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108/422

101 方針転換

 現在、DoTubeに1分少々の動画を10本以上アップロードしてある。

 どれも似たような内容だ。


 遊歩道を歩いたり、ベンチに腰掛けたり、ちょっとした運動をしたりしているものばかり。


 その中の1本でも見てくれれば、芋づる式に他の動画を視聴してくれるだろうということで、多くの動画を作成した。

 いまはまだ呼び水の段階。


 このあと、尺の長い動画をアップロードしつつ、内容にメリハリをつけていく……予定だった。

 だが早くも数日で、人気動画となってしまった。あれ?


「いまは特区外の一部に広まっただけですが、いずれ特区の中でも流行りはじめると思います」

「そうだろうね」


 この流れは止められないだろう。


「撮影場所が特定されると思います」

「ああ、そうか。全部、この学校の近くで撮ったんだよな」


「はい。おそらく来週には特定されるのではないでしょうか」

「意外に早いね」


「落ち着いていらっしゃるようですが……その……学校の予想がつくかと」

「ああ、うん。大丈夫だよ。もとから想定済みだから。ただし、それだったら計画を前倒ししてもいいかもしれないね」


 本格的な動画を1本撮るなら、短くてもいいから、10本の動画を撮ろうということになっていた。

 目に触れる機会を増やす作戦だったが、その必要がなくなってきた。


「分かりましたわ。少し、計画を見直しておきます」

「動画は足りている?」


「もちろんです。あっ、でも今度、私服を撮らせてくださいまし。そういった変化はほしいと思いますので」

「分かった。次の休みとかどうかな。またどこかで撮影しようか」


 ……というような呑気なことを言っていたら、放課後、裕子から電話があった。

 メッセージではなく電話というのが珍しい。


「もしもし、俺だけど」

『武人くん……動画見たわよ』


「あっ、見てくれた?」

『見てくれたって……あれは、どういうこと?』


「うん。話せば長くなるんだけど」

『長くなるでしょうね。だから電話したのよ』


 電話越しでも分かる。苦悩している声だ。

「だったら、会わない? 電話だと話しづらいし」


『……分かったわ。じゃ、学校まで迎えに行く』

「えっ?」


 迎えに行くとは……どういうことだろう。

『もうバス停前にいるから。そうね、あと十分で着くわ』


「じゅ、十分ね。……分かった。待ってるよ」

 さすゆうだ。俺が会って話すところまで想定していたらしい。


 俺はカバンを持って、教室をあとにした。




 裕子と合流してすぐ、いつもと違うバスに乗った。なぜ?

「どこに行くんだ?」


「以前、(べに)家と揉めたときに家をもらったでしょ。ようやく中に入れるようになったから、知らせておこうと思って」


「この前、署名捺印したアレか」


 舞踊(ぶよう)会館で紅家のご令嬢と揉めた。

 俺を力尽くで連れ出そうとして、反対に護衛がのされてしまったあの事件。


 示談(じだん)の交渉をはじめるにあたって、俺は委任状を裕子に渡した。

 裕子は、俺よりよっぽどうまく決着をつけてくれると確信していたからだ。


 裕子が先方に赴いた結果、その役目を見事果たしてくれた。

 詫びに家をぶんどってくる裕子にドン引きだったが、先方はそれで済んで万々歳だろうというので、俺は示談書に署名捺印した。


「次の停留所で降りるわよ」

 外の風景を確認して、裕子は降車ボタンを押した。


 バス停から歩いて数分のところにある一軒家の前で、裕子が止まった。

 どうやら、ここが目的地らしい。


「どうかしら? それなりにいい物件だと思うのだけど」

 つまり、紅家からぶんどった家がこれなのだろう。


「うん、俺にはよく分からない」

 門が立派だ。庭が広い。建物は……日本家屋?


数寄屋(すきや)造りというらしいわ。これしか持っていないっていうから、しかたないわよね」


「へえ……平屋なんだ」

 そんな感想しかでてこない。そういえば庭も日本庭園っぽい。


「紅家が必要なものは運び出したから、残っているものは自由に使っていいみたい。私たちがどうにか住めるようになるまで掃除はしたのだけど、まだ完全じゃないの」


「……ありがとう。がんばったんだな」

 予想外すぎて、感情が追いつかない。


「………………って、何この家!? ヤバすぎじゃない!?」

 ようやく感情が追いついてきた。


「どうしたの、武人くん。急に大声出して」


「いや、だっておかしいでしょ! 鎌倉(かまくら)御前(ごぜん)とか呼ばれる黒幕が住んでそうな家じゃん!」


「でも二階はないし、見た目ほど広くないのよ」

「広くなくても!」


「紅家の本家なんて、寝殿造(しんでんづくり)だったんだから。ここなんて、ただの別荘よ。慌てることはないわ」


 あとで裕子に聞いたら、数寄屋造りというのは、母屋から離れた所に造る小さな別邸のことらしい。

 延べ床面積なら、俺の家の方があるだろうが。でも、そういう話ではない。


「とにかく玄関で話していても仕方ないわ。中に入りましょう」

 ここは俺の家らしいが、玄関から上がるとき「おじゃまします」と言ったのは、仕方ないと思う。


 ちなみになぜか家の中にいた真琴とリエから「おかえりなさい」と言われたので、おもわず「ただいま」と言ってしまった。

 初めて上がる家だが、「ただいま」でも間違ってはいない……はずだ。




 俺がもらったこの家だが、所有権移転は今年の年末。12月31日に登記するらしい。

 税金の計算が面倒くさくないからと裕子が言っていた。よく分からないが、裕子が言うなら、そうなんだろう。


 家をもらうと、税金がいろいろかかるらしく、来年早々に二年分のお金が振り込まれるそうな。

 二年分ってなに? と思ったが、難しいことは考えなくていいと言われた。


 そこまでもらっていいのか謎だが、向こうが合意しているので、いいようだ。


「家具も高級品だな」

「そうね。しばらく使っていなかったし、運び出した荷物もあったみたいで、掃除が大変だったわ」


「ありがとうな」

「いいのよ。武人くんのためだし」


 二年後、俺は高校を卒業する。

 大学には行かない。母親にはそう告げてある。


 男性の大学進学率は三割程度。

 もとの世界より大分少ない。


 これは「いい会社に入るには、いい大学に入る必要がある」という概念がないからだ。

 将来就きたい職業で、大卒以上を条件としている場合のみ、大学進学を考えているからだと思う。


 逆に、大学を卒業して一般の会社に就職するメリットはあまりない。

 大学はすべて共学で、奉活が義務だったりするため、デメリットばかり目につくからである。


 それでも医者や教師、弁護士など、ある一定以上、男子がいないと成り立たない職業があるため、男子大学生がいなくなることはないだろう。


 俺は別に勉強が好きなわけでも、そういう職に就きたいわけでもないので、大学へは進学しないつもりだ。


 そうすると就職することになるのだが、この世界はとにかく人口をしっかりと増やす意味を込めて、働きはじめたら親元から離れて独立するのが一般的になっている。


 動物だって、自分で狩りができるようになれば親元から離れるのだから、その考え方で正しいのだと思う。

 もとの世界で話題になった「こどおじ」のような男性は、かなり少ない。


 もっとも男性としては、結婚までのわずかな間だけでも、一人静かに暮らしたいというのがあるようだ。


 中には通い婚を絶対条件として、一人暮らしを貫く男性もいたりするわけで、高校卒業後、俺が家を出るのはほぼ決まったものと周囲は考えている。


 ここはそのために用意された家なのだ。


「それじゃ、あの動画のこと。じっくり聞きましょうか」

 そう言えばそうだったと、俺の心は、現実に戻された。



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[気になる点] >それでも医者や教師、弁護士など、ある一定以上、男子がいないと成り立たない職業があるため、男子大学生がいなくなることはないだろう。 社会の仕組み的にはそうだろうけど、不利益(?)を呑…
[良い点] 数寄屋造・寝殿造。 さすが華族。ですね。 そして、さすゆう… [一言] 独立。 アパート一間でも、恙無く過ごせたなら大したもの。 昨今は、経済的に厳しいので、 やりたくても環境が許さない方…
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