうだぞ。
絵で即買いする事もあるけど、ちゃんと内容で選んでいるかな。
そういう五十土先輩は?漫画を選ぶ基準」
「あたし?あたしは……格好いい太陽かしら」
「え?」
「太陽だけじゃ無くて、雲とか……そういうモノで選ぶわ」
「は、はあ」五十土の趣味は、独特だ。
まるで、気象予報士のような趣味に聞こえてしまう。
さすがは、グランドファンタジアのダンジョン担当といったところか。変わり者だ。
俺と五十土が、話をしているこたつテーブルの隣に、スピカがいた。
エプロン姿のスピカが、難しい顔でパソコンを見ていた。
「なるほど、こうか」
「どうした、スピカ?」
「神……『男駆』と『五十土』か」
パソコンの前に座っているのが、グランドファンタジア主人公の勇者のスピカ。
異世界出身のスピカだけど、最近はパソコンを覚えていた。
「実は、この動画を見つけたのだけど」
「これって?」
そこに出てきたのは、そこそこ有名なゲーム実況者のゲーム動画だ。
グランドファンタジアのゲーム動画で、見える場所はラスダンの『魔城トーリー』だ。
「他人のゲーム実況動画って、なんか見るのが怖い」
「ああ、俺もだ」顔色が俺と五十土は、優れない。
ネットの誹謗中傷に、俺も五十土も耐性があるわけではないからだ。
だから、そういう動画はあえて見ないように避けていた。
「おお、ついに見てしまうか、スピカよ」
「そう、それは禁断の秘術よね」
「そうなのか?」俺と五十土は、困惑した顔を見せた。
でも、他人の評価が気にならないはずもない。
だけどこういう所で書かれているものや呟かれることは、大体ロクな事が無い。
それが、現代ネット世界の恐怖だと俺たちは知っていた。
怖い物見たさで、スピカが開くパソコン画面をじっと見ていた。
そんなスピカが指さしたのは、一人の人物。
「これって……」
「ああ、鹿山か?」
出てきたのは、鹿山。
博物館に現れた姿と同じで、レッドクロークを着ていた。
顔はよく見えない、赤いフードの人物。
敵のモンスターとして、鹿山がいた。
スピカが見つけたその動画に、俺と五十土は釘付けになっていた。
「ねえ、男駆はこのキャラをデザイン」
「するわけないだろ!」
俺は速攻で、否定した。動画を見ながら俺は、頭を抱えていた。
(魔王軍の敵、鹿山……赤い精霊印の紋章。
なにが、どうなっているのか?)
俺が苦々しい顔で見ながら、隣のスピカに聞いていた。
「スピカ……確認したいことがある」
「なんですか?」
「赤いフードの精霊印、あれはなんだ?」
「私の仲間で、あのアザと同じ模様を見た事がある。
確か……あのアザは一つの精霊を示していて……そう『オベロン』だ」
「オベロンか。確かにそんな精霊を、俺は描いたな。精霊王オベロン。
全ての精霊を統べる精霊王、その中で相手を意のままに操る能力があったな。
能力設定は、芝童森が詳しいだろうか」
「そういえば、昼間にあったパイアの額にも紋章が見えた。
同じような精霊印を彼からも、確認できた」
「なるほどな。ペストラの体にも、あったのだろうか。
今頃は風呂場で、エフネが調べているだろう。
これらの精霊印は、何らかのつながりがあるはずだな」
俺とスピカが会話を、しているときだった。
俺たちのシェアハウスのリビングのドアが、急に開いた。
そのドアが開いた先には、一人の男が入ってきていた。
赤い服を着ていた鹿山が、眠そうな顔でドアを開けて俺たちの方に歩いてきていた。




