027 東屋でお昼
東屋で、お昼を食べることにした。
彼女たちは手際よく、準備をはじめる。
「……ん?」
レジャーシートの上に、次々とタッパーが重ねられる。すべて彼女たちがカバンから取り出したものだ。
タッパーは半透明で、中身がうっすらと分かる。それぞれに別の料理が入っているらしい。
やけに多いなと思っていると、なぜか箸、ナイフ、フォーク、スプーンといったカトラリーが、俺の前に並べられた。
ナイフとフォーク? 野外なのに?
そんな風に思っていると、皿が取り出され、タッパーの中の料理が盛り付けられていく。
「あれ? それは?」
「トングよ」
「そうじゃなくって……陶器のお皿?」
「その方が食べやすいと思って」
公園で食べるお弁当である。
おにぎりを頬ばりながら、爪楊枝でおかずを……と考えていたのだが、俺の予想は大きく外れた。
レストランのコース料理もかくやというように、色とりどりの前菜が用意されていく。
目の前に広げられたそれはどれもカラフルで、目を楽しませるよう考えられている。
「さあ、どうぞ。召し上がって」
「あ、ああ……でも真琴たちは?」
「私たちは、あまったのを食べるから」
たしかにタッパーの中にはまだたっぷりと料理が残っている。
「じゃ、じゃあ、いただきます」
せっかく俺のために用意してくれたのだ。
おいしくいただくことにする。
最初に手に取った皿には、鮭のマリネが載っていた。
鮭とタマネギのスライスを口に運ぶ。
「うまい。レモンが利いているのに、それほどすっぱくない」
「よかった。それは裕子が作ったのよ」
「お酢とレモンでなるべく酸味が少なくなるよう、配合をちょっとだけ苦労したかしら」
「すごく美味しいよ」
並べられた前菜は三種類。それぞれが一品ずつ用意したのだろう。
出来合いのものはひとつもないのだが、三人とも早起きして作ったのだろうか。
次は生ハムのサラダだ。
俺の挙動をじっと見つめていることから、これは真琴が作ったのだと予想できる。
「おいしいよ」
真琴がホッと息をはいた。
「ボクのは、これだよ」
リエが指さしたのは、ベーコンとポテトのサラダ。
サイコロベーコンに黒こしょうがよく合っていた。
前菜でこれだ。レジャーシートの上には、未開封のタッパーがいっぱいある。
「冷えたもので悪いのだけど」
「いや、ぜんぜん構わないよ」
そもそもお弁当は冷えているものだ。
次に並べられた料理は、めんつゆに浸した温泉卵、きんぴらゴボウ、それにハムエッグだった。
順に真琴、裕子、リエが持ってきたものだ。
紙皿ではなく、ちゃんとした器を使っているところが凄い。
外で食べている気がしない。
自分で料理するときは炒め物ばかりだったから、ここに並べられているものと比べたら、月とすっぽん。
本当に食べるのがもったいないくらいだ。
もちろん俺が食べている間、三人は次の料理の準備をする。
なんだろう、王侯貴族になったような気分だ。
外でのお弁当って、こんな感じだったっけ? と思わなくもないが、ここは考えたら負けの気がする。
というか、以前煽った俺が悪いのか。
彼女たちは俺の要求に、十分応えてくれた。
「メインはこれね」
魚の煮付け、ハンバーグ、牛ステーキと、肉系が並ぶ。
うん、ガッツリ系は食の基本だけど、この身体は小食らしく、全部食べきれるか分からない。
お弁当に定番の唐揚げや卵焼き、ウインナーがなかったが、あえて外したのだろう。
「ありがとう、ゆっくりいただくよ」
会話をしている余裕がない。
時間がないのではなく、胃に余裕がないという意味だ。
時間をかけずに、一気にかき込む。
「ふう、おいしかったよ」
「本当? よかった。……待っててね、いまデザート用意するから」
「…………」
デザートは、リンゴと梨とマスカットだった。
温室栽培でフルーツが一年中、スーパーで売られているらしい。果物の温室栽培って豪気だな。
しかしこのお弁当をつくるのに、いったいどれほどの手間と時間、それにお金をかけたのだろうか。
お腹がいっぱいになり、しばらくぼーっとする。
その間、三人は互いの弁当を食べながら、味の品評会をしている。
こういうところはもとの世界と変わらない。
意外にも、三人とも料理の腕前はそれなりにあるようだ。「もしもの時のために」練習していたのかもしれない。
あれだけあった料理も、四人で分担して食べたら、すべて空になった。
もとの俺ならば、一人で半分くらい平らげただろうが、この身体ではそうもいかない。
三人とも「ちょっと多いかな?」という量を用意したらしく、しばらく全員が無口。
静かな時が東屋に流れた。みな、腹を無意識に押さえているのが、少しおかしかった。
「そういえばみんな、高校はどう?」
三人は同じ高校に進んだ。
頭のいい裕子はもっと進学校を狙えたし、リエはスポーツに強い高校があったにもかかわらず、三人で相談して、一宮高校とという女子校を選んだ。
「みんな、クラスはバラバラになったんだよ。ボクは2組で、真琴は3組、裕子が5組なんだ」
「そうか、残念だったな」
「ううん。クラスが違う方が、情報を集められるから、いいんだって」
「情報?」
「足を掬われないようにね……痛いっ!」
テーブルの下で、真琴がリエのスネを蹴ったようだ。
「なんでもないのよ……」
あさっての方を向く真琴。
俺が重ねて問うと、しぶしぶながら教えてくれた。
なんでも、高校生からは男性と接触できる機会が極端に少なくなるため、男性が出没しそうな場所の情報が、クラス内で飛び交うらしい。
とくに、共学高に通う男子は見目麗しいのが多いと思われているため、情報が有料で取り引きされることもあるという。
「休みの日にどこで見かけたとか、そんな情報が有料で?」
「写真付きだと説得力あるから、それなりの金額で売り買いされているみたい」
「…………」
三人はクラスに溶け込み、共学高の情報――とくに俺の名前が流れているか否か、密かに耳をそばだてているらしい。
スパイ映画かな?




