6 アリスとロイドと、
昼の騒がしさは影をひそめ、町はシンと静まりかえっていた。
要は、ロイドの屋敷の裏手にある山に影をひそめて様子を伺っていた。
さすがにプロフェッサーだけあって、大きい家に住んでやがる。
俺なんか1Kだぞ!どうせロイドがこの家に住むのは今日が最後だろうし、俺にくれないかなぁ。
屋敷の中には大きな力の波動が何個か感じられる。おそらく、ロイドの他にナイト程度の能力者が複数いるようだ。
ロイドは特殊警察の幹部であるため、おそらくは奴の部下が家にいるのだろう。
こんなことは神楽さんから全く聞いていなかったため、正直かなりめんどくさくなってきた。
ロイドは瞬間移動が使えるため、逃げられたら捕まえるのは至難の技である。
部下のナイトたちと戦っている間に、逃げられる可能性が大きい。
厄介なのが、部下のナイトたちは、ロイドの暗躍に関与しているのかが、分からないことだ。
その場で聞くわけにもいかないし、ロイド同様取り調べが必要になるだろうからな〜
もし、全く関与していなければ、家に不法侵入してきた謎の男に、いきなり襲われたことになっちゃうんだよね。
それじゃ、どっちが悪者かわからないし。
ただ、今日この家にいたこと自体が悪いっていう理由づけはできなくもない。
どうせこっちには、天下のグランドマスター様がついてるんだから、多少やんちゃしても大丈夫だろう。
この世は能力至上主義、世界で30人しかいないと云われるマスターに逆らえる奴はそういないはずだ。
俺とかの例外を除いて、って考えていたんだが、教師になってからのここ数日、ほとんど神楽さんの言いなりになっているのは気のせいでしょうか?
気のせいだと信じたい、、、
話がそれたが、つまり部下のナイトたちをロイドに気づかれずに気絶させ、ロイド自体も瞬間移動で逃げられる前に倒さないといけないってことだ。
いや、どこの無理ゲーですか?
下手したらマスターでもキツイんじゃないか?
それを、レジスタント(自称)にやらせるなんて、神楽さんは鬼畜か!?
いや、あの人は前から鬼畜だった。
神楽さんにああ言った手前失敗はできないし、今回ばかりはしょうがない、アリスに力を借りよう。
「アリス!どうせ見てるんだろう?ちょっとピンチなんだ、力を貸してくれ!」
近くには誰もいないはずだが、要は空に向かって語りかけた。
「なに?」
要の背後からいきなり少女の声が響いた。
その声は普通の人が聞けば怒っているように聞こえるだろう。ただ、聞く人が聞けば、その中に嬉しさが混ざっていることに気がつくのだった。
「おわっ!びっくりした〜、いつも言ってるだろ〜来るときはわかりやすいように来いって!」
「なんで人を呼んどいて、そんなに態度がでかいのよっ?自分で、呼んでるんだから来て当たり前でしょ、バカなの?」
ぐさっ!アリスはいわゆるツンデレなのだ。事あるごとに、バカ、アホ、ゴミ、の三拍子。
でも、俺の呼びかけには絶対に応えてくれるし、なにかと世話を焼いてくれる。
根はいいヤツなんだが、それを表に出すのが嫌いらしい。
なんで、俺がアリスに頼るのを嫌がってたかというと、アリスは対価として一緒に出かけることを要求してくるからだ。
一緒に出かけること自体は全く問題ないし、むしろ楽しいのだが、問題なのがアリスの見た目だ。
アリスは、見た目9歳で金髪碧眼のバリバリの外国人なのである。あまり、本人の前では言わないが、正直かなりかわいいと思う。
美人やかわいい子を、人形に例えることがあるが、アリスはまさにそれである。
つまり何が言いたいかというと、見た目が完全に日本人の俺と、見た目が外国人幼女のアリスが一緒に外に出かけると、周りからみたら俺が誘拐犯にしか見えないのである。
実際に、それで何回も職質を受けたり、捕まりかけたことがある。
だから、アリスにはできるだけ頼りたくないのだが、今回はアリスの力さえあればヌルゲーになるので、保険も兼ねて頼ったわけだ。
「それで、瞬間移動を阻止する結界でも張ればいいの?」
「さすが!理解が早くて助かる。あの屋敷全体を覆う感じで頼む。」
「わかったわよ。でも、要ならアリスの力を借りなくても余裕のはず、、、まさか!?アリスと一緒に出かけたくて?気持ち悪い、このロリコン!」
「わかった。じゃあ、今後一緒に出かけるのはやめよう」
俺はラッキーと思いながら、意地悪な気分になったのでわざと怒った風にそっぽを向いて
「えっ!?うそ、、、怒ったの?ごめん、気持ち悪いって嘘だから、、、一緒にお出かけして?」
アリスは俺が怒ったと思ったのか、おどおどしながら顔を覗き込んできた。
こうなるとずるい!断れるわけがない。
自分で仕掛けといてこっちが恥ずかしくなってきた。
素直になればかわいいんだけどなぁ〜
「わ、わかったわかった。今度映画でも行こう。前に見たいって言ってただろ。」
「うん!行こっ!」
アリスは満面の笑みを浮かべて答えた。
人生経験は豊富なはずだが、なぜこんなにもあどけなさが残っているのかは全く分からない。
結局のところ、このように要とアリスは一緒に出かけることになるのである。
あれだけ嫌がっていた要の中にも、行かないという選択肢は無いのだった。
2人は、重要な仕事の前だというのに、ほのぼのとした会話を繰り広げていた。
しかし、それもこの2人なら当たり前かもしれない。この2人を同時に敵に回して無事でいられる者などこの世のどこにもいないのだから。
〜ロイドの執務室〜
見るからに高そうな調度品が並ぶ部屋の中央に、典型的な中年太りの男が、どっぷりと椅子に深く座っていた。
「まだ、アダムスは帰ってこないのか?」
ロイドはちょっと怒り気味に秘書官に尋ねた。
普段なら素早く仕事をこなして帰ってくるアダムスが、今日という日に限ってなかなか帰ってこないのだ。
「はい。まだでございます。」
長年ロイドの秘書官を務めてきた一ノ関は、あえて冷静な態度で答えた。
「くそっ!何をやっているんだ、取引は明日だというのに!」
ロイドは、昔から裏社会との繋がりを持っていた。
これは珍しいことでもなく、実力者になるほどその傾向は強い。
中には、グランドマスターでも裏の世界と繋がりを持っている者もいる。
実は、藍染神楽も裏の世界のツテがあったりするのだが、彼女曰く、情報収集にはもってこいであるのと、毒を持って毒を制すという考えからであるらしい。
対してロイドは、闇にどっぷり浸かってるタイプの人間である。
先日、ロイドは闇カジノで大きな賭けに負けてしまい、多大な負債を抱えてしまったのだ。
裏の世界での借金は、表とは違い返済期限が額と不釣り合いで、返さなければ自らの身体や命を持って払わなければならない。
相当な実力者のロイドであるが、裏の世界にはプロフェッサーなど全く意に解しない実力者がごろごろいる。
ロイドは焦りに焦り、借金の補填のために、短期間で莫大な利益が出る人身売買に手を出したのだった。
裏の世界では能力至上主義がより色濃く表れており、レジスタントは奴隷として扱われている。
レジスタントは、一部の例外を除き能力でも腕力でもクラウドにさえ敵わず、もし反乱を起こしても対処できるため、奴隷として適していると判断されているのだ。
その中でも、特に若い女性は人気が高く、高く売れるため、ロイドはレジスタントの若い女性を狙って攫わせたのだった。
さらに、ロイドは特殊警察幹部の権力を用いて手がかりを隠蔽することで、犯人を特定させずに、連続行方不明事件を起こさせることに成功していた。
このような経緯で、今日までは順調に計画が進んでいたが、要の活躍によってあっさり計画の歯車は狂わされてしまった。
だが、まだロイドはそのことに気づいてすらいない。
本来であれば、今日最後の1人をアダムスが攫ってくる予定だった。
しかし、アダムスは学園長室に拘束されており、永遠にロイドのもとへ帰ってくることはないのであった。
業を煮やしたのか、ロイドはいきなり立ち上がると、執務室しから出て地下へと向かった。
今現在、屋敷の地下には攫ってきた女性たちがいる。
裏の世界で借金を背負い極度のストレスにさらされたロイドにとって、その女性たちの姿を確認することは、一種の精神安定剤となっていた。
借金の返済期限が迫るここ数日間、ロイドは極度のストレスによって、家の地下に入り浸っていた。
階段を降りて行くと、鋭い視線が突き刺さる。
女性たちは、独房の中に入れられ鎖で足を固定されている。
こんな環境にいるせいで、女性たちは心身共に疲弊しており、ロイドを睨むのが精一杯で声を上げることは無かった。
ロイドは、全員がしっかりいることを確認すると、さっきまで抱いていた怒りや不安が軽減されたのか、少し安心した顔をして階段を上って行った。
その顔は、女性たちからしたら吐き気がするものだが、ここ数日はこの顔を1日に何度も見なければならなかった。
階段を上がり執務室に帰ってきたとき、ロイドは身体が固定されるような変な感覚を覚えた。
しかしそれは一瞬のことで、身体を見回しても特に変化は無かったので、気のせいだと思い異変に気づけなかった。
この時点で、瞬間移動を封じられたロイドの敗北は決定していたのだ。
その後も、要が既に屋敷内に侵入していることにも気づかず、のうのうと来ないアダムスを待ち、机の上のお菓子を頬張っていたロイドだったが、執務室のドアがノックされたとき、初めて異変に気づくのだった。
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