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016 女神の話(2)

 女神から、特区ができる前の話を聞いた。


 昔から、男性が自然と集まって暮らしていたのは納得だ。

 集まらずにはいられなかったのだろう。


 そしてそんな男性の潜在的な欲求を法で定めたのがアメリカだ。

 ただしそれは、多くの一般女性から、男性と接触する機会を奪うものだ。


 最初に法整備をはじめたアメリカは、世にいる大多数の女性から反感を買っただろう。

 反対運動――デモもおきたかもしれない。


 その分、男性には受け入れられただろうが。


 日本の男性もそこに多く移住してしまったため、日本もアメリカのマネをすることになる。

 それが特区の始まりだという。


「特区ができてからは、男性の渡米も減ったんでしょ?」


『すぐに特区ができたわけではありませんので、徐々にでしょうか。たとえばこの東京特区ですけど、完成までに十年かかっているんです』


「それは……結構かかっているね」

 十年は長い。でも東京のど真ん中に町ひとつ造るのだから、そのくらいかかって当然か。


『反対もあったようです。他にも問題が……たとえば、特区に住むことができない女性や会社は立ち退きするわけですけど、その費用の捻出に国は頭を抱えたといいます』


「そんな大変だったの?」


『当初の予定では、男性一人に対して、女性四人から、五人くらいを予定していたらしいですね。もっともそれだと経済が回らないので、その倍の十人前後に落ち着いたようです。男性の十倍の女性が住めるわけですが、その中には男性の家族もいますので、実際に住める一般女性はもっと少なくなります』


 結局、ほとんどの女性が特区から去る計算になるとか。

「だから立ち退きか……」


『特区ができると、日本中から男性が移り住んできましたので、アメリカの政策は間違ってなかったということでしょう』


「男性には、そういった潜在的な願望があったのかな」

『そうですね。男性が徐々に移住してきて、特区に住むことのできない女性が徐々に去って行くわけですけど、とりわけ、特区にいられない会社の立ち退きが大変だったようです』


「会社の引っ越しか……大変そうだ」


『会社の場合、利益が出ようが、出まいが関係なく、特区に拠点があるならば、多額の税金が発生します』

「それは厳しいね」


『オフィスなどはまだ平気でしたけど、広い土地を使う業種は軒並み立ち退いたようです。その跡地は公園や原生林として蘇らせて、周囲をフェンスで囲い終わったのがおよそ50年前です。その時点で特区条例が施行されて、特区内では男性の権利が法によって守られることになりました』


 女神の話は詳細で、この身体の持ち主も知らないことが含まれていた。

 黒歴史っぽいところもあるため、中学校では習わないのだろう。


 逆に、金銭的な部分は習った記憶がある。

 たとえば、この特区を維持していくために、特区外からかなりの税金が注ぎ込まれている。


 他にも、特区に住む男性は毎月、生活支援金を受け取っている。

 すべての女性は、毎月150円を男性の生活支援金として供出している。


 微々たる金額だが、男女比のぶっ壊れた社会だと、毎月10万円の小遣いとなるのだ。

 人数比の暴力を見た気がした。


 そして特区に住む女性たちには、様々な名目で税金が徴収されている。

 彼女たちはそれを受け入れ、唯々諾々(いいだくだく)と支払っている。


 だがそれをすれば、男性が住んでいる地域で暮らせるのだ。

 金で解決できれば安いものだと考えているフシがある。なんたるアメとムチ。


 ちなみに男性にも金の暴力は存在している。

 共学校に通う十六歳以上の男子には、奉仕活動が義務付けられている。


 簡単に言うと三時間ほど、どこかで笑顔を振りまかねばならないのだ。

 ただ、それを一回行うだけで15,000円も貰える。


 時給に換算すると5,000円だ。なんとワリの良いアルバイトだろうか。

 この奉活(ほうかつ)は、最低でも年に10回行うらしいが、回数に上限はない。


 希望すればいくらでも受けられるため、就職しなくてもそれだけで食っていけるほどだ。


 この奉活は、就職すれば免除となる。

 逆に男子大学生は全員が奉活する義務があるし、就職しない男性もそれは同じ。


 女性の希望を叶えてやってください。

 その代わりお金は払いますよということだ。


 三時間、愛嬌を振りまくればいいのだからさぞかし……と思ったら、世の男性諸氏は嫌々通っているようだ。もったいない。


「俺も十六歳になったら、奉活に行けるか。楽しみだな」

 奉活で男子が訪れてくれるのを世の女性たちは心待ちにしてくれている。


 申請する企業や団体、女子高、女子大などは後をたたないというのだから、よりどりみどりだ。


『武人くんの誕生日は五月二十日ですから、結構すぐですね』

 女性にちやほやされて、お金まで貰える。やばい、毎日でも行きたくなった。


「奉活って、学校が休みのときに行くんだよね」

『そうですね。大抵は土曜日に設定されます。男性が訪れる場合、臨時出社や臨時登校で調整するようですよ』


「土曜参観みたいなものか。その翌日が休みになったりするんだよな。……ということはあれか。男が行くだけで、会社や学校の予定まで変更するのか」


 訪れるだけで、通常の予定を変えさせるのだから、冷静に考えるとすごいことだ。

 それだけ奉活を心待ちにしているのだろう。


『話としては、そんな感じでしょうか。どうですか? 少しは参考になりましたか?』

「ええ、とても」


 有用な情報を聞けたと思う。

『では次のお供えを期待してますので、おいしいものをお願いしますね』


 おいしいものか。それはいいんだけど、俺を食べ物を運ぶ生き物と思ってないか?

 まあ、飢饉(ききん)の女神らしいとは思うけど。


 俺は女神に礼を言って、今日は帰ることにした。

 これからは頻繁に、お供え物持参で訪れようと思う。


 手ぶらで来て、天罰とか落とされたらたまらない。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] まだ途中ですが気になったので。 奉仕活動が義務なら報酬は不要では? 男性が各種税金で支援金が支払われるなら、男女比からして人口政策的に男性に求められるのは、女性に愛想を振りまく事では…
[気になる点] 奉仕活動、3時間15000円は男性の価値的な問題からすると相当安い気がするんですがボランティアだと思って安めにしてるのかと思ったら主人公的には高額なんですね 特区内の物価ってどんな感じ…
[一言] 特区の成立に至るまでの流れとその弊害がしっかり描写されていてとても良かったです。 「星ひとつ」の頃からそうですが、茂木先生の作品は、こういった点がしっかり練り込まれているのでストレスを感じず…
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