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084 女子校で講演(1)

 講堂まで歩いている途中、奉活局の二人が近寄ってきた。

「私たちがいますが、それでも危険なことはお控えください」


「すみません。ですが、学校側の対応が少し……」

 西条さんの言葉に俺は小さく頷く。勝手なことをしたのは本当だからだ。


 だが、それを言えば、学校側だって許されないことをしている。

 なぜ俺をJKから遠ざけたのか。


「何か問題がありましたか?」

「問題……事前の打ち合わせと違いましたよね」


 奉活で何をしてほしいか、事前に要望をもらっている。

 職員会議をして内容を決めたと聞いたが、蓋を開けてみれば説明と違っていた。


「学校側からは、講堂で生徒たちに話をしてほしいと要望がありました」


「そうですよね、俺はそれを引き受けました。だけどあれは違う。校長室で話なんて、聞いていない」


「多くの女性と一緒にいる時間を少なくしようと思ったのだと……普通のことでは?」

「ああ、奉活局のあなたが、それを普通というのですか」


 俺はいま、失望した顔を西条さんに向けていると思う。

「極力、男性との接触を避けるのは、行き届いた配慮だと思います」


「なるほど……でしたら俺の講演を聴いてください。そうすれば少しは分かるかもしれません」

「分かる……ですか?」


「ええ、さっき俺は朝礼台の上にいました。ですが気持ちは、気持ちだけは、彼女たちと一緒だったんです。彼女たちもそれが分かったんじゃないですかね。仲間意識というか、同族のにおいを嗅いだのかもしれません」


「同族の……におい?」

 首を傾げる西条さんを置いて、俺は講堂に入っていった。




「「「――きゃああああああっ!!」」」


 すでにかぶりつき席に陣取っている彼女たち。

 お上品に整列なんかしていない。だが、それがいい。


 教師たちは講堂の左右に散っている。

 どうやら、俺のやり方が分からないため、口を出せないようだ。


 変にこの場を仕切って、機嫌を損ねたら大変だと思っているのだろう。

 こういうとき、男性だと便利だなと思う。


 先ほど西条さんに同族のにおいと言ったが、この講堂に漂うにおいはあれだ。女臭い。

 女性の体臭と汗のにおいがムンムンとしている。ちょっと前屈みになっていいだろうか。


 舞台にあがり、マイクの前に立つ。


「あらためて自己紹介したい。俺は宗谷武人という。伊月高校の一年生だ」

「「「きゃああああ」」」


「俺は十六歳になったんで、奉活に行けるようになった。だからはじめての奉活先にここを選ばせてもらった!」


「「「ぎゃあああああああああ!!!」」」


 JKの絶叫が止むまで、俺は何も話せなかった。


「みんなありがとう。さっきの騎馬戦、楽しかったよ。……だけどね、聞いてほしいんだ。奉活するにあたって、学校から今日この場で話をしてほしいと言われたんだ。だけど俺は校長室に案内され、みんなは外で騎馬戦の予定が入っていた」


 ぶううううううと、一瞬でブーイングがはじまる。

 講堂の端の方から「違うんだー」と声が聞こえるが、俺は無視する。


「実はね、俺はこれと似たような経験をしたことがあるんだ。高校の入学式での話を聞いてほしい……あっ、その前に。あとでみんなから質問を受け付けるから、俺の話を聞きながらでいいので、考えておいてほしい。……恋の悩みでもいいよ。俺はモテないから、答えられるかどうかは分からないけど」


 彼女たちが笑う。「そんなことない」、「愛してる」と声があがる。

 つかみはオーケーのようだ。


「入学式の日、俺は前を歩く女性にぶつかってしまった。その勢いで、別の女性の胸まで揉んでしまったんだ。……いまでもこの手に、そのときの感触が残っている」


 俺は当時のいきさつを語った。


「教師は、彼女たちが悪いという。不可抗力でも、男性にぶつかった方が悪いのだと。たしかに学校中の生徒が不可抗力でぶつかってきたら、俺の身体はタコのようにぐにゃぐにゃになってしまう。学校中の女子からマスハラを受けたら……俺はいいけど、ストレスで不登校になる男子はきっと出るだろうね」


 できることなら、全員の胸を揉んで回りたいくらいだ。


「学校の班制度はとても優秀だと思う。本当によくできていて、一人二人なら難しいことでも、三人以上がいれば、なんとかなることも多い。話す相手を制限することで、男性は多大なストレスから解放されるからね。きみたちも、俺と一対一で話したいでしょ? もしできるなら、毎日でも話したいと思うよね。でも実際にそれをやったら、朝の挨拶だけで一日が終わってしまう」


 班外の女子はおもしろくないだろうが、男女比がぶっこわれているおかげで、すべての女性の希望は叶えられない。


「だけどね、俺は思ったんだ。これでいいのかって」


 俺の話を聞く彼女たちが「……?」と、一様に首をかしげた。

 意味が分からなかったらしい。


「今日だって、みんなは俺と一緒にいられる時間を一方的に削られるところだったんだよ? 入学式の日、俺は思ったんだ。このままじゃいけないって。せめて俺の周囲にいる女性……みんなのことだよ。その女性たちだけでも、あんな目には遭わせたくないって!」


 俺はつい最近までやっていた「班外交流」の話をした。

 クラスの女子と直に交流する。その行動力に、彼女たちは大いに驚いていた。


「いまの環境がよくできたものなら、それでもいい。でも俺は動く。男性から動けば問題ないのは、入学式のときに分かったんだ。いまは俺だけだけど、積極的に動く男性が増えれば、社会の見方も変わってくるんじゃないかと思う。そう考えたとき、だったら『俺から変わろう』って思ったんだ」


 意識を変えるのは難しい。

 悪いことだ、やってはいけないことだと言われ続けた意識は変わらない。


 だからまず俺が動いた。俺に続く人が現れることを願って。


「いまキミたちは、萎縮しているんだ。無意識のうちに構えてしまっているんだ。男性に近づいて触れたら社会的にどうなるのか、それこそ小さい頃から言われてきたんだからね」


 以前の自分もそう。

 モテなかった俺は、女子と話すだけで構えてしまう。


 嫌われるんじゃないか、それを態度に出されるんじゃないかと怯えていた。

 そう、以前の俺は、怯えていた。彼女たちと同じように。


「だから最初の話に戻るよ。俺は、自分から女性と関わるためにここへ来たんだ。キミたちが男性と関わりたいと思うのと同じだけの気持ちを持ってここにきた!」


 いつからだろうか。

 講堂がシーンとなっていた。


「みんなは無意識のうちに必要以上に男性へ近づくのを構えてしまっている。だから俺が動いたんだ。それがここへ来た理由。……宣言しよう! 俺はこれから多くの女性と関わっていく。みんなのことだって忘れない。あの騎馬戦は凄かったって、ずっと覚えている。俺は行動を続けるよ。……すぐには無理かもしれないけど、五年、十年したら、何かが変わっているかもしれない。そこのスタートはここなんだ。みんなはその証人。俺がはじめて奉活に選んだ、栄えある一番目の場所なんだ」


 そこまで話したときに気づいた。

 何人かが、まるで信仰の対象を見つけたかのような瞳で俺を見ている。


「社会は相変わらず厳しいけど、男性からなら、いくらでも関われると思うんだ。だからそういう人が増えることを祈って、俺と一緒に新しい男女のあり方を考えてほしい」


 うまく伝わったか分からない。

 だけど言いたいことは言えたと思う。


 男性が手を差し出したら、女性からも握り返してほしい。

 それがこのいびつな社会の中で掲げる、俺のアンチテーゼなのだから。


「話はこれまでにしよう。ここからは質問を受け付けるよ。みんなが俺に聞きたいこと。さっきも言ったけど、恋愛相談でもいい。何かあったら、手を上げて質問してほしい」


 俺がそう言うと、彼女たちの中から、「はい」と静かに手があがった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 山猿の群れを町に解き放つイメージが浮かんできましたわ
[一言] ジャニーズが女子高にきたみたいな感じかと思いきや フッ……冗談はよせって言った直後に身内に殺された人の演説みたいだ。 姪っ子「以外と兄上も甘いようで…」 甘い顔し過ぎていつか刺されそう((…
[気になる点] 主人公、体制に喧嘩売るなら、予め自分がする予定を伝えて相手の段取りの了解を取らなあかんだろう。 波紋を立てるなら迷惑するのは体制側なんだから、そんな配慮も出来ない自分勝手な糞だと思った…
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