182 菊祭り(1)
先日、俺が真琴たちにした『お願い』。
実は、特区外にある神社のお祭りに行きたいので、同行してほしいと言ったのだ。
まさか、特区の外、しかも人が多く集まるお祭りに行きたいと俺が言い出すとは思わず、軽くパニックになっていた。
なぜ俺がそんなことを言いだしたかというと、とある神社で毎年、『菊祭り』が行われる。
実はこれ、『子宝祈願』の祭りだったりする。
俺のヘルパーをしてくれた郁美さんに、『子宝祈願の御守り』をプレゼントしようと思ったのだ。
女神からこの川崎の神社を教えてもらい、調べたら、ちょうどいい時期にお祭りをやっていることが分かった。
しかもこの時期だけ、いろいろ子宝系のグッズが買えるらしいのだ。
これはもう、行くしかないでしょと姉を誘ったら、どうやらその日、全国模試があるらしい。
姉が模試を休んで行くと言い出したので、慌ててしまった。
とにかく姉を説得し、自分のことを優先してもらいたいと言ったのだが、「でもそうするとタケくん、一人で行きかねないから」と譲らない。
ならばと、俺は中学の班員だった真琴たちに付いていってもらうと説明して、何とか承諾を得たのだ。
母は、「あの子たちが一緒ならいいわよ」と即答していた。
母よ、最近放任気味では? グレちゃうよ?
というわけで、菊祭りの当日。
東京特区南側出口の前で待ち合わせをしたのだが……。
「この人数は……なに?」
真琴たちの後ろには、白い布で顔を隠し、杖を持った大勢の女性が直立不動で控えていた。
「今回、特区の外に行くでしょ。大勢が集まる祭りだから、私たち四人だと少し不安があったのよ」
裕子の説明は分かった。分かったのだが……だからといって、僧兵みたいなのが必要なのだろうか。
「大丈夫なの?」
捕まったりしない? テロリストと間違われる可能性とかない?
「ギリギリ武器とみなされない長さがこれくらいなのよ。これなら、杖として言い逃れできるから……心細いと思うかもしれないけど、全力を尽くすわ」
裕子が馬鹿になった? 俺が聞きたいのはそういうことではない。
「いや、その格好と人数……」
顔を隠しているところは、西部開拓時代の列車強盗みたいなんだが。
「私たちのクラスを中心に、少しずつ声をかけたの。ちょうど六十人で打ち止めにしたわ」
「……というと、俺とファミレスでおしゃべりした子たち?」
テロリスト、いや僧兵……じゃなくて女子高生たちが一斉に頷いた。迫力がありまくりだ。
「杖を横にすれば、滅多なことはないわ。三重で囲えるくらいの人数はいるし」
「ちょっと意味が分からないけど、そうだね……で、顔を隠しているのは?」
「撮影対策よ。武人くんの写真はさすがにSNSには上がらないけど、他はそうはいかないでしょ。私たちの学校内でも話題になると、いろいろと問題があるの」
うん。やっぱり、何言ってるか分からない。
ただ、彼女たちがわざわざ俺のために今日、来てくれたことだけは分かった。
逆に考えれば、「さすゆう」が四人じゃ厳しいと考えたのだ。
外見僧兵を六十人も集めたことを重視したい。
「つまり、それだけ危険な場所?」
俺はただ、祭りに参加したかっただけなのだけど。
「一年に一度、この日のために日本全国から子宝祈願に集まるわけだしね。過去、将棋倒しで死人が出たこともあったわ」
「……死人。祭りのことだよな?」
「祭りのことよ」
「……ごめん、俺の認識している菊祭りと、ちょっと違う気がしてきた」
もとの世界の菊祭りで、死人は出たことはないはずだ。
裕子に説明を受けたが、どうやらこの世界の『子宝祈願』は、もとの世界のとほんの少しだけ違うらしい。
子宝祈願は、神様に「子供を授かりますように」と願うのだが、この世界、妊娠するのは大変だ。
俺がこの前担任に質問したが、女性が妊娠しようとするならば、国の機関に登録し、順番を待たねばならない。
ようやく順番が回ってきても、チャンスは五回。大金を支払って、たった五回のチャンスをものにしなければならないのだ。
失敗すればまた大金が飛ぶし、順番待ちが発生する。
歳を重ねれば、条件は段々と悪くなる。
そりゃ、必死になるのも頷ける。
菊祭りには、子どもが欲しくて欲しくてしょうがない女性たちが集まるのだ。
「それに昔、夫婦で子宝祈願に来た人がいたのよね。変装はしていたのだけど、バレちゃって、噂が広まってパニックになったって」
「…………」
「というわけで、決死隊を募集したの……迷惑だった?」
「いや、ありがとう。それと今日一日、みんなよろしくお願い」
俺は一人一人の決死隊員にお礼を言い、握手をして回った。
今回、俺が子宝祈願の御守りを買いに行くには理由がある。
郁美さんは34歳。できれば今年のうちに夫の子を授かりたいのだという。
といってもいまはもう10月上旬。すぐに今年は終わってしまう。
郁美さんの願いを叶えるため、俺はひと肌脱ぐことにした。
思い悩んだすえ、すぐにスイーツを持って白穂のもと、つまり森の祠へ向かった。
今回はもう一人(柱?)の女神はいなかった。
未来を確率で見ることができるので、郁美さんに子が授かる可能性を視てもらいたかったのだが、叶わなかった。
すると白穂は、川崎市にある岩取神社へ行けばいいと教えてくれた。
なんでもそこは昔から子宝祈願の神社として、全国的に有名らしい。
ならばと行くことにしたのだ。
白穂いわく、そこにいる女神は霊験あらたからしく、それなりの実績もあるらしい。
女神の名前は美桜。ただし、よほどのことがないと顔を出さないので、いまの時代、知っている人は皆無だろうと。
女神の格でいったら、美桜の方が白穂よりよっぽど上らしく、黄金とコガネムシくらいの差があるようだ。
ちなみにこの岩取神社のことを姉に聞いたら、芸能人などが婚姻を結ぶと、決まってここを訪れるので、知っている人は多いらしい。
そこで祈願して子宝を授かると、今度は京都府にある安産祈願の神社へ詣でるとか。
なんにせよ、大量の護衛に守られて、俺は川崎行きの電車に乗るのだった。




