116 ハプニング
生放送の一回戦目は、問題なく終了。
俺も含めて、参加者にまだ硬さが残っており、互いに様子見な感じだった。
会社員と名乗った女性は、終始あがりっぱなしで、ゲームの方も精彩を欠いていた。ナム。
男性を生で見たこともないと言っていたので地方在住は確定、特区にも来たこともないのだろう。
大学生と高校生が互いに二勝ずつ、俺が一勝で迎えた六戦目。
女子高生が『配達人』で大学生を下し、次の順で俺が自爆したことで、彼女の勝利が決まった。
「おめでとう!」
「ありがとうございます。運が良かったです」
勝った女子高生が嬉しそうだ。
「カード運に恵まれたけど、それを引き寄せたのも実力だよ。あとカードを切るときに慎重だったよね。『情報屋』をうまく使っていたのが勝因だったんじゃないかな」
勝者にインタビューして、部屋を解散した。
これで視聴者も、どんな流れになったか分かっただろう。
「新しい部屋を作ったよ。パスワードは、富士山の標高。これは発表されている数値ね」
すると、部屋にポンポンポンと三人が現れた。
コメント欄を見ると「遅かった!」で溢れる。
「もう全員そろったみたいだね。パスワードは3776でした。富士山のようにみななろうで覚えてね」
ルームに入ってきた三人に自己紹介してもらうと、中学生と高校生が二人だった。
暗記モノは、現役の学生が強いのかもしれない。
単純に、見ている中高生が多いのかもしれないけど。
ゲームの方は多少慣れてきたので、彼女たちと雑談を交えつつ、穏やかに進行していった。
勝ったり負けたりを繰り返しつつ、俺と中学生が一勝、高校生二人が二勝で迎えた七戦目。
山札がなくなっても勝負がつかず、手札に書かれているカードの数字が大きい方の勝利となった。
こういう勝敗の決まり方は珍しく、俺は練習でもまだ一度も経験していなかった。
「……勝った」
勝者の女性がそんな声をもらした。
「おめでとう。接戦だったね。勝因はなんだと思う?」
インタビューしようと思ったところで、それはおこった。
――好きです
ついに来たかと俺は思った。
実はこの生放送をするにあたって、仲間内で想定問答集を作っていた。
「今後の生放送にも役立つから」
そう言われて、数百もの問いと回答を暗記させられたのだ。
暗記……この一週間、辛かった。
場を荒らす発言をした人、ゲーム進行を妨げる人などはキック……つまり、ゲームから追い出す権限がルーム作成者に与えられている。
だが、なるべくそれは使いたくない。
できるだけ穏便に済ませられるよう、質問をうまくかわせればいいのだ。
コメント欄には「何様」とか「通報」などの物騒な言葉が並ぶ。
「ありがとう。そう言ってくれるのは嬉しいよ。……あのね、みんなも聞いてほしいんだ」
真琴から「希望を持たせちゃだめ。きっぱり断りなさい」と言われている。
言いたいことも分かるので、俺は悪役になってでも、断るつもりだ。
この男女比がぶっ壊れた世界で、下手ななぐさめは逆効果になるし、期待を持たせるわけにもいかない。
「キミに相応しい相手がいつかきっと見つかるよ」なんて言葉は、この世界では無意味だ。
そんな相手がいるのなら、この社会はここまでいびつになっていない。
「俺はね、できるだけ多くの女性に声を届けたいんだ。……いや、男性にもだね。そのためにここにいるって言っていいと思う」
今回告白してくれた女性のパワーには頭が下がる。相当な勇気を出したことだろう。
もとの世界でも、アイドルの出待ちのために何時間も立って待っているファンがいる。
少しでも長い時間、握手するために多くの身銭を切って商品を買っているファンがいる。
もとの世界でもそうなのだ。
この世界なら、それ以上の思いをぶつけてきても、ちっとも不思議ではない。
だから俺は言う。
「キミのその気持ちは、いま声に出していない大多数の女性を代弁したものだと思っている。声なき声というのかな。コメントしてくれている人たち、コメントしなくても心の中で思っている人たちも同じ想いだと思っている。だから俺は、キミと同じく、声を出していない……出せなかった多くの人たちにも、言葉を届けたい」
真琴から言われた「期待させるな」という言葉。
それは俺の心にヒビを走らせる。
「俺はキミたちの思いに応えることはできない。ここでこうやって直接語りかけるのがせいぜいだ。……だけど俺はキミたちと対等に、そして等しく接したいと思っている。ひいきすることなく、無視することなくだね。ここにはいろんな人が来ているよね。みんなのことを愚かとも思わないし、邪険にも扱わない。……俺はキミたちの特別にはなれるけど、キミだけの特別にはなれない。だからごめん。そのかわりここで、俺と繋がっていこう。それでいいかな?」
「…………………………ハイ」
長い、長い沈黙のあと、彼女はそう囁くように言った。
なるほど、異性の想いを断るには、これほどの労力、心の痛み、エネルギーが必要なのか。
そうだったのか……。
モテない者の痛みは、十分過ぎるほど知っていた。
もとの世界で、どれだけ涙をのんだことか。
だが、その逆の者の気持ちを俺はいまはじめて理解できた……気がする。
告白してきた彼女の気持ちは分かる。
俺だってもとの世界で、これが最後の機会だと思ったら、しただろう。
可能性がコンマ以下と分かっていても、俺はしたと思う。
だからもう一度言おう。彼女の気持ちは分かる。
悲しいことに分かってしまう。
そしてその気持ちに応えることができない。
だからせめて、平静を装ってやさしく、彼女を傷つけないよう。
きっぱりと断るしかないのだ。
その後も生配信は続き、多くの参加者が出たが、なぜかみんなとても行儀が良かった。




