102 やりたいこと
家の中を詳しく見て回りたかったが、裕子たちに動画の説明をしなくてはならない。
縁側に腰掛けて話すことにした。
「考えたのは、結構前の話なんだけど、高校って特区の外からも通ってくる生徒がいるだろ」
「そうね。各校とも何割かは、特区外生を受け入れているわね」
完全自由競争にしてしまうと、特区外生が特区の中に通い、特区在住の学生が特区の外へ通うことにもなりかねない。
特区に住んでいる中学三年生の数と、高校の全募集人数から、外部生をどの程度受け入れるか、計算しているらしい。
そういうところは、抜かりないのだろう。
「外から通ってくる彼女たちを見て、視野が広まったというのかな。思うことがあったんだ。特区の外にも世界は広がっている。その人たちのことを俺はもっと知りたいと思った」
「前も同じようなことを言っていたけど……大変なことよ」
「分かっている。実際に外に足を運ぶのは難しいけど、声を届けるならできるんじゃないかなって、漠然と思っていたんだ」
特区にいながらにして、特区内、特区外双方に声を届けるには、どうしたらいいか。
直に交流できないのならば、メディアを通せばいいではないか。
そこまで考えて、一方的だが、こちらの主張を映像に乗せて、拡散させてはどうかと考えた。
そんな話をしたら、裕子はこめかみを揉んで、真琴は遠い目をした。
リエはすごいすごいとはしゃいで、真琴にデコピンをくらっていた。
俺は一息ついて、縁側から庭の様子を眺める。
「あの砂はなんだろ」
「枯山水ね。砂や石で自然を表現するのよ」
「ああ、神社仏閣にあるような……って、ここ観光地なの!?」
「紅家の趣味なんでしょう、きっと」
日本庭園みたいな庭だなと思ったが、まんま日本庭園だった。
何言ってるのか、自分でも分からない。
「でも武人くん、動画で届けるのはいいけど、身バレするのよ。それも在学中に」
「最初にそれは考えた。けど、顔を隠して声を届けても、何だか伝わらない気がしたんだ」
「つまり、想定済みってことよね」
「そうだね」
「でも、どうして?」
「動画で配信したいかもって思ったのは少し前だけど、実際にやろうって決めたのは、奉活に行ったあとかな。あそこで聞いた、公共料金を値上げするだろうって話が直接のきっかけだと思う」
「公共料金……話が見えないのだけど」
裕子が困った顔をしている。裕子の困った顔は結構、貴重ではなかろうか。
「最近の特区のやり方に物申すっていうのかな、いろいろ承服しかねることがあってね。それを広く周知して、是非を問いたいと思ったんだ」
きっかけは、特区内と外で別会社にする――つまり分社化させなければいけないと言われたことからだ。
荷物がトンネル一本通るだけで、会社を別にしなければならない。
なんて非効率だろうと俺は考えた。
聞いたところ、チェックが倍になるそうだ。
荷物に不備が見つかった場合、どっちの会社のせいなのか、ハッキリさせなければならない。
これは重要なことなのだとか。
アパートのリフォームをするとき、たとえば壁紙を貼る業者と床を掃除する業者が別の場合、日程をずらして作業をするらしい。
先に終わった方が確認を受けて、全体に問題がないことが分かったら次の業者が入る。
そうしないと、関係ない場所、たとえば玄関扉に新しい傷ができた場合、どっちの業者がつけたのか、分からなくなるのである。
つまりアパートのリフォームをするとき、十の業者をバラバラに入れた場合、日程の調整と確認作業の手間が爆発的に増えてしまう。
やることが同じでも、会社が分かれればそれだけ手間が増える。
手間が増えれば、費用だって増えていく。
今回の措置はそんな感じだ。
なぜそんな意味のないことをするのだろう。
しかも流通だけではない。電気、ガス、水道など、本来会社を分けなくていいはずの業種が、まるで狙いすましたかのように、やり玉にあがってしまっている。
このままにしてはいけないと俺は思った。
だがいきなり声をあげても、だれも注目してくれない。
そもそも俺はサービスを享受する側であり、実際には門外漢なのだ。
ゆえに、建設的な議論は専門の人たちに任せようと思う。
俺ができるのは、声をあげて、場を用意することだけ。
そしてもう一つ……二度も党人会に難癖をつけられたんで、その意趣返しもしたい。
「党人会のやりようを批判することになるけど、高校の班員が受けた屈辱を公にしたいんだ」
そのために動画を利用するつもりだ。
「……なるほどね。党人会については少し話せることがあるかな。私も気になって、あれからも調べていたし」
「えっ、そうなの?」
何度か裕子に党人会について聞いたが、どうやら詳しく調べてくれたようだ。前も結構詳しく調べてもらった気がするのだけど。
でも裕子が調べた内容は気になる。
第3章ですが、117.5話までありますので、年末頃まで毎日更新します。
第4章の構想はほぼ固まっています。そして章をまたいだ諸々の問題が大まかに解決します。
物語時間で数ヶ月しか経っていませんが……。
さて、3章は早々と書き上げていたので、今までなにをやっていたのかというと、別作品を書いていました。その方が飽きが来なくていいので。
というわけで本日、新連載として『ダンジョン商売』を4話載せました。
内容は、〈ダンジョン生成〉スキルを使って、現代日本で商売していくというものです。
ダンジョンを造り、そこに探索者を入れて商売する。口で言うのは簡単ですが、ではどうやって実現すればいいの?
そんなところを主人公とその仲間たちが考えながら形にしていく物語です。
ストレスフリーで、難しいことを考えずに読めるお話ですので、ぜひどうぞ。




