190 悩みの相談
体育祭を翌日に控えた木曜日。
案の定、これまでコッソリ行われていた伊月高校のチケット売買が、朝のニュースに登場した。
ニュースでは「チケット転売」と表現しており、より印象が悪くなっている。
世の中には、金に糸目をつけない人がいるらしく、熱心なファンが7桁の値をつけたと報道していた。熱心なファンって……。
共学校の体育祭を見学できるだけだというのに、恐ろしいことだ。
朝のホームルームで、担任がさっそくチケット売買について話をはじめた。
職員たちの間でも問題になったらしく、配った相手の氏名を提出してもらうことも考えたという。
ただあのチケットは、親の会社に渡した人が多く、生徒側でもだれが来るか把握できない。
今年はこのままいくが、来年はもう少しチェックを厳しくする可能性があるという。
まったく面倒なことだ。
のほほんとしていたら、昼休みに担任に呼ばれた。
最近、やらかした覚えはない。何の用事だろうか。
「お呼びと伺い、参上しました……というわけで、なんですか?」
軽い調子で言うと、相談室を予約してあるという。本格的なお説教?
「あのね、宗谷くん。悩みとかないかしら?」
相談室に行くと、真っ先にそんなことを聞かれた。
「悩みですか? ……うーん、そうですね。最近、コンビニ弁当の底上げが酷いんですよね。今日も寄るつもりなんですけど、何とかならないですかね?」
「そういう悩みじゃないの……って、分かってて言ってるでしょ」
「いや~、悩みと言われても……とくにないですよ」
キョトンとした顔をしていると、担任は「はぁ~」と目の前でため息をついた。何なんだ?
「どうしたんですか? 先生の方こそ、悩みがあるようですけど」
「……あのね。動画撮影とかいろいろやっているでしょ。あれって、宗谷くんが進んでやっているの? 命令されていない?」
「もちろん、俺の意志ですよ。当たり前じゃないですか。そりゃ、彼女たちに手伝ってはもらってますけど、駄目だったりします?」
一体、何を言っているのだろうか。
「練習動画の件で、校長先生や副校長先生が不審に思ってね……」
男性がそんなことをするはずがないのでは? 俺が逆らえない筋から強制されているのでは? と思ったらしい。
「徹頭徹尾、俺の意志ですよ。彼女たちには雑用をしてもらって申し訳ない気持ちです」
「……やっぱりそうよね。宗谷くんの言動とか行動とか見ていると、誰かに脅されているとは思えなかったのだけど、本人に聞いてほしいと言われたの」
最近慣れてきたので気にしていなかったけど、やはり俺の行動は一般的な女性からみると奇異に映るらしい。
俺の場合、人に脅されたり、強制されたりすることはないので、そんな心配は無用だと伝えておいた。
担任は「そのまま報告して信じてもらえるのかしら」と言っていたので「大変ですね」と慰めておいた。
放課後、俺は学校帰りにコンビニで「柿餅」を買い、いつもの祠へ向かった。
餅を薄く切り、油で揚げた「かきもち」なるものもあるが、今回はそれではない。干し柿を乾燥させて作る和菓子の方だ。
買ったのは三人分。
確率の女神の分も入れている。いるといいな。
森に入ると、木漏れ日が木々の間から差し込んでくるのが分かる。
祠までの道のりも慣れたものだ。
下草をかき分けて進むと、いつもの祠が見えてきた。
と同時に、いつもは呼ばないと出てこない白穂が、ぷよぷよと浮いているのが見えた。
俺は踵を返した。
「――ちょっと! ここまで来て、なんで帰ろうとするんです!? いま、目が合いましたね! 合いましたよね! それで帰るなんて、非道じゃないですか。帰るなら、その手に持ったの、置いてってくださいよ! ていうか、なんで帰ろうとしたんですか?」
凄い剣幕で怒られた。
「なんか、待ち構えてるみたいだったし?」
「あなたは、待ち構えてると帰るんですか?」
「いや、そうじゃないけど……なんとなく?」
ちゃんと帰る理由を説明したのだが、白穂はプリプリと怒ったままだった。仕方ないので、柿餅を渡す。
「今日はアレ、いないの?」
「アレってなんですか?」
「ほら、未来を確率で見る紫園って言うんだっけか」
「紫園さんはいませんよ……っていうか、いつもいるわけないじゃないですか。女神は用もないのに栖を離れたりしないものです」
「……なるほど、それはそうか」
人間みたいに、「暇だから遊ぼうぜ」というのもないのだろう。
「それに紫園さんは、軽々しく人の前に出たりしないのです」
そういえば、あの確率の女神は、神社に普段はいると言っていた。
そういうことならば、姿を隠すのも分かる。
人に広く認知されていると、参拝客がうっとうしいくらい押し寄せてきそうだ。
俺が紫園のいる神社に行っても、軽々しく出てこられないだろう。
「それで今日はどうしたんです? 紫園さんはいませんし、もう帰ってもいいのですよ」
柿餅(紫園の分も含む)を食べ終わった女神は、俺に興味を無くしたようだ。
もしかすると俺のことは、甘味の配達人と思っているのかもしれない。
「ちょっと聞いてほしいことがあってさ」
「ふむ……まあいいでしょう。話してみなさい」
尊大な口調で白穂が腕を組む。かなり偉そうだ。まあ、女神だから偉いのだろうけど。
「徳操会という集団がいて……いや、最初から話した方がいいか。ことのおこりは、俺の動画にコメントをつけた人がいるんだけど……」
動画のコメントに最近、ネガティブなものが増えたこと、削除してなかったことにするのではなく、ネガティブなコメントをした人たちに向かって正攻法で反論したことを話した。
「なるほど、問題は解決したように思えますけど」
「そうだな。コメントは減ってきたし、もとから俺にはダメージなかったし、そのへんはいいんだけど」
俺がネガコメ程度で心が折れることはない。
もとの世界での扱いからすれば、こんなもの無風状態だ。
「それなら、なにが問題なんですか?」
「体育祭の招待チケットが転売されたんだ」
「またずいぶんと、話が飛びましたね」
「チケットが高額転売されて、ニュースになった。そのせいで、チケットの価格がさらに上がったんだ。買う人、売る人の合意があれば、俺は別にいいと思っているけど、少し困った問題が持ち上がったんだ」
「ふむ……どのような問題です?」
「ニュースのコメントが荒れた。それがまた取り上げられて、さらに荒れた」
ネットニュースには、自由にコメントをつけることができる。そういう仕様だ。
話題となったニュースには数千というコメントがつく。しかも皆が長文を書いてくるので、全部読むのは大変だ。
今回、うちの高校の体育祭チケットが高額取引されたというニュースが出た。
賛否両論、さまざまなコメントがついた。
それがヒートアップしてコメントバトルが繰り広げられた。
その様子がまたネットニュースになった次第だ。
「その批判とは、どのような内容なのです?」
「チケットに群がる女性を批判しているかな。結構攻撃的な口調で、『馬鹿じゃないの?』って平然と書いている」
「それは、書いた方の知性が低いと思われますけど」
「俺も同意かな」
ニュースのコメントでは、「女性は選ぶ立場に回帰すべき」という意見が増え続けている。
女性が自ら進んで下の立場になるのを批判しているのだ。
結果、話が本題からズレたバトルを続けているのだが、ここで俺は気づいてしまった。
彼女らが主張している内容が、俺の動画にあったコメントにそっくり。
つまり徳操会のターゲットが、チケットに群がる女性たちに移ったわけだ。
徳操会はそうやって、ターゲットを次々と変えて、自分の主張を浸透させていこうとしている。
「ああいう集団をどうすればいいかと思って、相談に来たわけなんだ」
俺が幸せになるためには、周囲の女性たちを幸せにすることが大前提だ。
今後、俺が目立てば目立つほど、徳操会の彼女たちが立ちはだかってくる。
大事なことだから、もう一度言おう。
――今後、徳操会の彼女たちは、必ず俺の前に立ちはだかってくる
前回の動画のときは正攻法で撃退したが、それが毎回続くとは限らない。
どうしたらいいだろうか。
「男性に群がる女性を批判して、彼女たちに何の利益があるのですか?」
「何があるんだろう? ……ただ、攻撃するのが気持ちいいからやってるだけじゃないのかな」
難癖をつけたいだけで、崇高な理念があるとは思えない。
「でしたらあれですね。話し合いは通用しません。完膚なきまでに叩きのめした方が後腐れなくていいです」
女神は、シャドーボクシングをはじめた。
やけに攻撃的な女神だな。
ついに200話です! 200話を記念して、これまで多かった質問に答えます。
Q:どうやって物語を考えているんですか?
A:物語全体を100としたら、1と100以外に、20、50、70にあたる部分などを考えます。
章割りをして、各章を10としたら、1と10、2、4、6などの部分を埋めていきます。
具体的なイベントを複数用意(考え)て、そのうちの一つを採用します。
Q:一部や全部をノクターンで書くつもりはありますか?
A:物語は、週刊少年誌で描ける内容レベルに留めています。ノクターンで書くことは可能ですが、その場合は、同じキャラ、設定で、ストーリーは別物になるでしょう。
それと、「いいね」ができるようになりました。
そういう機能が実装された記憶はありましたが、すぐに忘却して、いままで忘れていました。
それではひきつづき、よろしくお願いします。




