186 体育祭の練習(2)
さて、体育祭の練習だが、これは練習場所の確保が重要になってくる。
出場選手がすべて決まっていないクラスは、いまだ教室で会議中。
3年生の一部は、受験に向けて図書館に向かってしまった人もいるという。
スポーツには向き不向きがあるので、それは仕方ないことだろう。
「中庭の一角が取れたわ」「でかした!」「ライバルは?」「いまのところなし」「何人か場所取りに残ってる」「すぐ増援を!」と、うちのクラスは慌ただしい。
伊月高校には、第一グラウンドと第二グラウンドがある。
他にもテニスコートとバレーコートがあるが、ここは解放されていない。
練習に使えるのは、二つのグラウンドに加えて体育館と格技場、それにピロティを含めた敷地すべてだ。
このような場所取りは、1年生だとなにかと不利になるのだが、うちのクラスは中庭のよい位置が取れたようだ。
勝手の分からない1年生だと、真っ先にグラウンドに向かい、空いている場所がなくて他を探したりするらしいので、最初から中庭に向かったのがよかったのだろう。
俺は更衣室で着替えてからゆっくりと向かった。
「さて、何をしようかな」
準備運動を終えて周囲を見回すと、陸上部に所属している藤原明日花さんと目が合った。
というか、中庭に出てからチラチラとこちらを伺っていた。
彼女は俺と二人三脚を組むことになっている。
ペア決めのとき、藤原さんと仮で組んだのだが、彼女の胸部装甲しか記憶にない。なぜだろう。
仮ペアのとき、彼女の胸部装甲が揺れて、俺の手に当たった。
なぜか、時間が経過していた。
たしかアメリカで、似たような体験をした人の話があったはずだ。
エイリアンに攫われたとかなんとか、偉い学者様が主張していた気がする。きっとそれに違いない。
「さて……藤原さん。空いているなら、練習しようか」
「は、はひ。よ、よろひく、おねがい……ひます」
藤原さんはいまだ緊張している。朝から緊張しっぱなしだ。
視界の端に、カメラを掲げた橋上さんの姿が映った。そういえば動画を撮っているのを忘れていた。変なことしていないだろうか。
「まずは、軽く走ってみようか。俺たち、息は合ってると思うんだ。結んでない足の方からいくよ。せーの……はいっ!」
まずは軽く走って、感覚を掴むことにする。
走るたびに彼女の立派な胸部装甲が揺れて、俺の手をノックする。
これだけ揺れると、彼女は走りにくいのではなかろうか。
だとしたら、俺が彼女のアレを支えるべきではないか?
たとえば、俺が手のひらを上に向けて受け止めてあげるとか。
いや、それだと片側しか救助されない。半分だけ救助されても、彼女は困るだろう。
ということは両手で支えるとか?
たしかにいま、俺の片手は遊んでいる。
それを前に持ってきて彼女の夢と希望が詰まった袋を揺れないよう、直接押さえれば……。
「――きゃあっ」
変なことを考えていたら、転んだ。
「ごめん、大丈夫だった?」
「だ、だいじょうぶ……です、はい、ええ」
藤原さんを抱きかかえて起こす。
「もっと密着した方がいいね。腰が引けてるから、タイミングがズレちゃうんだ」
「み、みみみ密着!? こ、腰……ですか?」
「そう、こうやって」
胸から腰まで身体を密着させた。
二人で歩幅を合わせるのではなくて、二人で一人の人間になったように走るのがこの競技のコツだ。
身体を離したままだと、走っているうちに相手の動きが分からなくなる。
「あ、あの……ち、近すひ、でふ」
「ごめんね。でも転ばないようにするためには、こうするしかないんだ」
「いえ、申し訳なく……気分を害されないか……わたし……ひぃいい、申し訳ありません。当たってしまいました。申し訳ありません、申し訳ありません」
藤原さんが俺に向き直ったとき、彼女の『たわわさん』が、俺の胸元にぽよんと当たった。
必死に謝る彼女に微笑みかけ、「大丈夫だよ、さあ、続きをしよう」と促したのだが、顔を真っ赤にして座り込んでしまった。
この世界に来て半年以上経ったから分かる。
この男女比が狂った世界では、男女の役割、意味づけが逆転しているような状況だ。
今回の場合、男のシンボルをクラスメイトの女性にこれでもかとなすりつけてしまったようなものだ。
大丈夫と言われても、恥ずかしくて顔をまともに見られないのだろう。
藤原さんはうつむいてプルプルと震えている。再起動には時間がかかりそうだ。
俺は片足をつないだまま、しばらくその場に佇むことになった。
結局、二人三脚の練習はここまでとなった。
周囲の女性圧が増したのが原因だったりする。
数人のクラスメイトが、テキパキと藤原さんを遠くに連れていってしまった。
見事な連係プレーだ。レンジャー訓練受けたのかな?
「次は……どうしようかな。騎馬戦の練習でもするか」
俺は、騎馬戦にも出場する。
各クラス五騎の騎馬が出場して、2クラスがペアを組んで勝ち抜き戦をしていく。
1~3学年の中からランダムでペアが作られる。それが東西に分かれて対戦するのだ。
自分たちだけではなく、ペアを組んだクラスと協力して戦い抜かなければいけないから、大変だ。
肝心の勝敗だが、大将が落ちるかハチマキを取られたらそこで終了。
あとは制限時間内で奪ったハチマキの本数で勝敗が決まる。ハチマキが同数ならば残った騎馬の数。
それも同数ならば、大将同士の一騎打ちで勝敗を決める。
トーナメント戦なので、最後は勝ち残った2クラスが優勝となる。
奉活のとき、俺は大規模合戦を見た。
それと比べるとやや物足りないが、これは体育祭の種目であり、常時練習している人たちには敵わないのは当たり前。
怪我人続出しても、学校側が困ると思うし、これでいいのだろう。
「じゃ、俺が大将をするから、本番ではみんな守ってね」
「もちろんです」
「死ぬ気で守ります」
「本番はそれでいいとして、いまは五騎でバトルロイヤルするか」
俺はこの騎馬戦で大将をする。つまり騎馬の上で戦う。
男性を上に乗せて騎馬戦を戦い抜くのは難しいと考えるかもしれないが、この世界の彼女たちは、普段から男性の役割を担っているし、学校を卒業後も、男性が職に就くのが当たり前の業界にだって、平気で飛び込んでいく。
男性が少ないのだから、文句を言う女子はいない。
ゆえに彼女たちが「できる」と言ったら本当にできるし、「やる」と宣言したのならば、きっとやり遂げてくれる。
俺は大将に恥じない戦いをするだけだ。
あと女性に支えてもらって戦うの、ちょっと楽しい。
ビバ体育祭だ。




