117 生放送が終わって
「それではみなさん。また次回、お会いしましょう。さよなら!」
言い終えた瞬間、放送画面は、「生放送終了です。ありがとうございました」に差し替わった。
「マイクの電源も落としました。お疲れさまでした。終了です」
「……ふう」
橋上さんの言葉とともに、俺は大きく息を吐き出した。
「武人くん、お疲れ様。すごくよかったよ」
「宗谷様、同時視聴の最高接続数は、7300になりました」
「それは多いのかな?」
「わたくしが把握している限り、最高の数値です」
「そうなんだ……」
なぜ初回生放送配信で最高が出る?
「隣の部屋に食事が用意してあるから、まずは食べましょう」
裕子に言われて時計を見たら、午後8時を回っていた。
「まるまる2時間、喋りっぱなしだったのか」
疲れるわけだ。そして腹が減った。
この家にはまだ、冷蔵庫や電子レンジなどがなにもないので、すべて出来合いのものだ。
生放送前に注文し、配信中にだれかが取りに行ったらしい。取りに行ったといっても、徒歩1分程度の荷物受取所だが。
「それじゃ、打ち上げをしましょう」
乾杯の発声を頼まれたので、それっぽいことを言っておいた。
「今日は遅いけど、菊家さんたちは、大丈夫なのか?」
「うん。明日は日曜日だから、私たちはバラバラに泊めてもらうことにしたの」
告知から開始まで一週間あったため、準備は万全のようだ。
そういえば、この家に布団はない。俺も家に帰らなければ。ここも俺の家だけど。
夕食と打ち上げを予定していたのか、お弁当の他にジュースとお菓子も並べられている。
「しかし、すごい数の人が見てくれたんだな」
嬉しいが、これからのこと、世間に与える影響を考えると、責任重大である。
彼女たち満足させる動画をこれからも配信し続けていかねばならない。
「コメントの中で欲望丸出しなのはこっちで削除しておいたわ」
男性配信者には、一定数、そういう人がくるらしい。
「コメントといえば、自動削除されたのも結構ありましたね」
「自動削除?」
「URLを載せたり、禁止ワードがあったり、全文英語のみなどは表示されませんが、私たちの側は見ることができます」
宣伝目的でやってきた人や、以前話に出た外国人の視聴者がいたのだろう。
「英語を許可するのは?」
「コメントが英文で埋め尽くされることになるかもしれません。変な人が一人でもいると、何十というIDを使い分けてきますから」
「それはだめだな」
スパムを投下する相手には、いくらキックしても意味がないらしい。
そして海を越えた日本からじゃ何もできないだろうと、好き勝手やるのだそうな。
「明日以降でいいんだけど、こうすればよかったみたいなのがあれば、言ってくれるかな。生放送は第二回、第三回と続けていきたいし」
「分かりました。レポートにしてまとめておきますわ」
「……ほどほどでいいからね」
こうして俺は、第一回の生放送を無事終えることができた。
このあと、特区外から来たメンバーは、真琴や裕子たちの家へ、バラバラに泊まるため帰っていった。
もちろん俺も家に帰った。
夜、布団に入ったが、生放送中の興奮が忘れられず、しばらく寝つくことができなかった。
そして日付が変わる頃、ようやく俺は夢の国へ旅立っていった。
――1年●組のカイト・メッセンジャーグループ
【若のためなら】若をやさしく見守る会 part16【死んでもいい】
名無しコメント:もうすぐ生若様がご降臨されるわ
名無しコメント:我が校の若様が、世界の若様になろうとは
名無しコメント:きた
名無しコメント:キターー!!
名無しコメント:若様だ
名無しコメント:若 様 生 ラ イ ブ 開 始 !
名無しコメント:……あれ? 静かになった? みんなは?
名無しコメント:動画に集中、一言すら聞き漏らさず脳内に保存中
名無しコメント:ちょっ! 告白!?
名無しコメント:我らの若様になんてことを……何様じゃい
名無しコメント:許すまじ
名無しコメント:地の果てまで追いかけて、生きてきたことを後悔させてやる
名無しコメント:……若様、やさしい
名無しコメント:さすがは若、わたしたちを平等に見てくれる
名無しコメント:グズっ、わたしマジ泣きした
名無しコメント:私も。若様、カッコ良すぎる
名無しコメント:つまり若様は、わたしたちを分け隔てなく愛してくれていると
名無しコメント:なんと慈悲深い
名無しコメント:こうなったら、若グッズを全種類揃えて……あれ?
名無しコメント:私はコンサートのチケットを……あれ?
名無しコメント:テレビで予約録画して……あれ?
名無しコメント:若って、もしかしてまだ一般人?
名無しコメント:いやまさか……そんなはずは
名無しコメント:すでに何度かレッドカーペットを歩いてらっしゃ……らない?
名無しコメント:このまえ受勲されなかったっけ?
名無しコメント:あれ?
名無しコメント:あれれ?
名無しコメント:キオクがコンランしている
名無しコメント:みんなしっかりしろ
名無しコメント:若はまだ、動画配信をはじめたばかりの高校一年生という罠
名無しコメント:わたし、トラックに轢かれて異世界転生してたかしら
名無しコメント:ヒーローゲームの中に紛れ込んでしまった可能性も微レ存
名無しコメント:いやいや、だから現実だから
名無しコメント:帰ってこい
名無しコメント:カムバーック
名無しコメント:こんな、こんな……若みたいな人が現実にいるの――っ!?
名無しコメント:いや、気持ちはめちゃくちゃ分かるけど
名無しコメント:この生放送見ている人、みんな思っているはず
名無しコメント:わたし、一組に行きたい。若の班員になりたい!
名無しコメント:それを言っちゃ、おしめえよ
名無しコメント:若ぁー
名無しコメント:若ぁー
名無しコメント:この動画、アーカイブとして残してくれるよね?
名無しコメント:ッ!?
名無しコメント:大丈夫……よね?
名無しコメント:信じよう……若を
名無しコメント:つか、いま気づいたけど、この生放送を制御しているのって誰?
名無しコメント:若と一緒にいるのは……誰?
名無しコメント:…………
名無しコメント:…………
名無しコメント:わくぁわあああああああーん(涙)
これにて第3章はおしまいになります。
明日は117.5話として、閑話を載せます。




