115 生放送開始
あれから一週間が経った。
今日は、『恋の配達人』生放送の日だ。
実況動画も70万再生を超えて、いまなお再生され続けている。
コメントを見る限り、一人で何度も視聴しているらしく、正確な視聴者の数は分からない。
それでも新人DoTuberとしては、驚異的な数字だと思う。
この一週間、裕子がいろいろと動いてくれた。
ネオ特区計画には華族の力が働いているということで、紅家のところまで出かけていったりもした。
さすがの裕子でも、華族の繋がりや力関係については詳しくないので、よく知る者に聞いた方がてっとり早いらしい。
敵対していたのによく行く気になったなと思ったが、「あの子、武人くんのファンになったみたいよ」ととんでもないことを言い出した。
「敵対してたじゃん。どこにファンになる要素があったの?」
「舞踏会館で呼び寄せた護衛を投げ飛ばしたとき?」
「そんな前から!?」
まったく、事実は小説より奇なりといったものだ。
「生放送を楽しみにしてるみたい」
「動画も見てるの!?」
いろいろびっくりだ。
それで今日の生放送だが、入念な準備をしている。
アクシデントがあると困るので、中高の班員が全員、「俺の家」に集合している。
なぜそこまで過保護に……とも思ったが、言っても聞かないので、こうなってしまった。
数寄屋造りの日本家屋に、俺を入れた八人が集まっている。
「武人くん、緊張してない?」
「何度もリハーサルをしたから大丈夫だよ」
ちなみに俺より、周囲の方が緊張している。
俺はまあ……楽しみの方が勝っている。
スタートは午後6時。もうすぐだ。
すでに「開始までお待ち下さい」の画面が表示されているため、コメントが流れてきている。
楽しみです、待ってましたと、期待しているものが多い。
「ないとは思うけど、変なコメントがあったら、すぐに消すからね」
「うん。頼むよ……そろそろ開始かな」
編集画面の方には、俺とゲーム画面が2分割されて表示されている。
これを「お待ちください」の画面と入れ替えれば、放送開始だ。
深呼吸ひとつしてから、俺は合図を送った。直後、画面が切り替わり、音声も入る。
「みなさん、こんばんは。武人チャンネルにようこそ。今日ははじめての生放送ということで、前日からドキドキワクワクしていました」
コメントに「こんばんは」がものすごい勢いで流れはじめる。
「俺の音声と映像が届いているでしょうか?」
するとコメントで「大丈夫」「オーケーです」と返事がある。
「平気なようですね。では今日の目的、視聴者のみなさんと『恋の配達人』をプレイしていきたいと思います。みなさん、準備はいいですか?」
そこで画面に向かって、微笑みかけた。
なぜかコメントが一瞬止まった。
「はじめに部屋をつくりますが、その前に注意事項です。よく聞いてくださいね」
一通りの注意事項を述べたあと、部屋づくりを始める。
部屋を作る段階でルールを決めるのだが、これはあらかじめ伝えてある。
4人プレイのだれかが先に3勝したら勝者となる。
参加者のみボイスチャットあり、観戦ありの設定にした。
勝者が出たら部屋を解散して、新たに作り直す。
「それじゃ、最初の部屋を作るね。部屋番号は『1025』だね。パスワードだけど、4桁の最大素数を入れたよ。みんな分かるかな?」
打ち込んだパスワードは****で表示されるので、画面からは見えないはずだ。
ただ、4つの文字か数が入力されたことが分かるだけ。
そしていま、生放送を見ている大勢の人たちが一斉にパスワードを打ち込んでいるはず。
4人部屋なので、3人枠がある。
ポツポツと部屋に入ってくる人がでてきた。
はじめて十数秒で、3人分の枠が埋まった。
「全員揃ったね。ちなみにパスワードは、9973でした」
コメントで『9997』を入れたとか、『9991』だと思ったというのが多い。
実は9974から9999まで、素数ではないらしい。裕子からそう教えられた。
単純にパスワードを言うよりも面白いんじゃないかと言われて採用した。
「おっ、全員マイクオンになっているね。自己紹介してもらおうかな」
「は、はじめまして……」
「緊張しているかな。ゆっくりでもいいよ」
コメントが流れる中、若い女性の声が届く。
このゲーム。マイクチャットをしながら遊ぶことができるのだが、もちろん、相手側にマイクがないと意味がない。
いま、設定で視聴者にもマイクの声が聞こえるようになっている。
どんな原理なのか、機械音痴の俺には分からない。
「ゲームの音が視聴者に届くようにできるのですから、参加者の声だって、同じように届けられますわ」
そんな風に橋上さんに言われ、「そうなんだ」と納得しただけだ。
機器類のリハーサルはすでに終わっているので、準備してくれた仲間たちを信じよう。
「全員自己紹介は終わったね。それじゃ、はじめようか。俺の手札は隠すからね。それと俺は、ゲーム中はずっと実況画面を見ないので、みんなのコメントも読めないからね」
初回対戦者は、会社員と大学生と高校生らしい。見事ばらけた。
俺が白で、それぞれ黒、赤、青が割り当てられている。
俺はカメラにスマートフォンを見せた。
俺は参加者の手札は見えないし、参加者も俺の手札が見えない。
「それじゃ、一回戦は気合いを入れてやろうかな。いくよ」
初の生放送対戦が始まった。
註)9997=13*769 、 9991=97*103 となって素数ではない。
クリスマスイブですね!
「恋の配達人」ですが、ご存じの方も多いと思いますが、「ラブレター」というカードゲームを参考にしています。
カードゲームは複数の種類があり、追加カードもあったりします。
ほかにコンピューターゲームもありまして、私自身、CPU戦でも1000試合は確実にやっています。ちょっとした息抜きにいいですよ。いまも飽きずに毎日やっています。
カルカソンヌとかチケット・ツゥ・ライドとかのボードゲームの方が好きなんですけど、こういった純粋なカードゲームもよくやります。オススメがあったら教えてください。




