104 動画からはじまる意識改革
「ではそろそろ、動画の話の続きを聞かせてほしいのだけど」
「ああ、そうだな。どこまで話したっけ?」
忘れていたわけじゃないけど、さっきの話が衝撃すぎて、大した話じゃないように思えてくる。
「武人くんの身バレは想定済み。それよりも、最近のおかしな話を伝えたいってところまでね」
「そうだった。……大勢に意見を届けるために、まず有名になろうと思ったんだ」
「さっきの話からすると、それだけじゃないわよね。どちらかというと、もっと大きな何かを考えている感じかしら」
さすが裕子。よく分かっている。
「きっかけは些細なことなんだけど……」
俺は入学式のあとで遭遇したもろもろのことを裕子たちに話した。
幸い、彼女たちは処罰を免れた。だが、俺以外の男子だったら、どうだろうか。
「不幸な事故として片付けたくないから……世の中の意識を変えるつもりなの?」
「さすゆうだ」
「……?」
「いや、どうしてそこまで分かったんだ?」
説明する手間が省けてしまった。さすゆうにも程がある。
そう、俺は最終的には、世の中の雰囲気を変えたいと思っている。
「みんながみんな、武人くんのように振るまえれば、些細な事故で学校を去ることはなくなるわ。けど、意識を変えることは大変よ。男性だけでなく、女性だって変えていかなければいけないわけだし」
「そうなんだよな。だけど、『みんな変わろう』と言っても、付いてくる人はいないと思うんだ。だからまず、俺が動こうかと思ったわけ」
「ちょっ、ちょっと待って。いま一体何の話をしているの?」
真琴が慌てている。話についていけてなかったのか。
「俺の不注意のせいで、女子生徒が退学になりかけた経験から、男女がもっと歩み寄る必要があると思ったんだ。だけどいま、女性から歩み寄るのは不可能だろう? まず俺から動こうとしたわけ。俺の他に男子が続いてくれれば、次第に理解してくれる人が増えるんじゃないかって思った感じかな」
「それで動画投稿を?」
「インフルエンサーってやつ? 俺の一言で多くの人が共感してくれるようになれば、社会が変わるかもしれないし」
幸いなことにと言っていいのか、世の若い男性は、動画で自己主張するようなことはしていない。
今ならば、先行利益というのだろうか。
大勢に中に埋もれずに、言葉を届けることができると思ったのだ。
「たしかに武人くんだったら、人気なんてすぐに出ると思うけど……」
真琴は裕子に「それって、大丈夫なの? 周囲の影響とか」と聞いてくる。
「予想するだけ無駄よ。私にもどこまで広まるか分からないし」
「裕子でもそうなんだ……」
「もう動き出しているから、途中で止められないものね」
10万再生いって、裕子たちの目にも留まった。たった数日でだ。
「今後、うまくコントロールできるか分からないけど、俺はいま、この状況を楽しんでいるよ」
「動画見て、結構ビックリだったのよ。相談ひとつなかったし」
真琴がふくれている。
「ごめん。けど何かしなくっちゃって思い立ったのは、入学式のあとだったんだ。イメージが具体的になりはじめたのは、中央駅に行ったときかな。それまで、撮影機材とかに興味なかったから」
なんか、ああいうのは、頭のいい人専用というイメージがあるのだ。
カタログにある細かい数字とか聞かされても分からないし。
「たしかにビデオカメラとかは野外で撮影するためのものだから、これまで興味がなかったのは分かるけど……高校の班員に詳しい人がいたのね?」
「そうだね。橋上さんって言うんだけど、彼女がいなかったら、実現しなかったと思うよ」
橋上さんには本当に感謝している。
「それで意識を変えて、何をしたいの?」
裕子の目は真剣だ。
「過度に男性を守り、過度に女性へ我慢を強いることを止めさせたいかな。もう少し自然に互いを理解し合えるといいと思う。それともう一つ。これは大事なことなんだけど」
俺は先ほど裕子から聞いた言葉を思い出した。
まさか、中央府が敵にまわるとは、思ってもみなかったのだ。
「特区条例を振りかざして、自分たちのいいように住民の感情を扱おうとしているような連中が、世の中にはまだ、大勢いると思うんだ」
「それは党人会の話よね。でもいまの言い方だと、他にも?」
「権力を振りかざしているなら、華族だってそうだろ?」
舞踊会館のあの件は、忘れていない。
動画が有名になり、俺の意見を無視できなくなったとき。
俺はこの社会の矛盾を全国民に投げかけてみたい。
もし、私利私欲のために他人に犠牲を強いているなら、すべて白日のもとにさらしたい。
国民にその是非を問いかけたい。
そして、俺の周囲にいる女性たちに手を出した党人会。
俺の母の会社とつながりのある会社に手を出した中央局。
彼女らには、日頃の行いを後悔させたい。
「何を偉そうにと思うかもしれないけど、先に手を出してきたのはあっちだからね。喧嘩はちゃんと買ってあげなきゃ」
そこまで言い切ると、裕子はもとより、真琴やリエが「やっぱり、高校に行くと大人になるのかしら」と言っていた。




