086 次の奉活場所へ
最後の握手はいい案だったと思う。
生徒だけでなく、校長先生や他の先生たちも並んでいた。
時間が押しているということで、結局校長室に寄らずに出発した。
少し悪いことをしてしまったと思ったが、学校側の言いなりになって、校長室で時間を潰すより、有意義な奉活だったと思う。目の保養にもなったし。
午後1時から次の奉活がはじまる。とりあえず昼食だ。
個室のある飲食店に予約を入れてあるということで、そこへ向かう。
到着してすぐ、豪華な膳が出てきた。
彩り鮮やかで、目と舌を楽しませてくれるのだろう。
俺としてはファストフードでいいから、その分バイト代に上乗せしてほしいとちょっと思った。
「これ、食べるの、俺だけなんですね」
奉活局の二人は、素うどんをすすっている。なんだろ、この差。
黙々と食事を続けていたとき、ふと思い出した。
女子校の奉活が終わってから、彼女たちはほとんど喋っていない。
もしかして、勝手なことをしすぎて、怒ってしまったのだろうか。
だとしたら申し訳ない。今後のためにも聞いてみることにした。
「いえ、いつもこうです」
「男性との会話は必要以外しないように言われています」
「そうなんですか。まあ、そうかもしれませんね。お二人は、よくこうやって奉活に同行しているんですよね。普段はどんな感じなんですか?」
「申し訳ございません。そういったことは口にしてはならないことになっています」
「はあ、そうですか。だったら、俺の奉活はどんな感じでした?」
「私どもは、意見や感想をしてはならないと言いつかっております」
「な、なるほど……」
言われて気づいた。
彼女たちは多くの奉活を見てきた。
当然、改善点やなってない点などをあげつらうことができる。
文字通り、見てきた回数が違うのだ。いくらでも言うことができる。
だが男性にしたらどうだろうか。
せっかくがんばったので、「ここが悪い」「これは止めるべきだ」なんて言われたらカチンとくる。
「だったらもうやらない」となるかもしれない。
たとえその気がなくても、批判めいたことを言ってしまう――男性がそう受け取ってしまうことがある。
だから、一切口にできないのだ。
「分かりました。結局何を言ったって、他の男性と比較したことになってしまいますからね」
「ご理解いただけて、なによりです」
「これは、私どもでなくても、奉活局の職員はみな共通になっております」
二人は申し訳ないと頭を下げた。
うん、無口になった理由が分かった。それじゃもう、話すことないよね。
「でもあれですね。他の男性と比較なんて言うと、ちょっとエロいですね」
「――ぶふぉっ!」
天城さんが噴いた。
黒髪ロングのお嬢様っぽい外見なのに、鼻からうどんが垂れている。
「なにか、想像しました?」
「ゲフ、ゲホ、ゲホ……」
天城さんは、盛大にむせている。
俺はいままで女子校にいて、エロい気持ちになっていたのだ。
そういう発想が出ても仕方ないと思う。
「この人参の甘煮。あまり好きじゃないんですよね」
人参は苦いのがおいしいのだ。甘く味付けしたのは、人参とは認めない。
「残していいと思いますけど」
「用意していただいたのに悪いじゃないですか……ということで」
人参を箸でつまんで、天城さんの口へ持っていく。
「…………」
「…………」
しばらく睨み合ったすえ、根負けしたのか、天城さんは真っ赤になりながら、口を開いた。
そこへ人参を放り込み、残ったもうひとつを西条さんの口へ持っていく。
西条さんはすぐに諦めてくれた。
その後、黙々と残りを平らげる俺を二人は見つめていた。
昼食が終わり、本日二軒目の奉活に赴く。
車が止まった先は、ごみ処理施設だった。
ここは、中央府が今月の表彰先に選んだ企業だったはずだ。
企業と言っても、ここは東京都から依頼を受けた半民間施設らしい。
半民間……よく分からないが、もとの世界の郵便局とかそんな感じだろうか。
出迎えてくれた職員は、二十代半ばの仕事のできそうな女性。
「今日はよろしくお願いします」と言うと、女性は少し驚いた顔をしたあと、穏やかに微笑んだ。
控え室に通されて、奉活内容の説明を聞く。
「……確認しました。事前の話と変わっていませんね、大丈夫です。問題ありません」
「ありがとうございます。のちほど担当の者がまいりますので、いましばらくお待ちください」
先方が提示した内容はこうだ。
まず施設の見学。
本来見学といえば、会社を知ってもらうために行うのだが、これは目的が違う。
働いている職員を俺が慰撫するのが目的だ。
一度も社会に出たことがない俺は、社会科見学くらいでしか、大人の世界を知らない。
はじめて見るものばかりだろうし、ちょっと楽しみだったりする。
一通り職場を見学するだけで、およそ四十分。その次は、本日のメインである表彰だ。
表彰には社長以下役員が集まっていて、その中で行われるらしい。
そのとき少し話をしてほしいと頼まれている。もちろん、快く了承している。これが約一時間。
事前の打ち合わせのとき、残った時間はどうしましょうかと聞かれたので、一般の社員と話してみたいですと告げておいた。
まったくもって問題ないらしいので、すべて手配してくれるようだ。
「準備ができましたので、これからご案内いたします」
役員の一人だろう。よさげなスーツを着た女性が俺を迎えにきた。
「お願いします」
「我が社の仕事は、特区から集めたゴミを分類別に仕分けするところからはじまります」
特区で出たゴミを特区外へ持っていって処理しているのだという。
最初に連れてこられたのは、その仕分け場だった。
ゴミ袋に入れられたものが、機械によって裁断され、ベルトコンベアに載せられている。
「手で仕分けしているのですか?」
「はい。ここは最終仕分けの場所になりますので、すべて手作業となります」
完全武装の女性たちが、手を突っ込んでゴミをより分けている。
「何を分けているんですか?」
「ここでは、不燃物と可燃物を分けております。事前に金属類は電動の磁石で吸い取ります。また送風機によって軽いものと重いものに分けられていますので、ここに来るのはその残りとなります」
送風機で排除しきれなかった紙ゴミ、プラスティック屑、生ゴミなどがベルトコンベアに流れている。
俺は自分の家のゴミ箱を思い出した。
「家では、可燃物、不燃物など分けてゴミを出しているのですけど」
「家庭ごみは別の業者が回収しています。我が社で扱っているのは、企業ゴミとなります。個人商店から大手企業まで、契約したいわゆる事業系ゴミの回収、処分をいたします」
「ああ、なるほど。有料ゴミということですね。それで出す側の仕分けは必要ない?」
「そのとおりです」
どうやら俺は勘違いしていたようだ。
特区のことだ。おそらくごみ袋1枚で、500円とか700円とかするのだろう。もちろん処分費用込みだが、そのくらいしても驚かない。
その反面、不燃、可燃、ビン・カン、プラスティック、資源などでゴミ袋を分けることはしないのだろう。
そのため回収業者を別にして、ここで面倒でも手作業で仕分けをしているのだろう。
「しかし、なぜ特区外で特区のゴミを処理するんですか?」
「特区条例の関係で、特区にゴミ処理場が作れないからです」
聞いたところ、ゴミ処理場にはバカ高い煙突が必要らしく、建築許可が下りないのだとか。
面倒だな、特区条例。
もう少し詳しく聞くと、特区内には火葬場や、下水処理施設なども駄目らしい。
すべて特区の外へ出してから処理をしているという。
面倒だよ、特区条例。
「では次の施設へご案内します」
俺は言われるままに、あとを付いていった。




