051 班外交流(4)
淳の将来について聞いたら、女子たちがゲホゲホやりだした。
むせて苦しそうだ。
「宗谷くんは、いきなりだね。僕はまだ、何も考えてないよ」
「そうなのか? でも少しは考えているんだろ?」
そんな話をしていると、女子たちが食い入るように前のめりになってきた。
淳は彼女たちの方を見ないようにして、「将来のことだよね。ボクはまだ早いと思う」とキッパリといった。
「そ、そうですね。ま、まだ早いですよね」
女子たちはチラチラと淳を盗み見ている。興味あるのに、興味ないフリをしなきゃいけない感じだ。
「親のことはいいとして、みんなはどんな高校生活を送りたい?」
この世界の女子が思い描く『青春』に興味があった。
「それはもちろん、久能のためになる……」
「いや、そうじゃなく、自分自身が何をしたいかなんだ」
男子を前にしてだと、通り一遍の話しか聞けないかもしれないが、それでも彼女たちの『欲』を聞いてみたかった。
「自分自身ですか……?」
「将来医者になるために勉強を頑張るとか、部活でいい成績を残すとか、好きなアイドルを追っかけるでもいいし……なにか、高校の三年間でこれをやりたいとか、あるかな?」
俺に聞かれて彼女たちは真剣に悩み始めた。そして、ひとりがぼそっと呟く。
「特区に残れる職に就くことでしょうか」
「そのために高校三年間を使う?」
彼女は頷いた。
「久能くんと同じ班になれましたので、この一年間は精一杯尽くしたいと考えています。けどもし、そうでなかったら、しっかりとした職に就けるよう、自分を磨くと思います」
堅実すぎる回答だったが、他の子たちも似たような意見だった。
どうやらそれが彼女たちの『欲』であるらしい。もしくは必要以上に特区の外を恐れているか。
「なるほどなぁ……ちなみに淳はどんな子がタイプ?」
『――ぶふぉっ!』
淳と彼女たちが一斉に吹いた。さすが班員、仲がいいな。
「そ、宗谷くん……いまの質問は……?」
「ちょっと気になってさ。ちなみに俺は、華奢じゃない子ね。元気があるくらいがちょうどいいな。触ったら折れてしまいそうだと、近寄るだけでビクビクしちゃうから」
「へー……」
彼女たちのひとりが、意外な者を見る目を向けてくる。
逆に淳は、難しい顔をした。
「そういうの、言って平気なの?」
「ああ、俺はオープンにしたいんだ」
「ごめん、宗谷くん。僕は無理。さっきの質問はノーコメントで」
「そうか……」
淳については、あまり突っ込まない方がいいかな? といって、別の話題となると……。
「そういえば、クラスの女子に迫られてたけど、もう大丈夫なのか? 嫌なら、俺が言ってやってもいいぞ」
「ありがとう。けど、大丈夫だと思う。すぐに解決する問題でもないし」
「そうか。面倒なことになる前に、俺に相談してくれ。力になるから」
「とても助かるよ。じゃあ、少し話を聞いてくれるかな。家の話であれなんだけど」
「ああ、もちろんだ。俺たち、親友だろ」
俺にとって、唯一の身近な男子だ。困っていたら、放っておけない。
「親友か。嬉しいことばだね」
淳ははにかんだあと、家の事情をゆっくりと語ってくれた。
淳の母親は、巨大財閥系のとある企業に勤めているらしい。
財閥系といっても、展開している事業は幅広く、数が多い。
「自前で銀行だって持っているんだから、進出してない分野はないくらいじゃないかな」
「すげーな、財閥」
この世界では、第二次大戦がないので、財閥解体も行われていない。
力を持ったまま、現代まで来てしまっている。
「母は、ネット通販を主軸とした、巨大なポータルサイト運営会社にいるんだけど、あっ、いまここにいる人たちは、親がグループ関連企業のどれかに就職しているんだ」
「なるほど、だからすぐに班員が決められたんだな」
母親経由で、仕事を通した繋がりがあるのだろう。
「身元は会社が保証してくれるからね。それに何かあったら、すぐ母に連絡がいくし」
まったく知らない女性を身近に置くより、よっぽど安心できると淳は語った。
「それで、淳に迫っていた女子たちは?」
「グループ関連企業といっても、派閥はあるし、取引先もあるだろ?」
「なるほど……なんとなく分かったわ」
派閥外の女子や、取引先の女子たちが、淳とお近づきになりたかったのだろう。
そして事は、親の仕事に関わる。
淳はそこまで考えて、あのとき班員を遠ざけたのだ。直接敵対しないように。
「お前も大変だな」
邪険に扱えない存在だからこそ、板挟みになってしまったのだ。
淳が、家の話といったのも間違いではない。
目の前の女子ではなく、その後ろの親を見ていたのだ。
「でもこれは男子の宿命みたいなものだしね」
達観した物言いだが、気持ちは分かる。
この世界の男性は、どうしても権力を持つ女性に影響を受けやすい。数は力で、容易に暴力になりうる。
もちろん、茨の道を歩む気があれば、自分の足で立てばいい。
権力に媚びず、自身で運命を切り開けばいいのだ。
もっとも、それができる男性は、この世界にどれだけいるのやら。
できれば淳の力になってやりたいが、親の仕事が絡んでいるだけに難しい。
「なあ、淳。本当に困ったときは、俺を頼ってくれよ」
「ありがとう。その言葉だけでも嬉しいよ」
唯一の男子クラスメイトだし、俺に何かできることはないだろうか。
せめて、淳に頼られたときに力になれるよう、情報だけは仕入れておくか。
「その財閥系? なんていう会社なんだ?」
「僕の母は、樹羅のゲーム販売部門で働いているんだ」
「へえ、俺もゲーム好き……なんだけど、記憶によると、あまり遊んだことはないな」
友人と出かけることが少なかったから、もとの世界では、暇を持て余すことも多かった。
ゲームは人並みに遊んでいたが、この世界のゲームは、まだやったことないようだ。
「おもしろい言い方だね。樹羅は七星財閥の系列会社で、さっき言った取引先の人っていうのが、神天堂の重役なんだ」
「あー……なるほど。ゲーム業界じゃ、最大手だな」
神天堂は俺の記憶にもある。なるほど、淳が困るわけだ。
淳は母の仕事関係から、安心できる女子を班員に選んだわけだが、親会社の規模があまりに大きく、派閥もある。
さらに取引先も加わったことで、面倒なことになってしまっている。
よし、状況は理解できた。とりあえず、この辺のことを裕子に聞いてみよう。
知識さえ得ておけば、もしものときに役に立つだろう。
そのあとも班外交流は続いたが、彼女たちは淳の班員であることもあって、一般的なことしか聞けなかった。
俺より淳に気に入られたいという気持ちがあるだろうし、男子が二人もいれば、猫を被っていたくなる。仕方ないのかもしれない。
こうして三回目の班外交流は終わった。
明日からはGWだ。次の班外交流はそれが明けてからになる。
そしてGWには、長野の田舎から祖母がやってくる。
憂鬱だが、避けて通れないのだから、腹をくくるしかない。




