019 班員決定
「宗谷くん、おはよう……うわっ!? それなに?」
「おはよう、淳……で、これ、何に見える?」
「研究資料に使う参考文献とか、論文集?」
「だいたいあってる。正解は、クラスの女子が持ってきた自己紹介文だ」
「かすってもいないよね、それ」
「中身はだいたいあってる」
「……そうなんだ」
俺が読んでいる冊子を盗み見ながら、淳がドン引きしていた。
俺が仕分けをしたところ、女子38名中、特区内生は22名とそれなりに多かった。
受験倍率から考えると、特区外からの受験者は相当数いたはずである。
おそらく「学力以外の何か」で落とされたのだろう。
午後までに班員を決めておかねばならないのだから、ゆっくりしていられない。
「こりゃ、授業時間中も内職しなきゃ、だめかな」
「……そうだろうね」
隣から、呆れた声が聞こえた。
それにしても淳は、どういう基準で班員を選ぶつもりだろうか。
授業がはじまった。
といっても、まだ入学してから二日目。席は昨日と同じで適当。
授業は教科書の序盤を軽く説明する程度のようで、本格的な感じではなかった。
俺は授業そっちのけで、自己紹介文を読んだ。
一応、二時間目の終わりまでに、だいたい読み終わった。
さすがに誕生からいままでの軌跡や、ラブレターもどきのところは飛ばして読んだ。
「なるほどね……劣等感と向上心に、わずかな希望ってとこかな」
特区に住むには、親のステータスが重要だ。希望してもなかなか住めるわけでもない。
住みたいけど住めないという思いが、親から子へと受け継がれている気がする。
自己紹介文にもそれがよくあらわれていて、母の希望とか、宿願なんて言葉が出てくる。
15歳の女の子が宿願なんて言葉を使わなくてもいいだろうに。親の仇討ちかなにかかな?
特区外の女子は、母親ができなかったことを努力で手に入れた。
特区内の学校に通えば、男性とお近づきになれる。
だが、特区外にいたらそれはゼロだ。
なぜなら昨今の男性は、わざわざ女性と触れ合うために特区から出ることはない。
だからこそ、努力でここへやってきたのだ。
自己紹介文(?)にその思いがよくあらわれている。
いま一番売れている漫画は、外から特区に遊びに来た主人公が、そこで男性に見初められるというものだという。
テンプレというやつで、手を変え品を変え、似たような作品がでてくる。
それは特区外にすむ女性たちに共通した憧れ、夢、想いなのだろう。
「どう? 決まった?」
選ぶだけで大変そうだねと、淳が同情の視線を向けてくる。
ちなみに「念の為」と淳にも自己紹介文(?)を提出した女性がかなりいたが、淳は「僕は受け取らないから」と、笑顔ですべて突き返している。
豪華な装丁の自己紹介文(?)など、淳はいらないだろう。俺もいらないが。
でも全部突き返していいのかと思ったが、こういうのは変に希望を持たせない方がいいらしい。
淳は淳なりに考えていることがあるのだろう。
三時間目の授業が終わり、ついに委員会や班を決める時間がやってきた。
今日はこれでお終いらしいので、終わりを気にしなくていいようだ。
まず委員会や係が決められる。
男性は委員会に入る必要がないらしい。入った方が問題があるようだ。なぜだ?
「中学とは違うからね。委員会の用事にかこつけて別の教室にやってきたり、放課後に呼び出したりする女子がいるんだよ」
「委員会の活動は授業時間外だから……そういうことができるのか」
「委員会活動なんです」といえば、会う理由なんていくらでもつけられる。
遅くまで二人で学校に残ることも可能だ。
それで過去に、何かあったのかもしれない。
「ちなみに女子の総意で、男子を委員長に推薦する場合が以前は多かったらしいよ」
男が委員長なら、班以外の女子が話しかけても自然だ。
うん、少しでも機会を持とうとするのはいいけど、本来の仕事とは関係ないな。
ある意味、邪な理由で委員長に選ばれるわけか。
たしかに男性は委員会に入らない方がいいかもしれない。
正当な活動が阻害されかねない。
委員会と係が決まるのをぼーっと眺めていたら、なぜかあっさりときまった。
女子が総力を挙げてテキパキと動いていたように思う。
このクラス、こんなに団結力があるのか。
「さて、残るは班決めです」
新しく委員長となった海城しぐれさんがそういうと、教室が一斉に静まり返った。
いや、だれかが生唾を飲み込むゴクリという音が聞こえた。
「慣例にしたがって、まず男子の希望を聞きたいと思います」
「久能くんと宗谷くん、希望をお願いします」
俺から発表しようかと思っていたら、おもむろに淳が立ち上がった。
「僕は前間さん、見附さん、八代さん、高藤さんにします」
教室内から女性の悲鳴が響いた。それは選ばれたからか、選ばれなかったからか。
「り、理由をう……伺っても、よ、よろしいですか?」
「親の職業とだけ」
そう言って淳は座った。
よく分からないが、すでに親の職業までリサーチ済みらしい。
「分かりました……それでは宗谷くん、お願いします」
さて俺の番だ。
ゆっくりと立ち上がると、俺以上に緊張している女子の顔が目に入った。
「俺は昨日伝えた通り、特区外から選ぶことにします。そしてまずは礼を言わせてください。今日、みんなから自己紹介文をもらいました。これはあとでじっくり読ませてもらいます。いまは班決めに必要なところだけ目を通しました。その上で決めたのは……」
ここで一呼吸置く。
すがるような目をした者、手を組み拝んでいる者、平静を装っているが、頬が真っ赤になっている者と様々だ。
「遠野さん、橋上さん、菊家さん、青野さんの四人を希望します」
淳のときと違って、悲鳴は上がらなかった。
「理由を伺ってもよろしいでしょうか?」
「いいですよ。俺はいま名前をあげた四人の顔を知りません。ですから完全に、自己紹介文から選んだことになります」
「そういえばっ……」
教室内からそんな声が聞こえた。普通、男性が女性を選ぶとき、容姿や家柄が基準となるからだろう。
どういう基準で選んだか興味があるだろうし、あとで憶測が飛び交っても困るから、この場で理由を話しておくのは、俺にとっても悪いことではない。
「中学のとき、俺の班はとても個性的で過ごしやすいものでした。それは一人一人の役割ができていたからだったと思います。三年間という短い高校生活の中で、一年間をともに過ごす仲間は、とても大事です」
何人かが頷いている。
「ですので、俺は中学のときにならい、個性的な人たちを選びました。どう個性的だったのかここでは述べませんが、とてもおもしろい一年間になるのではないかと期待しています」
俺がなぜ自己紹介文を書かせたのか、その理由に思い至ったのだろう。
みなそれぞれアピールしてくるポイントがあった。
その中で、親や親類、会社やコネなどを推してきた人たちは外した。
あくまで彼女たちがどういう人物なのかだけを見て選んだ。
みなに伝えたように、きっと楽しい一年間になると思う。
その後の班はすんなりと決まり、班ごとに集まって話し合いの時間になった。
なるほど、終わりの時間を気にしなくていいのは、便利だな。




