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199/422

189 練習動画

 伊月(いづき)高校は共学校だ。

 体育祭の風景を撮影して個人で楽しむのは問題ないが、どこかの動画サイトにアップロードするのは、問題があるらしい。


 普通の高校……つまり女子校なら、ネットを探せばいくらでも体育祭の動画が見つかる。

 なぜ共学校はだめなのか。


 万一、アップロードした動画に男子生徒が写っていた場合、かなり面倒くさいことになるという。

 アップロードした本人はもとより、学校側も謝罪に追い込まれるだろうと。


 ゆえに一律禁止しているらしい。

 説明されて「なるほど」と思ったが、動画の投稿が禁止されているのは、あくまで「体育祭」だ。


 たとえば俺が、学校内で自撮りしてアップロードするのは問題ない。

 共学校の女子生徒でも、校内で撮った写真や動画をSNSにアップしていたりする。もちろん男子が映ることはない。


 先日、クラスメイトに許可を取って、練習の動画を撮影した。

 これをDoTubeにアップする前に、学校の許可を得ておいた方がいいかもしれないと橋上さんが言いだし、動いてくれた。


「結果から言うと、OKです……ただ、思ったより大変でした」

 橋上さんがそう言うのだから、本当に大変だったのだろう。


 動画には、俺以外の男子……淳などは映っていない。他のクラスの男子生徒もいない。

 女子の許可は取ったし、クラスメイト以外が映り込まないようにしてある。


「何が大変だったんだ?」

「担任の先生はとても難しい顔をしておりました。基本、問題はないのですけれども……」


「だよな。SNSに教室の風景をアップしている女子とかいるけど、男子が映らなければ普通に許可されてるもんな」


「担任レベルでは判断がつかないと申しまして、学年主任の先生に判断を仰いだのですけれども……」

「えっ、なんでそこまで大げさになるんだ?」


「学年主任の先生も判断を保留されましたが、最終的には許可がおりました」

「それは……大変だったね、ありがとう。でもなんでそこまで大事に?」


「宗谷様の動画が多くの女性に注目されていることと、炎上した場合どのような事態になるのか、だれも明確な答えをもたなかったからだと思われます」


「責任逃れか」

 いや、さすがに責任逃れと言うのはひどいか。


 学校側の気持ちも分かる。学校運営なんて、人気商売みたいなところもある。

 何かあった場合、リカバーが大変なのだろう。


「というわけで、編集はお任せください。覚悟が固まりました。あそこまで言われたのですから、完璧にやり遂げてみせますわ」


「そ、そう……任せるよ」

 色々言われて、橋上さんに変なスイッチが入ったようだ。でも覚悟って?


 というわけで、いま再生した動画を見せてもらっているのだが、俺が和気藹々(わきあいあい)と女子と話している姿や、女の子たちと身体を密着させている姿がやけに多い。


 あれ? 俺、こんなに女子と密着していたっけ?

 練習に夢中で、思ったより距離が近くなったようだ。女子も嫌がっていないし、問題はないだろう。


「こちらは使えない映像です」

 別の動画ファイルを開くと、俺が倒れた女の子を抱きかかえた姿が映っていた。


「これってあれか、騎馬戦のやつ」

 背の高い俺が騎馬戦の上をやるのだ。そこらの女子ではなかなか勝ちきれない。


 集団で俺のハチマキを取りに来たとき、運悪く騎馬が崩れ、女子の一人が手を伸ばしたまま大地へダイブした。

 ベチャっと擬音が聞こえるほど間抜けな……いや、可哀想な格好で、地面に鼻を打ち付けた。


 みなが見ている前で鼻血が二筋、流れ落ちたのである。

 彼女としては、相当堪えたようで、目に涙が溜まっていた。


 俺はすぐに彼女を抱え上げて、保健室まで走ったのだが、その様子をバッチリと撮影していたらしい。

 保健室までの道のりが阿鼻叫喚となったり、大名行列のように俺の後を多くの女子がついていったりした姿も映っていた。


「ネタとしては最高ですが、さすがに炎上します。丸々カットいたしました」

「もったいないね」


「本人に高く売りつけられると思います」

「……クラスメイトで儲けるのは止めよう」


 橋上さんはしばらく悩んだあと、「しかたありません、無料で提供することにします」と言っていた。


「それで、これの公開日はいつにする?」

「宗谷様のチェックも終わりましたので、今夜から数本ずつアップしたいと思います」


 長い動画を短くまとめるのは大変だと聞いたことがある。

 今回は、ただまとめるのではなく、様々配慮しなければいけない。


 10分程度の動画ばかりなので、二、三日でアップは終わるはず。

 動画は体育祭に間に合わせるつもりなのだろう。


「いつもありがとうね、橋上さん。……お礼に、今度どこか行こうか。好きなところに、連れてってあげるよ」

「いえ、わたくしはその……」


 橋上さんだけではない。高校の班員は日々、周囲の視線などから俺をガードしてくれる。

 みな特区外から通ってきているため、朝も早い。共学校のしきたりに慣れるのも大変だったはずだ。


 橋上さんだけでなく、みんなにも希望を聞いてみよう。

 俺も最近は、特区内の地理にかなり詳しくなった。


 体育祭が終わったら、橋上さん以外にも誘ってみよう。




 翌日、登校したらえらいことになっていた。

「何が?」といえば、体育祭の練習動画のことだ。


 炎上はしていない。セーフ。

 ただ、バズっていただけだ。


 たった10分程度の練習動画だが、再生数が10万回を超えていた。

 アップロード時間が本日の1時という深夜の時間帯にもかかわらずだ。


 深夜から朝までのたった6、7時間で10万再生を記録している。

 それにともない、伊月高校体育祭の入場チケットが大変なことになりつつあるらしい。


「宗谷くん、おはよう。体育祭のチケットのこと、聞いた?」

 菊家さんがやってきた。


「いま聞いた」

「チケットが高騰し過ぎて、一般にも知られてしまったみたいね」


 一般人が共学校に入れる機会はほとんどない。

 伊月高校は、学園祭が行われないこともあいまって、この体育祭くらいしかない。


 昔から招待チケットは、陰でコソコソと売買されていた……らしい。

 共学校の学生のちょっとした()()()()()だ。


 本来、学校から受け取ったチケットを販売する行為は褒められたことではない。

 親の出世に使われることもあり、その辺はいろいろ黙認されてきていたようだ。


 例年、体育祭の入場チケットは数万円から十数万円で取り引きされている。

 相場が存在しているのだから、暗黙の了解という部分もあるだろう。


 だが今朝、そのチケットが急に高騰した。

 最低でも数十万円。このままだと、最終的にいくらで取り引きされるのか分からない状況らしい。


「きっとネットニュースになると思うわ」

「マジか。けど金持ってる人って、何考えてるんだか。ほんとに物好きだよな」


 アイドルコンサートではあるまいし、チケットにそんな高い金を払うなんて、正直理解できない。


 たしかもとの世界でも、男性アイドルグループの何十周年記念コンサートチケットが70万円近くの値で売買されたとか、ニュースで見たことがある。


 さすが日本のトップアイドルは違うなと思ったものだが、こんないち高校の体育祭に同じような金を出す人がいるというのが驚きだ。


「おはよう、宗谷くん。チケットのこと、聞いた?」

「おう。淳も聞いたのか」


「うん。出かけにね。母さん経由で聞かされたんだ。このままだとニュースになるだろうって」

 淳の母親は情報通だな。いや、会社のネットワークか。


「しかし、ニュースになったら、さすがに学校も動くんじゃないか?」

「対策を採るかもね」


 といっても、体育祭は明後日だ。

 どんなに迅速に動いても間に合わない気がするが、どうなんだろう。


「てか、なんで急にそんなことになったんだろ」

「うーん……僕はなんとなく、理解できるようなできないような……まあ、宗谷くんがそう言うなら、それでいいんだけど」


 そのあと「実は僕が配ったチケットも、大変なことになりそうなんだ」と疲れた顔をしていた。


 最近、淳のそういう顔をよく見る。

 今度淳に、スタミナドリンクでも差し入れてあげよう。赤マムシはよく効くし。



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― 新着の感想 ―
[一言] ふと思ったのだけど、こんだけ破天荒な行動してる主人公に全く変わらぬ態度で接する敦君がクラスメイトって言うのが一番のラッキーなのでは。
[一言] もっと淳くんのこと労わってあげてwwww
[気になる点] 学ラン応援とかやるかと思ってますが、そんな事前プログラム表とか配布されていたらチケット争奪が ・・・プラチナチケットに?
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