178 方針決定
家に帰って、徳操会についてネットで調べてみた。
「これだ」と説明しているものは少ないが、いくつかの解説を読むと、同じ思想を持った集団というのが分かった。
淳が言ったように、中心となる組織や団体は存在しないようだ。
本人たちは集団という意識すら、ないのかもしれない。
だれかが見つけてきた「ネタ」に飛びつくことで、団結力を維持しているようにみえる。
一般に目にする徳操会の活動は、ほとんどがそれ。
目立つ男性芸能人の悪口をネットに書いたり、投書したりしている。
それが主な活動にしか見えない。
「実態がない分、よく分からないな」
彼女たちからすると、俺がステレオタイプの男性像から逸脱していて、許せないのだろう。
それを攻撃することで、彼女たちの気分がよくなるのかもしれない。
不思議なのは、女性に対しても攻撃的な言動が見られること。
擁護する女性に対して暴言を吐いている。
こちらは、相手が男性ではないから、より直接的な……つまり、攻撃的な言動が多い。
ネットでは極端な人、声の大きい人が目立つ。
ゆえにごく一部だろうが、その考えが多数であるように思えてしまうから不思議だ。
「まあいいや。だいたい分かった」
今回、徳操会の女性から狙われた。この場合、どうすればいいか?
最適解は『無視』だろう。相手にしなければいい。
喧嘩を売ると逆効果になるし、議論しても相手は絶対に納得しないだろう。
そもそも、同じ場所に下りて行くことになる。
ネットで活動している以上、敵対はよくない。エネルギーばかりが費やされて、効果はないと思う。
やり合っても、終わりが見えないのはやっかいだ。
だが俺は、あえてその選択をしない。もちろん『謝罪』もしない。
学校で菊家さんには詳しく説明しなかったけど、削除より効果の高いやり方がある。
俺は自分の動画についたコメントを読みつつ、計画を練った。
今日は動画撮影の日。
数寄屋造りの家にいつもの班員が集まった。
「徳操会の件は、みんな知っているよね。俺の対応方針が決まったから、伝えておこうと思ってね」
動画のネガコメは順調に増えている。菊家さんたちが消していないのだから、当たり前だ。
「視聴者同士で、コメントバトルしているようです」
橋上さんが心配そうな顔をしている。もちろん、想定の範囲内だ。
「分かってる。今日は反論動画を撮ろうと思うんだ」
そう告げたら、菊家さんの眉根が寄った。
「反論ですと、徳操会相手に口実を与えるだけではないでしょうか」
「うん。そう思うよね。だけど、これを見てほしいんだ」
俺はこれからの方針と、動画で語る内容を記したノートを渡した。
反論の仕方はいたってシンプル。ただ、正論を述べるだけだ。
正論を言い続けると、相手は疲れてしまう。
正論しか言わない人は孤立する。正論ばかり言っていれば、いつしかだれも相手をしてくれなくなってしまう。
もしすぐに友だちを無くしたいのならば、正論だけを言い続ければいい。
正論を言われ続けた友だちは、ほどなく去っていくことだろう。
今回はそれを採用した。
もちろん正論を言う相手は、その徳操会に限定する。
『徳操会にだけ響く正論』を俺は言い続けてみようと思う。
俺たちは、理性的かつ論理的に反論するのだ。
相手はどうするだろうか。おそらく感情的になる。そして暴走する。
周囲の女性たちは、それを見てどう思うか。
賛同してくれるか? いや、そうはならないだろう。
中には、徳操会の思想に共感していても、目が覚める人が出るんじゃなかろうか。
「だいたいの流れはこんな感じかな。……じゃ、試しに撮ってみよう」
俺は流されるばかりの人間じゃない。
コメントで攻撃してくるのなら、動画で反撃してやる。
――今回は、残念なお知らせがあります。最近、動画の内容と直接関係のないコメントが増えてきました。俺の動画が注目されて、多くの人の目に留まることは大変嬉しいことですが、コメント欄はあくまで、動画に対するコメントをするところです。動画に関係ないコメントについて、ご理解いただけたらと思います
まずはこれでいい。いきなりあれこれ言ったり、多くの要求をしたりするのは違うと思う。
この動画をアップして、反応を見てみるつもりだ。
「それじゃ、これをお願いね」
「分かりました。編集してすぐにアップいたしますわ」
さて、どうなるか見物だ。
橋上さんは、その日のうちに俺の反論動画をアップしてくれた。
まだアップしていない動画が四、五本あったようだが、こっちを優先してくれたようだ。
タイトルは「【告知】みなさんにお願いがあります」と簡素なもの。動画の中身は、タイトルから窺い知れない。
本編はたった57秒。1分にも満たない短いものだが、それでいい。
翌朝、学校に行くと、クラスの人たちが息を潜めて俺を見ていた。あの動画を見たのだろう。
「おはよう、淳。今日も早いな」
「おはよう、宗谷くん。……僕が代表して聞いた方がいいと思うけど、昨日の告知動画。あれはどうしたの?」
「おう、あれか? なんか俺ってさ、徳操会のターゲットになってるじゃん。喧嘩を売ってきたんだったら、高く買ってみようと思ってな」
「まさか真正面から反論するとは思わなかったよ」
「ネットで調べたけど、徳操会に狙われた男って、みんな自主的に露出減らしてるんだよな。自分から埋もれようとしてる感じ?」
「そうだね。攻撃されたから、目立たないように行動したんだと思う」
「それで徳操会は『自分たちが正しい』と思っちゃうんだろうな。俺はただ、それを正しただけだよ」
相手の間違いを指摘するのは勇気のある行動だ。
大抵の場合、感謝されない。相手は気分を害すことが多いと思う。
言われて「失礼だ」と怒る人もいるだろうし、「自分は正しい」とムキになって反論する人もいると思う。
この世界の男性は、そんな不毛なことに多大なエネルギーを使いたがらない。ゆえに楽な方へ流れようとする。
それでは、いつまでたっても勘違いが正されないままだ。
本当は簡単な方法で、反論できるのに。
「宗谷くんの言いたいことは分かるけど、僕は面倒だと感じるし、いちいちやり合うのは時間と労力のムダだと思っちゃうかな」
「だよな。普通そうだと思う。……ただ俺はほら、ちょっと違うから」
そう言ったら、耳を大きくして聞いていたクラスメイトたちが「ですよね~」と頷いていた。




