111 クラスでゲーム大会
相変わらず、クラス……いや、学校全体が浮ついている。
じっとこちらの様子を窺っている感じだ。
登校すると橋上さんが寄ってきた。
「あの……宗谷様、英文の許可をコメントにお願いしてくる方が多いのですけど」
朝っぱらから、何の話だろう。今日は英語はなかったはずだが。
「えと、どういうこと?」
話ながら気づいた。動画のことだろう。
「現在、公開された動画へのコメントは指定言語……日本語ですわね。それのみ許可しているのです」
「それに英語を加えてほしいってこと?」
「はい。どうやら海外で、音声なしの映像が話題になったようでして」
「か?」
「海外の視聴者が増えているのです」
「…………」
聞いてみると、各国で法律が違うため、インターネット上では世界共通のルールがない。
法を犯した国のルールが適応されるのはどこも同じだが、取り締まりには限界がある。
「特区条例では外国在住の方を縛れませんし、意味がありません。男性相手にやりたい放題される場合がありますので、許可しない方向ではあるのですけど」
インターネット上で、相手が男性だとハメを外しやすいらしい。
世界の女性は、鬱憤が溜まっているのかな?
リスクヘッジの一環で、母国語以外のコメント投稿を制限できる機能をつけているようだ。
おそらく運営会社の方針なのだろう。
「その辺のことは分からないから、橋上さんに任せるよ。俺は英語読めないし、何書かれても気にしないけど、コメント欄が英文であふれると困るしね」
「そうですね。要検討ということにして、このままにします」
「それより、姉さんと息抜きに『恋の配達人』やっているんだけど、これが結構ハマっちゃってさ。カード持ってきたんで、放課後やらない?」
――ざわっ!
教室に風が吹いた。
そう表現できるほど、教室内の空気が揺れたのだ。
「あれ? みんないっしょにやりたい?」
――コク、コク、コク、コク、コク
「じゃ、空いてる人だけ放課後集合。クラスでゲーム大会しようよ」
「「「○■△%□#■□!!」」」
よく分からない「わー」だとか「きゃー」だけでなく「うぉー」や「ぎゃー」「ぐぁー」「ぐおー」が入り混じった歓声が響いた。
当然のごとく、隣の教室から人が押し寄せてきた。いや、クラスメイトたちがすぐ押し返していた。
集まってきた人たちを鼻息荒く追い散らさなくても、いいからね。
――1年●組のカイト・メッセンジャーグループ
【若が】若をやさしく見守る会 part11【今日もやらかした】
名無しコメント:1組の話、聞いた? 若と一緒にゲーム大会したみたい
名無しコメント:『恋の配達人』でしょ? 一緒にやりたかった
名無しコメント:勝手に部活休んで、顧問に怒られてもヘラヘラしてたって聞いたけど、それのせいか!
名無しコメント:おのれ1組、許すまじ
名無しコメント:さすが若
名無しコメント:でも普通、やる?
名無しコメント:若様だから
名無しコメント:若様だもの
名無しコメント:みつこ
名無しコメント:勝敗どうでもいいから、やりたい
名無しコメント:でもなんで『恋の配達人』? たしかにロングセラーのカードゲームだけど
名無しコメント:大学受験を控えているお姉さまの息抜きに購入したとかなんとか
名無しコメント:若様のような弟と息抜きしたら、受験そっちのけでハマる自信があるんだけど
名無しコメント:これがほんとの逝き抜き
名無しコメント:そして人生を棒に振るのであった
名無しコメント:でも不思議よね。どうして『恋の配達人』なのかしら
名無しコメント:そしてどうして、私は1組じゃないのかしら
名無しコメント:もうみんな1組でいいと思うの
名無しコメント:たしかに我がクラスに男子はいるけど
名無しコメント:いるだけなのよねえ……
名無しコメント:若様ぁ……
名無しコメント:若様ぁ……
名無しコメント:カムバーック!
放課後のゲーム大会は大盛りあがりだった。
ホームルームが終わると、用意してあった紙を廊下側の窓に貼り付け(なぜ?)、引き戸の間にえんぴつをかませて開かないようにして(なぜ?)、プレイする順番まで決まっていた(いつのまに?)。
みんな、手際良すぎない?
というか、よくルール知ってたな。
だれかが3ポイント取るまでにすると、1ゲーム8分から10分少々。
終わったら、俺を除いてローテーションする。
やめ時が分からない……というか、次の順番待ちが殺気立っているので、結局2時間半も続けてしまった。
雑談しながらだったので、もうヘロヘロだ。
だがその甲斐あって、話しながらプレイするのには慣れた。これは大きな収穫だ。
それとゲームの読み合いも理解できるようになってきた。
プレイ中の雑談で聞いたのだが、授業そっちのけで『恋の配達人』のルール把握に努めたとか。
どうりでみんな、歴戦の強者みたいなプレイすると思った。
でも彼女らは、優秀な生徒だろうに。成績が落ちたらどうするつもりだろうか。
昨日撮影したゲーム実況動画は、橋上さんが今夜アップロードするというので、その反響をみながら、次を考えてみてもいいだろう。
「今夜、動画を配信するから、楽しみにしててね!」
そう言ったら、「まさか」とか「もしや」と察してくれた。
もちろんこの場で詳しい話はしない。
彼女たちならきっと見てくれると思うから。
なんにせよ、初のゲーム実況動画。
そして来週の生放送が楽しみだ。




