032 真琴のクラスメイト(※ 時岡 真琴)
私、やばい。ニヤニヤが止まらない。
昨日、生まれてはじめて、集団デートなるものを体験した。
中三のときの班員で、噴水公園に行ったのだ。
うん、あれはデートと言っていいと思う。
雑誌に何度も特集されていた、男子と一緒にお出かけする集団デート。
まさか自分がそれを経験するとは!
「男子との公園デート! あれは、都市伝説ではなかったのよ」
昨日は楽しかった。
準備は頑張ったし、当日の服装も気を遣った。
公園に行くのだからと、上品な格好は見送った。
浮かないギリギリで、清楚さが出せるラインを攻めてみた。
お弁当だって、何度も練習した。
母に「まだやるの?」と言われたけど関係ない。
もしかしたら、一生に一度の機会かもしれないのだ。
武人くんに最高の思い出をプレゼントしたい。そう思って張り切った。
その甲斐あって、デートは大成功だった。
最後、噴水前に誘ってくれたとき、ああこれでお別れかと少ししんみりした。
そしたら、あのサプライズ!
もう、どんなに堪えようとしても、涙が出てきて、止まらなかった。
滂沱の涙とは、あのことを言うのだろう。
慌てて顔を背けたけど、武人くんはすぐに分かってしまった。
優しく「泣いてもいいんだよ」と言われて、嗚咽が止まらなくなった。
もう、ほんの少し見ない間に、あんなに男前が上がるとは思わなかった。
そして手渡された『Free Hug券』。ちゃんと私の名前が書かれている。
これを持っている限り、いつでもハグしてもいいと許しを得たのだ。
武人くんは、私を悶え死にさせるつもりだろうか。
これはあれだ。武人くんが私を選んでくれたという証し。
もちろん私だけじゃなくて、裕子とリエも一緒だけど、その方が後々楽だろう。
なにしろ、武人くんはモテる。おそらくこれからも……。
「ねえ、真琴。なにさっきからニヤニヤしてるの? さすがに不気味過ぎだよ」
隣の席の芦田三奈が肘で私の脇を突っついてきた。
「そんなにニヤニヤしてた?」
まさか、見られていたなんて、不覚。
「あんた、気づいてなかったの? 百面相の合間にそれはもう、ニヤニヤ、ニマニマ、ニタニタってしてたわよ……で、何かいいことあったんでしょ? 何があったの?」
「何もないわよ」
「ウソ。……で、何?」
「何もないの! この話はこれでおしまい。授業聞かなきゃ」
そう、いまは授業中なのだ。
小声でのやり取りを終わらせて追及から逃れたと思ったら、休み時間にまた、三奈は迫ってきた。
「さあ、とっとと白状しなさい。だれにも言わないでおいてあげるから、感謝するのね」
「なんで上から目線?」
「授業中にあんなニヤニヤしてたのが悪い。さあ、とっとと吐くのよ!」
鼻と鼻がくっつきそうなほど、三奈が迫ってきた。
「ほんとうに、何もない……きゃああああ」
胸を揉まれた。なぜ?
「男? 男なんでしょ? あの顔は男に決まってるわ」
鋭いが、ここで折れてはいけない。
そう思って振り切るが、敵も然る者、一向に諦める気配がない。
結局、休み時間中使って追いかけっこをし、次の授業時間にまでもつれ込んだ。
「それで? もう観念したらどうかしら?」
そしていまは昼休み。さすがにもう……心が折れた。
おそらくここで追及をかわしても、明日また同じことになりそうな予感がする。
「三奈、だれにも言わないでね」
「もちろんよ。それで? 男なの?」
鼻息荒く聞かれた瞬間、つい頷いてしまった。
「マジ? マジもんのマジ? 何、男って、どういうこと?」
「ちょっと三奈、声が大きい。落ち着いて!」
興奮する三奈をなんとかなだめているが、これは早まったかもしれないと少し思い直した。
「でもあれでしょ。男といっても、中学んときに同じ班だったとかいうオチじゃなくて?」
「なによ、オチって」
「いやだから、高校生になってから連絡がついたとか、それでまだわたしたち繋がってるのね系の勘違いなんでしょ」
「勘違いって……」
「それで相手は? やっぱり同じ班?」
「そうよ。とっても優しくて格好よくて、もう信じられないくらいの完璧男子なんだから」
「ハイ、ハイ、それでニヤニヤしてた原因は? ここまできて隠すと為にならないよ」
ここまで来たからには言うしかないのは分かっている。
だから、生徒手帳の中に後生大事にしまったあのカードを三奈に見せた。
「これをもらったの」
「へー……どれどれ」
三奈はカードの表と裏を何度もしげしげと見てから、私にそれを返した。
「どう?」
「よくできてるんじゃない? でも休みの日にこんなの作るほど妄想しちゃうのは、ちょっといただけないわね。今度、中央駅へ付いていってあげましょうか?」
「妄想じゃないってば! 本当にこれを貰ったのよ!」
「そんな、マンガか小説みたいな話、あるわけないでしょ。それとも相手が相当なぶっさい……」
「違うもん! 共学校に推薦されるくらい美形なんだからっ!!」
スマートフォンの写真を三奈に見せる。
「ちょっ、ヤバッ! なにこのイケメン。こんな人、現実にいるの? 天界からおりてきたんじゃないの?」
「この人がね、いつでも一緒だよって、私に言ってくれたのよ」
そう力説したが、三奈は最後まで信じることはなかった。無茶苦茶、あたたかい目で見られたのだ。
ちなみに、その話を裕子とリエにしたところ、ふたりも同じことをやらかしたらしい。
そして私同様、信じてもらえなかったとか。
リエはともかく、慎重が服を着て歩いているような裕子まで浮かれていたとは、さすがに想像つかなかった。
なんにせよ、私たちの結束が、さらに強まったのは言うまでもない。
問題はこのカードをいつ使うかだ。
回数無制限とはいえ、だれが一番先に使うのか。
そう考えた瞬間、残りのふたりも同じことを思ったのか、視線がバチッと交差した。
うん、私たちの友情がこれで壊れるかもしれない。
そんなことを思った。
最後、三すくみみたいな感じになりましたが、三人の友情はそのままです。(笑)




