033 2回目のデート
噴水公園でのデートは楽しかった。
どうやらこの世界では、男女が一対一で出かけることは少ないらしい。というか、ほぼ皆無。
そういうわけで、男性一人に対して、複数の女性と出かけることがデートにあたる。
「とうとうこの俺も、初デートを経験したわけか」
着実にモテ男の階段をのぼっている気がする。
翌日から、俺はどこか上の空なところがあったが、少々様子が変でも、だれも何もいわない。
暗黙の了解で、そっとしておいてくれる。
そして日は経ち、遠野さんと約束した『中央駅』へ行く日となった。
今回は遠野さんをはじめ、班員全員が俺についてきてくれる。
そう、遠野さんと菊家さんだけではないのだ。これは心強い。
そして俺にとっては、二回目のデートである。
目的は、中央駅周辺にある歓楽街を歩くこと。
男性があまり足を運ばない場所らしいので、実は少し楽しみだったりする。
「おまたせっ!」
待ち合わせ場所に、遠野さんが最後に来た。
中央駅での待ち合わせはよろしくないということで、俺の最寄り駅が待ち合わせ場所になった。
そのため、俺だけ楽をさせてもらったが、この世界ではこれが普通らしい。
こういったところを変えていきたいが、あまり自分流を押し通すのはよくないと思うので、彼女たちの反応を見ながら、おいおい考えていくことにしたい。
「おはよう、遠野さん。奇抜なファッションだね」
いきなりディスりたいわけではない。
いつもの制服姿から想像もつかない……いや、可能性はあったが、まさかそう来るとは思わなかった。
「変かな? あたしがよく行く界隈では結構、普通なんだけどなあ」
もとの世界でいえば、パンクロック風だろうか。黒革のぴっちりしたスカートに、袖丈の短い革ジャン。
身体のあちこちから鎖が垂れて、アクセサリがぶら下がっている。
遠野さんが動くと、ジャラジャラうるさい。たしかに普段の制服にもアクセサリをぶら下げていたが、今日はその数がハンパではない。
「もしかしてその格好で、外から来たの?」
途中で止められなかったのだろうか。
「そうだぜ。中央駅に行くには、これくらい気合い入れないと!」
「そうなんだ……もしかして、こういうのが普通?」
菊家さんに目で確認をとると、静かに首を横に振られた。
「こういう人はいるにはいますが、出没するのは、ある特定の店くらいです」
「……そうなんだ」
やはり遠野さんの格好は、中央駅といえども、スタンダードではないようだ。
「この服も、特区内で買ったんだぜ」
つまり、そういう服を売っている店があるということだ。
センスとしてはどうだろうか。俺にはよくわからない。
「ところで、今日はどこへ行く予定なのでしょう?」
橋上さんが当然の質問を投げかけてきた。
中央駅に行きたいから付き合ってくれと言うと、みんな何の疑問も抱かず了承してくれたので、実は詳しい話をまだしていない。
「行きたい場所はいくつかあるんだけど、どちらかというと、町の雰囲気を感じてみたいんだ。だから、みんなのおすすめが知りたいかな。歩くのは苦じゃないし、おすすめを順番に回るってのはどう?」
「なるほど、そうですか。わたしが詳しいのは、駅の西口方面です。もちろん、一般的な場所でもご案内できますが、そういうことでしたら、行きつけの場所をお教えしましょうか?」
西口と言われて、記憶を探る。
たしか、大型書店や映画館、それにゲームやアニメショップなどが並んでいたはずだ。
「うん、西口も回るつもりだから、そのときは橋上さんにお願いするよ。菊家さんがよく行くのは、どのあたり?」
「私はほとんど行きませんので、ネットで知った場所以外は、あまり詳しくないです。家からも遠いですし、行くときはいつもショッピングモールになります。駅の南口ですね」
「なるほど……南口か」
菊家さんは二時間かけて、学校まで通っている。
たしかに中学生のとき、ここまで遊びに来ることは少なかっただろう。
来たとしても、そうそう長居はできないのかもしれない。
そういう環境だからこそ、知識だけはあったりすることもある。
中学の班でいうと、裕子がそういうタイプだ。
「ユウは北口が詳しいよ!」
「そうか。青野さんは北口なんだ……うん?」
北口は、大人の歓楽街ではなかっただろうか。
きらびやかなネオンサインが特徴のお店が多かった気がする。
「北口とはまた、エロいねえ。もしかして、非合法のエロ写真集とか、持ってる?」
遠野さんが興味を示したが、青野さんは首を横に振った。
「さすがに中学生じゃ、エロは買えないか。でもコッソリ……あっ」
そこまで言って遠野さんは、俺が隣にいることに気づいたようだ。
女同士だと、そういうエロトークをするようだ。
でも、非合法のエロ写真集って、なんだろう? 被写体はやはり男性なのだろうか。
「うぉっほん」
遠野さんがわざとらしく咳払いして、この話題はお開きになった。
電車に乗った。
車内はそれなりに混んでいて、俺たちはつり革に掴まりながら、窓の外を眺めていた。
「あの……宗谷くん。ひとつ、聞いてもいいかな?」
「なに? 菊家さん」
「どうして私たち……特区外生を班員に選んだんですか?」
菊家さんがそう言うと、他の三人も無言で頷いた。
なるほどと、俺は思った。
前から気になっていたのだろう。だが、クラスの中では聞けなかったのだ。
「どう答えればいいかな……ちょっと考えるから待ってね」
菊家さんは頷いた。
目の前の座るOLさんと目が合った。OLさんは慌てて目をそらした。
もとの世界で俺はモテなかった。絶叫するほどモテなかった。
クラスで一番の美人と付き合いたいと考えていたわけではない。ただ、女子と他愛ない会話をしたり、放課後、一緒に帰ったり、ファストフード店に寄ったりしたかっただけだ。
事務的な会話なら受けてくれる女子も、俺が軽口をたたくと「えっ? なんでそれを私に言うの?」みたいな顔をされた。
太い眉がいけないのか、四角い顔が駄目なのか分からないが、俺の隣を並んで歩いてくれる女子は皆無だった。
俺はたった一人で、青春している級友たちを外から眺めていたのだ。
そんな俺にもっとも近いのが彼女たち特区外生なのだ。
それを正直に伝えたところで、理解してもらえるとは思わない。ゆえに俺は、たっぷり考えてから、こう言った。
「特区内生で班員を固めたらきっと、特区外生との間に大きな溝ができると思ったんだ。せっかく同じクラスになったんだし、そういった中とか外なんてのをずっと持ち込むのは無粋だろ」
「そのためにあえて……?」
「まず特区外生の班員と仲良くなって、それを足がかりに他の特区外生や特区内生……つまりクラス全員と仲良くなりたいんだ。そのためにも、はじまりはキミたちが一番だと思ったわけ」
俺がそう告げると、菊家さんは両手で口を押さえた。感極まった顔だ。
橋上さんが「尊い……」とか呟いている。いや、尊くなんかないから。
と思ったら、目の前のOLさんが俺を拝んでいた。
道祖神かな。
しばらくして、電車は中央駅に到着した。
乗客の半分以上がここで降りる。
「それでは行きましょう。みんな、いいわね」
菊家さんの掛け声とともに、俺の周囲に壁ができあがる。
彼女たち四人で、俺をガードするのだ。
ちょうどサイコロの5を思い浮かべるとわかりやすい。俺が中心で、その周囲を四人の女子が守っている。
「こんな厳重にガードしないとダメなの?」
「万一のことがあると、私たちも学校に通えなくなりますし」
菊家さんが怖いことを言う。男性を危険にさらすと、退学すらありえるのだろうか。
入学前に提出したという誓詞の中身が知りたくなってしまった。
なんにせよ俺は、東京特区最大の歓楽街に、足を踏み入れたのである。




