117.5 勧誘 (※ 宗谷美奈代の場合)
宗谷美奈代は、二ヶ月かけて取材した内容を報告書にまとめた。
広報局から中央局へ出向した当初は右も左も分からず、ただ言われたことだけをしていたが、最近になってようやく「本質」というものが理解できてきた。
「やっていることって、ただの権威付けなのよね……」
各方面のお偉いさんと会ってインタビューしてきたが、美奈代がいてもいなくても別段、仕事は変わらない。
ご機嫌伺いと言えば差し障りがあろうが、酒屋の御用聞きよりも重要度は低い。
ようは「蔑ろにしていませんよ」というポーズのために会いに行っているだけなのである。
「どうりで中央局の人がやらないわけよね」
美奈代は書き上げた報告書を上司である篠千尋に提出した。
「宗谷さん、よくできているわ」
「ありがとうございます、篠主任」
その場で報告書に目を通した千尋は、満足そうに頷く。
出向した当初であったならば喜んだかもしれないが、いまでは気分の高揚もない。
「夏には、ネオ特区構想が発表されるわ。私たちの仕事はこれからも続くの。引き続き、よろしくね」
「かしこまりました」
美奈代は殊勝げに頭を下げる。
すると千尋は「そうそう」と、たったいま思い出したかのように、続けた。
「あなたのお家に男の子が住んでいるんですって?」
意外なことを言われた。たしかに住んでいるが、それを公言したことはない。
中央局に出向してからはとくにその辺のことは話していなかった。
「はい。姉の子ですが……篠主任はどこでそのことを?」
「その子ね、娘のクラスメイトみたいなのよ。同じ苗字だったし……ごめんなさいね。少し調べたの」
なるほどと美奈代は納得する。
姉の子のことを知っている者は少ない。
美奈代の扶養家族ではないし、姉とは財布は別にしている。当然、税金の扱いも別なのだ。
住所が同じだけで、基本的に別家族として扱っているため、役所にある書類からでは把握できないはずなのだ。
ゆえにまさか知られているとは思わなかった。
「武人くんは、近頃では珍しい、とてもいい子です。主任の娘さんと同じクラスとは知りませんでした」
「合縁奇縁というものかしら。あなたとはうまくやっていけそうな気がするわ。どうかしら、今ならあなたのお姉さんとその息子さんをネオ特区に推薦できるのだけど。もちろん、あなたたち家族も」
「推薦ですか?」
ネオ特区は、まだ発表こそされていないが、既存の特区にない新しい試みを多く取り入れている。
中でも、これまで以上に厳しい女性の選別が行われることになっている。
選ばれる基準は不明だが、選別すると言っている以上、そこらの女性が受かるとも思えない。
さらに学業や観光などで、ネオ特区に入ることはできなくなる。
特区外から観光に来た人によるハラスメントなどが問題になることを考えれば、当然の措置かもしれないが、外からの通学も規制するのは、かなり先進的な試みだと思える。
住める女性の数もかなり少なく予定していて、男性の心の負担を限りなくなくす努力がなされている。
加えて、居住できる女性にも厳しい基準が設けられ、家柄、財産、容姿などで優れていることが条件になっているとも言われている。
そして、驚いたことに男性すらも制限するらしいのだ。
まさに選ばれた者による、選ばれた者たちの町。それがネオ特区だという。
美奈代は、これまでの仕事を通して、その辺のところは十分に勉強してきている。
「武人くんも喜ぶのではないかしら」
そう言われて美奈代は考える。
たしかに高校に上がる前だったら、そうだろう。
より環境が整っているなら、その町に住みたいと言ったはずだ。
だがいまはどうだろうか。
それほど頻繁に会っているわけではないが、かなり性格が変わったと思っている。
反対に「仲のよい女性と離れたくないので、行きたくない」と言い出すのではなかろうか。
「姉の家族のことです。私には、判断つきません」
「あらそうなの? でもいい話だし、定員は決まっているわけだから、登録だけでもしておきましょうか?」
「いえ、姉はそういうことは嫌う人ですので」
美奈代は慌てて首を横に振る。
発表される前に席が確保されていると知ったら、絶対に移住しないだろう。
インサイダーのようなものを異様に嫌うのだ。そういうところは母親に似ていると、美奈代は思っている。
「でも、一気に移住するわけではなく、最初はかなり人数を絞ることになるの。私も向こうに行くし、あなたにもついてきてもらいたいわ」
たしかに最初はかなり数を絞ると聞いている。
不具合が出たときのため、余裕を持たせているのだとも。
移住のテストも兼ねているため、駄目なところを洗い出すのだろう。
そのかわり、税制面ではかなり優遇するようだ。
「どこからそんなお金が」と思うほど、このネオ特区計画に大金が注ぎ込まれている。
国が出した補助金では到底まかなえない額だ。
華族の影がちらついていることから、何らかの取り引きがあったのだと推測できるが、それにしても動く金額が大きい。
町ひとつ分なのだからそれは当然だと思うし、そうでもしないと継続して町を維持していけないのだろう。
「姉は公平さを尊ぶ人ですので、このネオ特区計画が発表されたあとで聞いてみます」
「そう? 残念ね。でもいい回答を期待しているわ。では次の仕事に移ってちょうだい」
美奈代は「かしこまりました」と頭を下げた。
「男女比がぶっ壊れた世界の人と人生を交換しました」ですが、今年の投稿はこれで最後になります。
次は4章です。これまでの物語に大まかな決着がつく感じになります。
連載再開時期は未定ですが、その間は同時連載中の「ダンジョン商売」などどうでしょうか。
こちらは、現実世界でもし「ダンジョン生成」スキルを持ったらどうなるのか。
それを使って、商売してみようぜという感じで物語が進んでいきます。
よろしかったらぜひご覧下さい。
それでは良いお年を。




