100 反響
俺が橋上さんに注文したのは、たった一つだけ。
――できるだけ早く始動させたい
そう告げたのは俺だが、まさか昨日の今日で、DoTubeにチャンネルができるとは思わなかった。
いや、早すぎだろ。
『DoTube』は俺もよく見ている最大手の動画配信サイトだ。
昨晩、そこにデビューしてしまった。早いよな。
「数日から、早ければ一週間ほどで、検索に引っかかるようになるでしょう」
橋上さんいわく、視聴されるにはまず、検索に引っかかることが重要らしい。
動画にはタグの付け方が重要らしいが、それ以外にも再生された回数、「いいね」の数、動画の長さなどが関係しているらしい。ただし、そう言われているだけで詳細は不明。
そのあたりの詳細が判明すると、だれもがマネをするから秘密なのだという。
短時間で再生回数が上がると、新着に表示されたりするらしい。
それはみんな知っているため、複数人でいっきに再生回数を稼ぐ作戦を採る人もいるのだとか。
それで俺の動画だが、いまのところ一切の宣伝をしていない。
口コミで徐々に広がるのを待っている状態なので、しばらくは動画の海の中に沈んでいることになるだろう。
「しばらくは、フリーの音楽を流して、音声なしでいきます」
「『策その3』だっけか」
あえて音声を入れないことで、視聴者の想像力をかき立てる作戦らしい。
ゲームのPVであえて、新登場のキャラを黒塗りで登場させるようなものだろう。
最初の動画が人気出るまでに日数がかかるため、その間に撮りためておく。
時間はあるので、視聴者の反応を見ながら、今後の方向性を決めていこうということになった。
やりたいことをやるのは大事だが、いまは種まきの時期。反応をもとに臨機応変に行くのだとか。
餅は餅屋ということで、サブカルに詳しい橋上さんにすべておまかせである。
そして数日後、試験の答案が返ってきた。
「すっかり忘れていた!」
案の定、よくはない。
問題を解いているときですら、「こんなの絶対習ってないだろ!」というような問題をちょくちょく見かけた。
そんなのを平然と解いている人たちは、どこかおかしい。たぶんおかしい。
「まあでも、思ったより何とかなったのかな」
基礎問題くらいの点数は取れた。十分じゃないか。
それ以上求めてはいけない。つか、求めないでほしい。
「すごいですよ」
「いや、全然だよ」
平均点にはかすりもしなかった。
どうせなら、男女別で平均点を出してみてはどうだろうか。
いや、男子の平均点を出してそれ以下になったら、やはり落ち込むだろう。
「いや、すごいです、動画が! SNSで話題になりつつありますわ」
「あ、そっち?」
試験結果かと思ったら、違った。
「いまの検索システムですと、こんなすぐ浮かび上がってこないはずなのです。おかしいですわ」
橋上さんが首をかしげている。
「えーと、男性の動画だから人気になったんじゃないの?」
「いえ、だからこそ、最初に人気が出ないんです」
「……?」
どゆこと?
まったく意味が分からなかったら、橋上さんが説明してくれた。
たとえば、だれかが「男子」と検索しても、再生回数の多いもの、たくさん「いいね」がついたものから表示されていく。
問題はここ。タグに「男子」と入れている動画はゴマンとあるのだ。
関係ない動画ですら、タグに入っていたりするらしい。
動画タイトルにも「男子が好きなマンガを紹介します」なんて書いてあったりする。
「男子」なんて人気ワードすぎて、タグに入れてもお察しになるらしい。
ゆえに新規開設チャンネルで超々有名ワードをタグにしたところで、検索に引っかかるわけがない。
橋上さんはそのことを分かっていたが、俺の動画がまさに『人気検索ワードのそのもの』なのである。
ゆえに「たまたま見た」人から口コミで広がっていく形を想定していたらしい。
だが、それにしては広がりが早いという。
「新着に載っていますから、短時間で一万再生いっていますね。一人がリロードしても内部処理で弾かれてしまうので、ユニークアクセスでそれだけ稼いだことになります」
内部処理とはなんぞやと思ったが、橋上さんいわく、IPがうんたらかんたら。
「もしかして、ユウの友達が見てくれたのかも」
青野さんが、そういえばと言い出した。
「お友だちですか?」
「うん。先輩たちに『見てください』ってお願いして、あと後輩たちにも『見てね』ってお願いした」
「……それかもしれません」
「青野さんって、そんなに友だちが多いの?」
「体育会系の繋がりって、結構ばかにできないのです」
青野さんは、特区外からこの伊月高校に通っている。
周辺の運動女子からしたら、大出世だ。
そんな相手から動画を見てねと連絡がきた。
共学校に通っている人との関係は、続けておきたい。
動画を見るくらいなら……と見た可能性が高いだろうと。
そうしたらキラッキラした男性が映っていた。なんだこれは!? これは友人にも教えなければとなっても不思議ではないという。
そして、体育会系は横と縦の繋がりが太い。
大事なことだから、もう一度言おう。
体育会系は、横と縦の繋がりが『太い』。
みなそれぞれの高校で動画を広め、その縦や横の繋がりでさらに広がる。
特区在住の体育会系とはまったく違った形で情報が伝播していったのではないかと、橋上さんは予想した。
「青野さん」
「なに?」
「何人くらいに教えたんだ?」
「えーっと……二百人くらい?」
特区外にいる先輩、同級生、後輩。
一人ひとり選んで教えたわけではないようだ。
カイトメッセンジャーのグループに流したらしいが、たとえば中学のクラスグループだけで、四十人×三つある。
もちろん、全員女子だ。
部活グループの方はもっと多い。
二十人くらいのグループが、いくつもできているらしい。
そして大会で知り合ったり、選抜練習で知り合ったり、知り合いから紹介されたりと、体育会系だからこそのつながりがあるようだ。
「盲点でしたわ」
彼女たちが動画を見て、SNSで呟いて、同じように先輩、同級生、後輩へと伝えていく。
体育会系ならではの広がり方だ。
それがここ数日で、爆発的に広まった。
橋上さんが見せてくれた動画は、なぜかもう、10万再生回数を超えていた。
もとの世界でいう「バズった」に相当するのではなかろうか。
DoTubeは、ドゥーチューブと読みます。一般的な動画投稿サイトだと思ってください。
私は動画を視聴する側の人間ですので、配信する側のことはまったく分かりません。
本文は「こんな感じかな」で書いていますので、ツッコミはなしでお願いします。
一応、視聴者の一人として、リスペクトした配信者には常識の範囲内で投げています。関わりはその程度です。
それと恥ずかしい話ですが、「バズった」とは「バズーカーで撃ったように爆発的に広がった」だと勘違いしていました。意味的に合ってましたし、何の違和感もありませんでした。
爆発したように笑う(爆笑)という言葉を(爆)と略していた人は、古いネットユーザーだと思いますが、(核爆)とか(連鎖爆)なんて言葉を普通に使っていたのではないでしょうか。
「地雷原に突入」とか「地雷を踏み抜くスタイル」など、ネット用語に戦争を連想させるものもありますし、「バズーカーで撃ったように広まった」→「バズーカーみたいに広がった」→「バズーカーで広まった」→「バスーカーった」と略されたのかなと。
全然違いましたね。いや、いいんです。




