103 中央府と党人会
裕子が党人会について詳しく調べてくれたという。
動画のことは一旦おいといて、話を聞いてみた。
「とてもおかしいの」
「うん、それは分かる」
党人会について調べれば調べるほど、おかしなことが出てくる。
「あまりに不審過ぎて、一周回って、党人会が方針転換したのかと思ってしまったわ」
随分な言い様だが、それだけ裕子の琴線に触れたようだ。
知識収集欲というか、裕子は謎なものを謎なままにできない性格なのだ。
「それで、どんな感じだった?」
「党人会、中央府、治安維持局……どこも真っ黒ね。ちょっと知らないうちにどうしてこんなことになってしまったのかしら」
「えっ?」
真っ黒って、どういうこと? なんかヤバそうな話に聞こえるのだが。
「特区の評判を落とそうとする陰謀が、密やかに進行しているの」
もちろん裕子は陰謀論の推進者ではない。俺は裕子のことを信じている。
つまり、陰謀が本当にあり、それに従って世の中が悪い方へ動いていることになるのだが。
「分かりやすく教えてくれるかな」
「そうね。まず党人会だけど、メンバー全体の三分の一が、主義主張の異なる人たちと入れ替わっていたの」
これをたとえると、右翼団体の構成員の三分の一が、左翼思想を持っている感じらしい。
「それって、マズいことなんじゃ」
「かなりよくないわね。党人会というのは本来、特区制度を制定した党人系議員の下部組織として活動していたのよ。特区賛成派で構成されるべきなのに、実際はその逆よ」
「もしかして俺の班員に因縁をつけてきたのって……」
「特区反対派ね。同じ思想を持った治安維持局のメンバーと組んで、『男性のため』と声高に叫びながら、男性と一緒にいる女性を排除しにかかってたのよ」
裕子はSNSを通して、そういう被害にあった話を収集し、直接連絡を取り、詳しい話をすべて聞き出したという。
嘘や悪乗りもあったようだが、それでもめげず、直接連絡を取った。話した相手は、百数十件にもおよんだという。
「大変だったんじゃ……」
「半分は私の好奇心だから」
つまり残り半分は俺のためということだ。裕子には頭が上がらない。
「いまの話だと、中央府の治安維持局も同じなんだよね?」
「そうね。建物前を張って一通り写真を撮ったし、いろんな人たちに『この中の誰?』と確認したから間違いないと思うけど、真っ黒な人の素性がそれで判明したわ」
中央府の官報を詳しく見て、異動先と異動元を検証した結果、ここ数年で新しく入って来た人員は皆、京都や他の地方からやってきた職員ばかりだったという。
「その人たちが原因?」
「ええ。そして地方は華族のお膝元。華族が人事に絡んでいるなら、職員の経歴をロンダリングするなんて、訳ないわ」
華族の使用人を役所の職員として異動させるくらいはお手の物だという。
「同じことを繰り返すけど、それ、かなりヤバいことなんじゃ……?」
「この時点で分かって良かったわね。党人会と治安維持局は味方もいるけど、敵も多いみたい」
「…………」
今後、問題がおきたとき、どこのだれを頼ればいいのだろう。
「そしてそれを認めている中央府も駄目ね。さすがに組織が大きすぎて全部は調べられなかったけど、ここで面白い事が分かったの」
「面白いこと?」
それは逆に、面白くないことではなかろうか。
「京都に六番目の特区を造る計画が進行しているのよ」
「ネオ特区計画かっ!」
「武人くん、知ってるの!?」
「同じクラスの同級生に誘われたんだ。断ったけど、そのとき聞いたのが、ネオ特区って名前だった」
「まさかそんなところに繋がりがあったとは……ちなみに、なんて名前の人?」
「名前? えっとたしか……篠……下の名前は忘れちゃったかな」
「篠……中央府中央局の主任に篠千尋という人がいるの。その人が、実質的にネオ特区を推進しているリーダーよ」
「へえ……同じ名前ってことは……ええっ!? ちょっと待って! なんで中央局の人がネオ特区を推進しているの? おかしくない?」
自分たちの仕事では、男性を満足させられないと言っているようなものだ。
まじめに中央局の仕事をしているなら、反対すべき立場じゃないだろうか。
「普通はそう考えるわよね。でも推進しているの。根回しは各方面に亘っているから、調べる人がいたら、ある程度の情報は集まると思うわ」
「逆にそれだけ、計画は進んでいるわけか」
「そうなるわね。そして大事なことだけど、中央府の一部分の人たちはネオ特区に賛成しているし、治安維持局の行動を黙認している。党人会とのつながりもあるのよ」
「つまり全部裏でつながっている?」
裕子は頷いた。
話が大きくなってきた。
「これは組織的な犯行ね」
「犯行って……」
「公務員の倫理規定違反よ。男性に不快な思いをさせるような行動を黙認どころか、推奨しているなんて、公にされたら、何人かの首が飛んでもおかしくないもの」
「かなり危険なことをしているのは分かったけど、どうして……?」
「どうしてこんなことをしているのか、よね?」
俺は頷いた。
リスクがデカすぎる。
「巨大なリターンが必要だと思うけど」
「ええ、私の予想だけど、これはネオ特区推進のための下地作りじゃないかしら。東京特区を住みにくい町にして、男性をネオ特区に移住させようとしていると考えたら、つじつまが合うの」
「住みにくい町に……? あっ、公共料金!」
理由をつけて……というか、特区条例を拡大解釈してわざと公共料金を値上げさせる方向に持っていっている。
たしかあれも中央局の管轄だと奉活局の天城さんが言っていた。
あれもこの謀の一環だとしたら、どうなるだろうか。
特区に住むために、人々は多くの税金を支払っている。
そのおかげで公共サービスは行き届いていると思う。
当たり前だ。そのように都市計画をしているのだから。
だが、たとえば慮外者を取り締まる治安維持局が、無辜の市民に牙をむいたら?
特区条例を監視する中央局が、無理難題を課してきたら?
そのしわ寄せは特区住民、ひいては男性自身にまで及ぶ。
そうなったら、男性はどう考えるか。
「なんだか最近、住みにくいな」
そう考えるのではなかろうか。
この世界の男性の多くは、こらえ性がない。貧乏にも慣れていないし、逆境に身を置いたこともない。
嫌ならば、拒否すればいいのだ。社会はそういった男性に優しくできている。
義務さえ果たせば、そうそう生活で困ることはない。
だが、その生活そのもので困ったらどうだろうか。
周囲にいた女性たちは因縁をつけられ、サービスの質が低下し、お金ばかりが上がる。
身近な人は不満ばかりもらして、最近いいことがない。
特区は、男性にとっても住みにくい町になるはずだ。
「ネオ特区ができたら、内容しだいだけど、飛びつく男性も出てくるかしらね」
「そこに住む女子の数を絞って、質も上げるって言ってたよ」
選ばれた女性だけがそこに住める。
だから男性は、より安心して住めるのだと篠さんは言っていた。
「とんだ蛇が隠れていたものね」
いまはまだ予想に過ぎないが、なんだかとても嫌な予感がした。




