179 反論の効果
くだんの反論動画か投稿されて半日。
この時点で、コメントは1000を超えていた。いつもより多い。
ネガティブコメントの削除は、しないように伝えてある。
この動画が話題になれば、コメントは賛否含めて、さらに増えるだろう。
ちなみにブロックされたユーザーだが、別アカウントを作って男性に嫌がらせを繰り返した場合、普通に逮捕される。
逮捕とコメント投稿を天秤にかけたら、普通は躊躇する。
「さてさて、どんな感じかな」
コメント欄をスライドしながら眺めると、案の定、長文コメントが連投されていた。
何度でも言うが、これは想定の範囲内。
意外にも、それらを覆い隠すかのように、擁護のコメントで溢れていた。
「よく言ってくれた」「まったくもってその通り」「あいつらのせいで何度、推しが引退していったことか」など、鬱憤が溜まっていた人も多いようだ。
俺的には、「うっふん」が溜まった女性の方が好きだ。
どこかにいないだろうか。
もちろん、徳操会っぽい書き込みもすぐに見つかる。
「コメント欄は、書きたいことを書く場所だ」とか「一方的に主張を制限するのはおかしい」と言った論調だ。
この程度しか反論できないのだろうか。
俺としては「拍子抜け」感がハンパない。
「もっと激しく炎上すると思ったんだけどなぁ……」
「男性に対してだからね。いろいろ引っかからないように押さえてるんだよ」
淳の言う通りだろう。なにも、書き込みしている全員が覚悟完了しているものでもない。
「よしよし、それじゃこのまま……毎日、反論動画をアップしていこうかな」
俺が嬉しそうに言うと、淳は「信じられない」という顔をした。
もちろん、続けるに決まっている。
――俺の告知動画を見てくれてありがとう。ネットの世界だと、どうしても言い過ぎることってあるよね。俺はあまり気にしていないけど、俺の動画を楽しみにしてくれている多くの視聴者もいるんだ。俺は動画を見たすべての人に楽しんでもらいたいと思っている。だから、相手を貶めるコメントは止めてほしい。……こう考えたらどうかな。いま書き込んだコメントは、あなたの家族、友人、先生や上司を前にしてに言えるか、考えてほしいんだ。ここはマナーのある空間にしたいから、みんな書き込む前に俺が言ったこと、思い出してほしい。
二日目の動画も投稿し終わった。
コメント欄は相変わらず荒れている。ただ、総数は減ったように思う。何人かが冷静になったのだと思いたい。
「いま書き込んでいるのは、怖いものなしの人たちかな?」
コメントを見ていると、「私たちは間違ってない」というものが多い。
表現こそ違うが、その根底にあるのは、「自分たちは正しい。相手は間違っている」というものだ。
残ったのは、狂信的な人たちの可能性がある。
というわけで三日目の投稿は、その辺を突っついてみることにした。
――『思想』はその人の心の中、頭の中でもいいけど、自分の内にあるものだと思う。それを外に出そうとすると、『主義』や『主張』になるんじゃないかな。これらは、自分が心の中で思ったことを口に出しただけで、絶対的な真理ではないんだ。だれもが主義や主張を持っているわけだね。だから、互いに持っているものを一つにしようとしたらそれは闘争になってしまう。だれだって、自分の心の中にあるものを強引に変えられたくないよね? だから、俺はこう思うんだ。自分の主義や主張は大事にするのは当たり前。それと同時に、相手の主義や主張も大事にしよう。自分のは大事で、相手のは大事じゃないと考えるから、主義主張が正しい、正しくないなんて争いがおきるんだと思う。
三日目の動画が投稿されてから、またネガコメが減った。いいことだ。
これでもまだ相手の主張は間違っていると発言している人もいるが、かなり少数派になってきたように思う。
動画への低評価爆撃は相変わらずだが、この辺はどうでもいい。
四日目、五日目と正論を垂れ流していくうちに、相手は疲弊していくだろう。
うん、我ながらいい手を思いついたと思う。
その日の放課後、俺は真琴、裕子、リエの三人に呼び出された。
動画の撮影もあることだしと、数寄屋造りの家に呼んだ。
もちろん彼女たちも俺の告知動画は見ていたらしく、できるだけ連絡を取らないよう話し合っていたようだが、毎日一本、律儀に投稿していることから、「これはしばらく続くな」と考え、話を聞きにきたらしい。
「……というわけで、正論で反論するのが一番効果があると思ったんだ」
一通り説明を終えると、真琴は「はぁ~」と頭痛を抑える仕草をした。
「高校に入ってから、武人くんの周り……騒動が収まる気配がないわね」
失礼な。それだと俺が騒動をおこしているみたいじゃないか。
「同じ高校に行けなかったのが悔やまれるわ」
いやだから、俺は騒動なんておこしていないのだが。
「たぶん、これからも同じだと思うよ」
なぜ信用されないのだろうか。不思議だ。
「しかし徳操会ね。たしかに正論で反論するのはいいけど、このあとどうするつもりなの?」
「相手の心が折れるまで続ける」
正論だけに、論破するのは難しい。
相手は同じ主張を繰り返してくるだろうが、正論相手では効果が薄い。
「そううまくいくかしら」
疑問を呈したのは裕子だ。
「裕子は、うまくいかないと思ってる?」
「実体のない集団というのはやっかいなものよ。ちょっと私でも、この先どうなるか予測が付かないわ」
ここまではうまくいっているが、それを聞いても裕子は、楽観視していないようだった。
たしかに俺が相手にしているのは、人の心だ。
人の心はそうそう簡単に変わるものじゃない。
「長期戦でいくさ」
俺は自分の周囲だけでなく、なるべく多くの女性を幸せにしていきたいと思っている。
今後、目立つことは避けられない。
今回は動画のコメントだったが、どこでどのような形でぶつかるか分からない。
そのときのために、いつでも反論できる足場をつくっておきたいのだ。
「長期戦ね。何かあったら、私たちにも言ってよ。必ず協力するから」
「おう。もちろんだよ。頼りにしてるぜ」
俺が冗談で「コンゴトモヨロシク」と言ったら、なぜか顔を真っ赤にしていた。
真琴が「うぇっ!?」と変な声をあげ、裕子が「こ、今後とも……ね」と恥ずかしそうにうつむき、リエは「ボ、ボクは全然構わないよ」とテレテレだった。
悪魔合体のゲームって、この世界では発売されていなかったわ、そういえば。




