085 女子校で講演(2)
質問を受け付けたら、ひとりの女生徒が手を上げた。
「どうぞ」
「ありがとうございます。わたしは、2年2組の石川春美といいます。わたしは、男の人とドラマや漫画で描かれているような恋愛をしたいです。無理なんでしょうか」
切実な願いだった。同意見の人もいるのだろう。周囲で頷いている人もいた。
彼女たちは、いつでも出会いを求めている。
頑張れば叶うよなんて、その場しのぎの言葉を使いたくない。
なぜなら、俺は彼女だからだ。
もとの世界で俺は、彼女と同じことをずっと考えてきた。だから答えは決まっている。
「無理です」
俺がそう言うと、落胆の声が聞こえてきた。
「俺が思うに、いまのままでは、どれほど努力しても、どれほど着飾っても、可能性はかなり低いと思う」
「わかりました。ありがとうございます」
「あっ、ちょっと待って!」
座ろうとする彼女を俺は押し留めた。
話はここからだ。
「望んでも叶わないこと、努力が報われないことを俺は知っている。こと男女関係においてはそうだ。一方的な思いは相手の重荷、負担になることはあっても、助けにならない。俺はそれを……知っている。よく知っている」
思い当たるフシがあるのか、頷いている人が多い。震えている人もいる。
望んでも叶わない、努力は報われない。それは残酷な言葉となって、彼女らを打ちのめす。
もとの世界で……男女の数がほぼ同じ社会でさえ、俺はあぶれまくっていた。
あのときのどうしようもない、やるせない気持ちが蘇る。
俺の容姿は生理的に無理だったのだろう。
男女交際のスタートラインにさえ、立てていなかった。
だからこそ、俺は彼女たちに言える。
「君が望む、ドラマや漫画のような恋愛は、君がいくら望んでも無理なんだ。だって、相手が必要なことだから。君一人では、絶対になし得ない。だけどね、俺は最近思っていることがあるんだ。特区という壁があるからこそ、できることがあるんじゃないかって」
俺はロックじゃないから、既存の社会を壊したいとは思わない。
だけど、いまの社会は俺から見て、かなりいびつだ。
このいびつな社会を壊すのでも、正すのでもなく、利用してはどうかと思っている。
そう、現状を利用するのだ。
「男性の意識が変われば、そしてそれを社会が許容するならば、君の願いは無理なことじゃなくなると思う」
「ほ、本当ですか?」
「ああ、社会がそう変われば……ただね、変化というのはすぐにおきないし、望む方向に変わるかも分からない。けど、俺は……俺自身は変えていきたいと思っている。それに巻き込まれる男性や女性がきっとできるはずなんだ。だから、こう言い換えよう。現時点では無理です。そのかわり、準備だけはしておいてほしい。もしかすると、そんな未来がすぐに来るかもしれないから……」
なぜ俺がこの世界に来たのか。
女神の白穂に連れられてだし、女神のお気に入りをこの世界から脱出させるための代わりだ。
俺自身に特別な何ががあったわけではない。
ようは凡人。ただのモブ。モテたいと願い続けてきた、ただの男だ。
だけどこの世界で唯一、俺はモテない人の心が分かる男だ。
俺はモテない人のために、俺は行動したい。
世の女性たちは、あんな苦しい思いをしているのだ。
多くのものや人を利用してでも、あのモテない絶望を少しでも和らげたいんだ。
自室で「モテてぇ~~~~」と叫んだあの日。
モテたくてモテたくて、どうしようもなかったあの日から俺は変わった。だったら、彼女たちだって変えられる。
「もしかすると、そんな未来がすぐに来るかもしれないから……待っていてほしい」
俺の回答が終わると、会場から拍手が鳴り響いた。
今日、俺ははじめて自分の心の内をだれかに話したことになる。
もう後戻りはできない。
期待してくれる人を裏切らないためにも俺は、前を向いて進もうと思う。
「他に質問はあるかな」
「いいですか?」
「どうぞ」
次に立ち上がったのは、比較的服装が乱れていない女子だ。運動があまり得意でなかったのだろう。
「ゲームやアニメのキャラが大好きで、お小遣いはそれのグッズにすべてつぎ込んでしまいます。やっぱり、異常でしょうか?」
なんとなく悲壮感が漂っているが、ヲタク文化が花開いていないこの世界の場合、十代の悩みとしてはありふれたものだと思う。
もとの世界でもそれなりにいたし、そういうのをオープンにする人は大勢いた。
「悪いことではないと思う。だけど、グッズはどこかの会社が出したものだよね。好きなキャラクターの生みの親というのかな。作者や製作者に直接利益が行くようなお金の使い方もあるかなと思うんだ」
グッズやコラボ商品を買い漁るのもいいが、ただ企業を儲けさせるだけの気がしてならない。
だったらもう少し作者に直接還元されるようなお金の使い方があってもいいような気がしている。
「それかキャラクターではなく、実際の人物に目を向けてみるとかだね。俺はそっちの方が好きだな」
「そうですか! ありがとうございます」
握手するために大量のCDを買うのもどうかと思うが、キャラクターよりもそういった生身の人間を相手にする方が俺は好きだ。
そこまで考えて俺はいいことを思いついた。
これはあとでとっておくとしよう。
「次の質問は?」
「はい。特区外に住んでいる女性について、どんな印象を持っていますか?」
直球を投げ込んできた。回答しだいでは、彼女たちを大いに落胆させてしまうだろう。
「そうだね。俺が知っている特区外の女性は、班外交流で話した人と君たちだけになるんだけど、それだけで特区外の女性を語るのは少し難しいと思う」
サンプル数が少なすぎるのだ。
「それでも俺の身の回りで特区外に住んでいる女性に限定して回答するね。彼女たちは総じて遠慮しすぎだと思う」
講堂がざわっとした。教師たちも驚いている。
「こう言い換えようか。生まれた場所が、もしくは住んでいる場所が少し違うだけなのに、人として大きく違っているんだと思いこんでいる。努力はしている。それでもかなり低い自己肯定しかできていない。つまり、自信を持てていないんだ」
これは本当。みんな必要以上にかしこまって、縮こまっている。
「だからそうだね。印象としては、背を丸めて自分を小さく見せようとしている感じかな。俺はもっと背筋を伸ばした女性が好きだ。大きく見せようとしなくていい。ただ、前を向いてほしい。等身大の自分をしっかり出せる女性に好意を持つ。だから、特区外だからといって、変に気にする必要はないよ。つまりね。俺に女性の印象を聞くなら、特区内、特区外と分ける必要はないんだ。少なくとも、俺は分けていない」
俺の回答が意外だったのか、質問した女性は涙ぐんでいた。
そのとき視界の端に奉活局の女性がうつった。どうやら、終わりの時間が近づいたようだ。
奉活は3時間と決まっている。この清麗女子高校では、朝9時から12持まで。
このあとも2件の奉活を控えているのだから、時間オーバーはできない。
「どうやらそろそろ終わりの時間がやってきたらしいんだ。最後は君たちと会った記念に一人ずつ、握手をして別れたいと思う」
講堂が揺れた。
地震ではない。
「君たちから見て右側の階段から上って一人ずつ壇上に来てくれるかな。握手が終わったら、左の階段から下りてくれればいい。それじゃ押さないで、順番にね」
俺の希望通り、彼女たちは喧嘩することなく、きれいに列をつくって並んでくれた。
ついさっき、CD付き握手券のことを思い出したとき、ふと思い立って、やってみようと思ったのだ。
俺は最後のひとりまで、彼女たちと握手し続けた。
この握手は生涯、忘れないと思う。俺も、彼女たちも。
というわけで、女子校での奉活が終わりました。
三章は、奉活ともう一つ(まだ謎)がメインテーマです。
感想よろしくお願いします!
それでは明日!




