9 報告しよう
女性たちが待つ食堂まで戻ってきた要とアリスは、神楽の帰りを待つことにした。
アリスは相変わらず女性たちに囲まれておもちゃにされている。
要は少し離れた場所で、助け出した1人の女性と話をしていた。
要は女性たちと集合してすぐ、神楽さんから言われていた、中澤みかんさんがいないかを確認したのだ。
幸いにも女性たちの中にみかんはいた。
神楽の予想通り、みかんは攫われて監禁されていたのだ。
「本当に無事で良かったです」
「こちらこそ、助けていただいてありがとうございます」
「学園長がすごく心配していたんですけど、そんなことは滅多にないんで、相当信頼されてるんですね!」
攫われた女性たちは、奴隷として売られる予定だったので、皆一様に容姿が優れていたが、その中でもみかんは飛び抜けて美人だった。
要は基本的に女性といえば、ちびっ子のアリスと性悪の神楽さんとしか接していないので、内心めちゃくちゃテンパっていた。
「いえいえ、そんなことはないですよ、私はミスばかりしてましたから、、、」
みかんも、急に褒められて照れたのかちょっと顔を赤らめていた。
「そういえば、俺が今年度から3年Gクラスの担任になったんです。まだ、2日目ですけど、」
「そうだったんですか!?早く言ってくれれば良かったのに〜、でも、要さんならあの子たちを安心して任せられます」
みかんは驚きながらも、どこか安心したような表情をしていた。
ただ、要は最後の一瞬、みかんが寂しそうな顔をしたのを見逃さなかった。
「それがですね、学園長からの伝言なんですが、みかんさんにはGクラスの副担任として、今後も働いて欲しいとのことです。
俺としても、みかんさんが居てくれれば百人力ですし、お願いしたいです」
みかんは要の言葉を聞くと、急に泣き始めてしまった。
要は自分が泣かしたのかと心配になって、アワアワしているが、周りの目もあるのでみかんさんが泣いているのを周りから隠した。
さっきからチラチラと、こっちに視線を向けてきていた女性たちは、なぜかニヤニヤしていた。
だが、彼女たちに囲まれているアリスだけは要のことを睨んでいる。
涙目のみかんが顔を上げると要は不意にドキッとしてしまった。
その顔は、美しさに儚さが混ざり合いあまりにも綺麗だったのだ。
「ありがとうございます、ぜひさせて下さい!」
みかんは少し気持ちが落ち着いたのか、満面の笑みでそう言った。
要はまたもやその笑顔に、見惚れてしまったが、顔には出さないように全力で顔の筋肉を硬らせた。
みかんさんは、破壊力が核兵器級だな。もしかしたら、おねだりアリスと同程度の危険性を有しているかも知れん。
これから毎日これだと思うと、大変だな。
顔がつりそうだ、、、
みかんが感極まる感動のシーンのはずが、要は1人非常にどうでもいい心配をしていた。
「そうですか!良かった!まだ、学園長が帰って来ないんで、少し生徒たちの話を聞かせて貰ってもいいですか?」
「はい!喜んで!」
それから2人はGクラスの生徒たちについて色々なことを話し合った。
その中には、要がまだまだ知り得ていない情報がたくさんあった。
要は今後も宿敵となりうる藍染桜楽については、特に真剣に話を聞いていた。
神楽さんが言っていた、みかんさんが必要というのは凄くわかる気がする。
今少し話しただけでも、生徒たちへの愛情の深さや彼女自身の親しみやすさが滲み出て来てる。
要は、本当に自分がGクラスの担任を務められるか心配になりつつも、みかんという分かり易い目標ができ、安心していた。
それからさらに時が経ち、時間は夜9時になっていた。
かれこれ1時間以上待っているが、なかなか神楽さんが帰ってくる様子がない。
女性たちは疲れていたのだろう、みかん以外は全員眠ってしまっている。
その時食堂のドアが開く音が聞こえてきた。
要、アリス、みかんの目線がドアに殺到するも、入ってきたのは清掃員のおばちゃんだった。
3人は少し気を落とすと、再びたわいもない話を続けた。
結局それから1時間後、ようやく神楽は帰ってきた。
ドアを開けて入ってきたとたん分かるほど神楽は不機嫌だった。
できるだけ早く終わらせたいと言っていたのに、会議が予定より大幅に長引いたからだ。
要たちの近くに近づいてきた神楽は、周りの様子を見回すと言った。
「遅くなってごめんなさい。
要ちゃん、どうやら課題はクリアしたようね。
お礼を言わなくちゃね、ありがとう」
「もう、大変でしたよー、これで貸し1つですからね!」
こういうところは、ちゃっかりしている要なのであった。
神楽さんは、みかんに目を向けると心底嬉しそうな顔をしていた。
要のように神楽さんの本性を知っている人でもなければ、この顔だけで一殺だろう。
まあ、こんなレアな神楽さんを見れたのはラッキーだな。
「本当に無事で良かった、要ちゃんから話は聞いたかしら?私は、お願いしたいのだけど、」
「ありがとうございます、私を副担任にとして働かせて下さい!」
みかんは、感極まって涙ぐんでいた。
なんかめちゃくちゃどこかで聞いたことあるセリフだなぁ、、、
要はまたもや感動のシーンを台無しにしていくのだった。
「もちろんよ!これからもよろしく頼みます。」
神楽さんは、仕事を受けて貰えて安心したのか、ちょっと機嫌が良くなったようだ。
「はい!」
それから神楽さんは、アリスに目を向けた。
今アリスからは、俺同様、全く神聖力が感じられないが、違和感に気づかれるだろうか?
「この子は、、、何か普通じゃないわね、」
さすが神楽さんと言うべきか、アリスの違和感に気づいたようだ。
ここはフォローした方がいいだろう。
「この子はアリス=ヴァーミリオンです。昔からの知り合いで、たまに一緒に遊んだりしてます」
「あら、要先生はロリコンだったの、ロリコンが先生をやってるなんて知れたら、、、大変だわ!」
「そうなんですか?要さん、、、、?」
神楽さんが、ここで冗談を言ってくるってことは俺の意図は伝わったようだ。
それにしても、ロリコンって!確かにアリスは見た目は幼女だけど、、、
「何言ってるんですか!ほら、みかんさんが変な勘違いを!違いますからねっ!」
なぜか、アリスはムッとしていたがこれはスルーしといた方が身のためだろう。
それから神楽さんは、特殊警察を呼んだ。
捜査の関係で必要になるからだろう。
すると夜遅くなのにも関わらず、1分も経たないうちに1人の男が現れた。
「お待たせしました、神楽様。ご用件は何でしょうか?
っ、おお〜!!君は昼間の!本当に娘をありがとう!」
そう、呼ばれて来たのは神崎父だったのだ。
この人はクセが強すぎてちょっと怖い、アリスやみかんさんもちょっと引き気味だ。
要は神崎父を適当にあしらうと、神楽の前だったことを思い出したのか、急に静かになった。
「じゃあ、要先生、報告を聞かせて貰ってもいいかしら?」
それから要は、女性たちの救出とロイド確保までの経緯を報告した。
ただ、所々要とアリスにとって都合が悪い部分はカットしたため、話に無理やり感が出てしまっていた。
神楽さんはそれを察したのか、わざと突っ込まずいてくれてるようだ。
「まさか、ロイドが、、、」
同僚の神崎父は、黒幕がロイドだと聞いてかなりショックを受けたようだ。
報告が終わると、神崎父は女性たちに話を聞きに行った。
要、アリス、神楽の3人はロイドたちに話を聞くため、地下牢に向かった。
向かう途中で神楽さんは、どうしても気になったのかアリスについて尋ねてきた。
「アリスちゃんは、確実にただのレジスタントじゃないわよね?要ちゃんと同じで」
俺は敢えて黙っていることにした。
つまり、アリスに全部丸投げしたわけだ。
そもそも、アリスの問題だしな。
「そうよ、アリスはただのレジスタントではないわ。
アリスはみんなから忘れられた存在、、、」
「忘れられた、ね、、、」
神楽さんは何か納得したのか、これ以上は何も聞かなかった。
そうしているうちに、3人は地下牢にやってきた。
確保したほとんどの者は、まだ気絶しているようで、地下牢は静かだった。
3人は、他の人は素通りして1番奥の牢屋に入れておいたロイドのもとへ向かった。
どうやらロイドも、まだ気絶しているようだ。
暴れられたらめんどうなのでよかった。
神楽さんは、気絶していることを確認すると、必殺マインドタッチを使い記憶を読みとった。
ホントに恐ろしい能力だ、神楽さんに隠し事をしても一発でバレる。
ロイドの記憶を読み取った神楽さんは、なぜロイドがこんな愚かな行動に出たのかを説明してくれた。
「自分のために、罪もない女性たちを奴隷にしようだなんて、本当にクズね、このクソ豚野郎!」
どうやら、一度収まっていたロイドへの怒りが、アリスの中で再燃してしまったようだ。
実際、記憶を読み取ったロイドは、もう用済みなので最悪殺してしまっても問題は無いかもしれないが、、、
アリスが、特殊警察ごときに捕まることはないし、いつ手を出すかヒヤヒヤだ。
2人はとりあえずアリスを地下牢から引きずり出して、ロイドから距離を取らせた。
「今回は、アリスに結構頼りっぱなしだったから、今度の休みにおいしいスイーツを食べに行こう!」
「えっ!ホントに?行く!」
さっきまでは、ロイドを殺しそうなくらい怒ってたのに、今はもうスイーツのことで頭がいっぱいのようで、ロイドのことなど眼中にも無いようだ。
効果覿面で良かったが、一時の感情で危うく殺されそうになるロイドが、なんかかわいそうに思えてきた。
3人は食堂に戻って来た。そこには、神崎父とみかんだけしかおらず、他の女性たちは帰宅したようだ。
神崎父と神楽さんは、すぐにお互いに得た情報を交換していた。
神崎父は、時々驚いた表情や悔しそうな表情をしていたが、ロイドとはかなり親しくしていたのかもしれない。
一通りの情報交換が終わると、神崎父は明日行われるというロイドの取引を抑えるために、捜査に向かった。
要たちも今日は解散となったが、みかんは最後まで要とアリスに感謝を言って帰って行った。
「明日からはみかんちゃんと一緒に頑張ってね、じゃあ私は仕事があるから、」
神楽さんはそう言うと、一瞬にして消えていった。
「じゃあ俺たちも帰るか〜。そういえば、アリスって家あるの?」
「無いわよ、」
「無いのかよ!今までどうしてたんだ?じゃあ今日はうちに来るか?」
「えっ!?この変態!ロリコン!」
「そっかー、じゃあまたな、」
俺は帰ろうとすると、アリスは俺の服の袖を掴んできた。
このシュチュエーションは我ながら完璧だ。
「どうかしたか?」
「行くっ!」
アリスは照れ隠しのためか、怒ったようにそう言った。
素直なアリスもかわいいが、やっぱりこれくらいの方が張り合いがあっていいかもな、、、
、、、、
「誰だお前は、、?」
正気を取り戻していたロイドは、地下牢の中から呟く。
実は学園の地下牢に幽閉されたことで、裏社会の連中に殺される可能性が低くなったため、ロイドは密かに安堵していた。
しかし、ロイドの前に立っているのは女は、明らかに学園には似つかわしくない雰囲気を纏っている。
「あぁ、今すぐ殺してやりたい。お前がかわいいマウスたちをみすみす逃し、こんな所に捕まってるせいでこの私が使いっ走りにされただろうが!くそがっ、」
女は怒りを露わにしてロイドを怒鳴りつける。
普通はこんなに大声を出せば見張りに見つかってしまうであろうが、その見張りにたちは既にこと切れていた。
明らかに裏社会の人間、それも大物であることに気づいたロイドは自分の死を悟った。
「助けてくれぇぇえええ!」
大声で助けを求めたが、この場所で生きているのはロイドと目の前の女だけである。
「五月蝿い。黙れ。話には聞いてたがホントに役立たずなヤツだな。まぁ、だからこそあの方のモルモットに選ばれたのかもな、光栄に思えよ」
ロイドからしたら全く意味のわからない話だったが、女はそれ以上何も言わず地下牢の檻を破壊した。
次の日、ロイドの輸送に向かった神崎父こと神崎天心によって、大量の死体とともに、も抜けの空となった檻が発見されたという。
その後、特殊警察が全力を持って捜索しているが、ロイドの消息は未だ不明のままである。
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