063 班外交流(5)
GWが終わった。
もうすぐ俺の誕生日だ。今年の誕生日は、俺にとって特別なものになる。
共学校に通う俺の場合、16歳になると奉活する義務が生じるのだ。
それがもうすぐ迫っている。
ちなみに男性の個人情報は厳密に秘匿される。
おそらく誕生日のことは、クラス内には漏れていない……はず。
奉活が始まったらバレるので来年は無理だが、今年だけは静かに迎えたい。
日中は真琴、裕子、リエの三人と過ごしたい。うん、いまから楽しみだ。
授業は相変わらず難解だ。ノートをとっているが、あとで倍以上の時間をかけないと理解できない気がする。
一応、中学までの内容は記憶にあるので、あとは俺の努力次第だろうか。
放課後、班外交流を再開した。
「へえ、前から知り合い同士なんて、珍しいね」
「大手の塾に通っていたんです。みんなで受かって良かったねって言い合っていたら、同じクラスになって、うれしくて」
班長の川上博美は「ねえ」と周囲に確認をとる。
幼なじみの二人と、塾が同じだった三人が集まって、五人で班を組んだらしい。ちなみに全員特区外生だ。
「そういえば、川上さんの家って、農家だったよね」
「覚えてくれたんですか?」
「自己紹介文のとき、お米愛をたっぷりと語っていたからね。珍しくて忘れられないよ」
「……恥ずかしいです。けど、嬉しい」
川上さんは頬を赤らめる。
彼女は、横浜市で広い田園を持つ農家の生まれだ。中学生のときは、親の仕事をよく手伝っていたらしい。
「西田さんは同じ塾だったみたいだけど、やはり横浜から通っているの?」
「いえ、私はもう少し近い、川崎市からです。塾も川崎にあるんですよ。伊月専門コースというのがあって、そこの仲間なんです」
有名な塾らしく、毎年何人も伊月高校に生徒を合格させているらしい。
「そういえば、高校の合否基準って分かる?」
俺が問うと、全員が首を横に振った。
「塾でも一切不明だって言っていました。一定以上の学力が必要で、そこからは運だとか、家柄だとか、いろんなタイプの人たちを集めているとか言われています」
「やっぱりそうなんだ」
倍率からして選び放題だろうし、クオリティコントロールは可能だ。
「特区外の女子校には受かっていたんですけど、ここに受かって良かったです」
川上さんが当時を思い出したのか、ホッとした表情をみせた。
「そうなんだ。特区外の女子校でも、勉強内容は変わらないよね?」
俺がそう言うと、全員が首を大きく横に振った。
「えっ? 違うの?」
高校だし、男性がいないだけで、授業とかは同じだと思うんだけど。
「外の女子校はですね……自立させる勉強をこれでもかとやらせるんです。卒業後に特区で働けるように……この辺は特区に近いですから、とくに力を入れています」
「特区内の大学に受かったり、企業に就職したりできれば、それだけ名声があがりますから」
そういえば、この世界は中学生からアルバイト可だった。若いうちから働くことに忌避感はない。
大学を新卒で出て企業に就職……という雰囲気はない。高卒でも普通に就職を選んでいる。
「でも特区に住むのは……ああ、通いで特区に……ということ?」
「そうです。特区の大学を志望する人は三年間をそれだけに打ち込みますし、就職を希望する人は、情報分析しつつ、自分を高めるんです」
いまどんな人材が必要とされているか。
自分にどんな能力があるかを考えながら、就職のために三年間かけて準備をするのだという。
「凄いね」
そこまで考えているのか。正直、頭が下がる。
「だって……最後の機会ですから」
彼女たちの一生が決まるのだ。なるほど、頷ける。
「でも私たちだって負けません!」
西田さんが声をあげた。
「男性と同じクラスになれた思い出を大事に生きていくこともできますが、このチャンスを絶対にモノにし……」
途中で他の班員が一斉に動いた。
西田さんの口を押さえ、身体を拘束し、イスの下に引き落とした。
「すこし……激昂しやすい子なので……すみません」
「いや、ぜんぜん。気にしないよ」
そのあと西田さんを落ち着かせて話を聞いた。
今年は無理だったが、来年、再来年とまだ男性と同じ班になるチャンスはある。
それに特区に毎日通えているのだ。どこでどんな出会いがあるか分からない。
西田さんは日々戦っているらしい。がんばれと励ましておいた。
家に帰り、今日の話を思い返してみた。
「みんなそれぞれの場所で頑張って……いや、戦っているんだな」
班外交流で話を聞かなかったら、一生知ることもなかっただろう。
俺の知らないところで、もしくは見えないところで、彼女たちは努力を積み重ねているのだ。
「それを男性は……知らないだろうなあ」
当たり前だが、多くの男性は、そういったことに興味がないだろう。
そしておそらく男性が卒業後に出会う女性たちは、それらの見えない競争を勝ち抜いてきたエリートたちなのだ。
打てば響くのは当たり前。
言わなくても察してくれる人たちばかりに違いない。
それが悪いこととは言わないが、本当にそれでいいのだろうか?
彼女たちの努力を知らなくていいのか?
「……バカか俺はっ!」
俺だって知らないじゃないか!
女子校の話だって、さっき川上さんに聞いただけ。実際に見たわけではないのだ。
特区外の女子校のことを何知った風に語っているんだ、俺は。
彼女たちがいかに努力し、どのように暮らしているのか、実際に見たわけではない。
女子校なのだから、男性の俺は、一生知ることはできないのだ。
「これでは他の男性と同じだな」
俺は当初、せめて身の回りの女性たちを幸せにしたいと思った。
優しい家族、精神的に危なくなっていた俺を救ってくれた中三のときの班員。
手が届く女性といっても、それくらいだった。
この世界の女性を知るにつけ、もっと多くの女性を幸せにしたいと思うようになった。
そのために何をすればいいか、おぼろげながら分かってきた。
だが、いま俺が思っている事自体、実際にこの目で見たものではないのだ。
これまでの記憶、女神、クラスメイトから聞いた話だけだ。
「やはり、実際にこの目で見て、話して、体験してみたい……ん?」
奉活があるじゃないか。
うろ覚えだが、奉活先には企業だけでなく、学校もあったと思う。
学校だから、女子校とかもオッケーなんじゃなかろうか。
というか、特区外には女子校しかないはず。
「えーっと、奉活の資料は入学時にもらったはず……」
引き出しの中をひっくり返し、それを取り出す。
奉活先は、申請が出された中から希望するものを男性自身が選ぶことができるとある。
具体例がある。うん、たしかに女子校も行けるんだ。
やはり特区外は女子校ばかりだった。
ならば、ひとつくらい奉活受け入れの申請を出している学校はあるだろう。
それを選べばいいんだ。
なんだか希望が湧いてきた。班外交流をして本当に良かった。
つか、堂々と女子校に行けるのか? ヤバくない?
女子校だよ、女子校。女の園だ。そこへ行けるなんて、無茶苦茶テンション上がるんだけど。
「……あっ、振込先を提出するのか。銀行口座だよな、これ」
奉活はアルバイト扱いになるので、本人の銀行口座が必要らしい。
明日、さっそく出しておこう。
「よぉーし、やるぞぉ!」
奉活、楽しみだ。
あまりにウキウキしすぎて、俺はスクワットをはじめた。
主人公がアップをはじめました




