026 噴水公園へ(4)
さて、本日三度目の失言をしたリエだが、ただいま絶賛、うずくまり中である。
よく見ると、裕子の握りこぶしの中指が出っぱっている。
あれは、龍頭拳。
まさか太極拳の極意がこんなところで見られるとは。
リエは「ぐおおお」と、いまだ復活を果たせずにいる。
「ほんとリエは、いい加減にしてよね」
真琴はリエに一瞥をくれると、俺に向き直った。
「あの……武人くん、あまり……気にしないで」
「ああ……分かってる」
心配する真琴には悪いが、実はまったく気にしていない……どころか、16歳になってからはじまる奉活が楽しみだったりする。
先日、女神と話したときにも奉活のことが出てきた。
共学校に通う男子は避けて通れないのだから、当然だろう。
もちろん俺はすぐ、奉活について調べた。
奉活について、この身体の持ち主の知識は正しく、また間違ってもいた。
16歳になった男子には、奉活が義務づけられている。
これは三時間を一回として、年間10回の活動を意味する。ただし、男子高校生だけは特例で免除。
16歳になった共学校の男子生徒に奉活義務があるとされるが、法律はそう解釈していなかった。
高校を退学した場合、共学校、男子校の区別なく奉活をしなければならない。ニートは許さないということだ。
それと就職して社会人になるとやはり奉活は免除されるが、全員ではなかった。
許可を受けた会社のみ、奉活免除が適用されている。
自営業の場合、許可がおりない場合があるという。
漫画家や文筆業など、女性と接する機会の少ない職についた男性は、いくつになっても奉活する必要があるらしい。
また、実際の奉活の様子も映像で確認できた。
この世界でも動画投稿サイトがあり、そこで企業がPRをかねて、投稿していたのだ。
投稿許可を得るのにいくら払ったのか、ちょっと気になっていたりする。
それはいいとして、次々と視聴して気づいたが、奉活にはいくつかのパターンがあった。
これは奉活先が決まったあとで、打ち合わせをするのではなかろうか。
多かったのが幹部たちとの会合、全体への演説や激励、社員とのふれあいなどだ。
会社にとって、さまざまなプラス効果があるのだろう。
動画で幹部や社員の顔を見ればそれがよく分かる。待ちに待ったという様子が見て取れた。
一方の男性の方の顔は引きつっていたりするのだが。
動画を見て分かったことは他にもある。
この世界は、俺が想像していた以上に男性が求められている。
CDを買えば握手できるアイドルと会う以上の効果がありそうだ。
言うなれば、ハリウッドの映画スターと対面できるとか、そんなレベルの気がする。
「最近、奉活に興味が出てきたかな」
「えっ?」
「自分で調べたり、動画を見たりすると、いままで見えなかったものが見えてきたんだよ」
「ど、どういう……?」
「たとえば、奉活は国の政策だと思うと反発も生まれてくるけど……そういえば、奉活に反対している人たちがいるよね」
真琴は頷いた。
奉活なんて必要ないと考える女性の団体もいる。彼女らの言い分はこうだ。
「男性は保護されるべき存在であり、軽々しく訪問させるべきではない」というものだ。考え方は、野生動物の保護に近い。
たしかに数が少ないのは事実。
多くの女性と出会う機会をつくるか、保護し、管理することで平穏を与えるか、両者の主張の違いはそんなところだと思っている。
だったら俺は、前者を取りたい。
「俺が女性と話すことで相手が幸せになれるなら、俺も幸せになれる。それなら、奉活に行ってもいいかなって思いはじめたんだ。だからいまは、前向きな気持ちになっている」
女性たちのもとへ進んでいくのは、この世界の男性には高いハードルだろう。だが俺は違う。
モテない反動からか、女性に囲まれるのは大歓迎だ。それに女性たちの気持ちに立って行動できる。
「その考え……とても偉いと思う。わたしのお母さんも似たようなこと言っていたわ。義務で奉活に来るんじゃなくて、進んでくるような人がいたら、女性も男性も幸せになれるんじゃないかって」
「そうだね。裕子のお母さんと同じ意見だ。俺は奉活を通して女性を幸せにしたいし、俺も幸せになりたいと思う。もっともそれができるのは、16歳の誕生日を迎えてからだけどね」
「五月二十日よね。そのときは……お祝いさせてもらって、いい?」
真琴がおずおずと聞いてきた。
この世界では成人とは別に、法律上のさまざまな権利を得る16歳を祝う人が多い。
「もちろんだよ。裕子もリエも……そうだな、またみんなで出かけようか」
「うん!」
復活したリエが真っ先に頷いた。
「それじゃ、武人くんの誕生日は気合いを入れるから、期待して待っててね」
裕子もやる気のようだ。何をするつもりだろうか。
「……時間もそろそろだし、お昼にしない?」
「そうだな。実はかなり、楽しみだったんだ」
今日は三人とも大きめのカバンを持ってきている。きっと中にお弁当が入っている。
すごく楽しみだ。
「それじゃ、お昼にしましょう」
「テーブルを軽く掃除するわね」
ウェットティッシュで軽くテーブルを拭き、その上にレジャーシートを広げた。
事前に話し合っていたのか、3人が分担して、昼食の準備をはじめていく。
俺はその様子を邪魔にならないように見守った。




