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17 道場破り1

要は放課後、仕事を済ませてから手賀崎道場に通っていた。今日でもう4日目である。


要はひたすらに同じ型の練習をしていた。

隣では忍も汗を流している。


「忍〜、いつまで同じ動作を繰り返せばいいんだよ〜」


もうかれこれ、4日は同じ動作を繰り返している。

肉体的な疲労は無いが、精神的な疲労がやばい。


隣を見れば、忍はチラリとこちらを見ただけで、すぐに自分の鍛錬に集中してしまった。


あと、手賀崎道場に弟子入りするにあたって、手賀崎の呼び方が忍になった。

俺は師匠と呼びたかったのだが、忍が全力で否定してきたので渋々諦めることにした。


「お兄ちゃん、先生、お疲れ様です!」


鍛錬をしている2人に声がかかった。

学校から帰宅した詩音が、飲み物とお菓子を持ってきてくれたのだ。


いや、詩音ちゃんマジ天使だわ〜。

鍛錬は面倒くさいが、この時間だけで救われる。

なんなら、このためにやってると言っても過言ではないかもな。


要と忍はひとまず鍛錬を中断した。


「ありがとう、詩音ちゃん。いつも助かるよ」


「いえいえ、先生は私たちのために鍛錬して下さっているんですから、これくらい当たり前です!」


要が飲み物とお菓子を受け取りながら感謝を述べると、詩音は人懐っこい笑顔でそう言った。


マジでいい子過ぎるな、なんでこの忍とこの詩音ちゃんが兄妹なのだろうか?世界七不思議にランクインしそうだ。


要は詩音と忍を交互に見比べながら、非常にどうでもいいことを考えていた。


「先生、どうかしたっすか?なんかさっきから動きが変すけど、」


「い、いや、なんでもないよ。それより、このお菓子美味しいなぁ〜」


要は全力でごまかしにかかる。

それを聞いた忍は、首を傾げながらどこか呆れたような顔をしていた。


本人は気づいていないが、要のこうした意味不明な行動は、今に始まったことでは無かったのである。


「それよりも先生、全く上達しないじゃないですか!

あんなに強いのに、なんでなんすかね?」


忍は悪意などなく、純粋に疑問を持ったようだ。

だか、その純粋さが要には刺さった。


「そーですよー、俺は力が強いだけで不器用なダメ人間ですよー」


要は不貞腐れたような顔をしながら答える。


要が道場に弟子入りしてから4日経ったが、要は手賀崎流古武術の技を1つも習得できてないのである。


「あ〜あ、俺もしっかり習えばカッコいい技とか使えるようになると思ったのにな〜」


いい大人が子どものように不貞腐れているのを見て、忍と詩音は困り顔をしていた。





♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢





情報が正しければ、今日道場破りがあるはずだ。

手賀崎道場には、いつもと異なりどこか張り詰めた空気が漂っていた。


要はこの日、道場破りがいつ来てもいいように、前日から手賀崎道場に泊まっていた。


今、最後の確認とでも言うように、忍と要は道場で鍛錬を行なっている。


この日の忍はいつにも増して気合いが入っており、声も出ていた。しかし、要から見ると力み過ぎているようにも見てとれた。


「気合いの入りすぎか、緊張かは知らないが、もっと力を抜いてリラックスした方がいいんじゃないか?」


忍はハッとしたように、自分の両手を見つめる。


「確かに力み過ぎていたみたいっす。指摘ありがとうございます。あと、先生に1つ頼みごとがあります」


忍は要の方に向き直ると、真剣な面持ちで話を切り出してきた。


「なんだ?」


「今日の道場破り、俺に先鋒をやらせて下さい。やれる所まで1人でやってみたいんです!」


要は忍の決意を聞くと、笑い出した。

忍はそんな要を見て不思議そうな顔をする。


「なんだ、そんなことか。俺は初めからそのつもりだよ。

この問題は、あくまでお前の問題だ。俺は、部外者でしかない。まぁ、担任として放っとけないからここにいるが、俺はあくまでも保険だ。1人でやれるとこまでやってみろ、後のことは何も考えなくていい。全力で目の前の奴を倒すことだけに集中しろ!」


うん、きまった。我ながらコレはカッコいいだろ!

まぁ、でも忍1人でなんとかなるなら、それが1番だしな。

俺としても面倒くさくなくていいいし。


ただ、金華山の連中がそんなにあまい訳もないか、、、


「先生!そこまで考えて、、ありがとうございます!」


忍は珍しく感動したようで、言葉に詰まっていた。

側から見たら良い場面であることは確実なのだが、要の内面を覗くとそんな気も失せるかもしれない。


それから2人は再び鍛錬を続けるのだった。





♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢





時間は過ぎ、昼前になっていた。

昼ごはんを食べ損ねては嫌なので、手賀崎道場の3人は早めのご飯を食べていた。


「いつ来るんでしょうか?」


詩音は少し緊張した面持ちで口にする。


「いつだろうな、昼過ぎごろには来そうな感じがするけどな」


要は敢えて緩い回答をした。


「俺はいつでも準備できてます」


忍も少し緊張が顔に出ているが、覚悟を決めた漢の顔をしている。


「忍、ご飯を食べ終わったら、奴らが来るまで門の前で待ってろ」


「え?なんでですか?」


さっきまで漢の顔は何処へやら、忍はアホの子っといった様子で聞き返してきた。


「せっかく大事にしてる門や庭をあいつらに荒らされたくないだろ?奴ら、見張ってないと何やらかすか分かんないぞ?だから、お前が門の所で待っとけ。それに、忍が待ち構えてたら絶対奴ら驚くぞ」


要はニヤリとしながらそう言った。

忍もニヤリとすると、無言で頷いた。

そんな2人を詩音は心配そうに見守っていた。



忍は手賀崎道場の門の前で、手を組んで佇んでいた。

初手から舐められないように、鬼の形相で待ち構えてたのだが、通りすがり人たちから怖がられている。


要は忍のことが心配であったのと、金華山の連中の戦力を把握するために、密かに忍を見守っていた。


そこに親子が通りかかった。


「ね〜ね〜、なんであの人あんなに怖い顔してるの?」


幼稚園児くらいの子どもが、忍を指差しながら興味津々といった様子で母親に尋ねる。


「こら、危ないから見ちゃダメよ。早く行きましょ」


母親は忍をチラ見すると、焦った様子で子どもの手を引き行ってしまった。

この一連のやり取りで、忍は密かに精神的ダメージを負っていたのだった。


それからしばらくして、忍が立ち直った頃、金華山道場の一行がやって来た。


忍は先手を打って声をかける。


「天下の金華山道場様がうちに何か用っすか?」


金華山の連中は、出鼻をくじかられたという風な様子で、驚きを露わにし、苦い顔をしていた。

だが、それも一瞬ですぐに忍を蔑むように見下してくる。


「どこから知ったかは知らねぇが、俺たちは道場破りに来たんだよっ。オメェが負けたら、この土地売ってもらおうか?あん?まぁ、やる前に無能さんは逃げ出すかもしれないがなぁ、がはっはっはっは」


特に性格が悪そうな男がそう言うと、周囲の男たちも下品に笑い出した。


普段ならこの時点で喧嘩になっているのであろうが、今日の忍はいたって冷静であった。

怒るでもなく、金華山の連中を冷たい目で一瞥すると、ついて来いと言わんばかりに首を振り、終始無言のまま門をくぐる。


そんな忍の態度に男たちは舌打ちをすると、忍を追って門をくぐっていく。


「っけ、古臭い庭だなぁ。あの門もこの庭も俺たちが勝って全て更地にしてやるよ」


そう言って、先頭を歩く男は忍の肩に手をかける。

忍はまたしても何も言わず、ただ手を払い退けた。


ここの良さが分からないとは、、、

こっちまでイライラしてくる。よく忍は小言一つ言わず耐えられるな。


普段はあんなに喧嘩っ早いのに、、


確かにここで手を出してしまえば、道場同士ではなく個人の問題になってしまう。

そうなれば、俺も神楽さんも干渉できなくなってしまう。

それを忍もわかっているのだろう。


そうしているうちに、忍と金華山道場の一行は道場にたどり着いた。


俺も何食わぬ顔で道場内へと先回りし、詩音といっしょに忍たちを出迎える。

金華山の連中は、詩音ちゃんのことをいやらしい目で見ていたが、俺は殺気を必死で押さえた。


この野郎ども、よくも俺の詩音ちゃんをっ!

ここで確認だが、詩音はけっして要のではない。


要が男たちをどのように殺すか考えているうちに、準備は整い、ルールや条件の確認が行われていた。


要約すると、

金華山道場が勝った場合、忍はこの土地を売却しなくてはならない。手賀崎道場が勝った場合は、金華山道場は今後一切手賀崎道場に関わらない。


試合形式は、勝ち抜き戦。それぞれ、先鋒、中堅、大将という風に3人選出し試合を行い、先に全滅させた方の勝ちとなる。


ちなみに、手賀崎道場の先鋒は忍、中堅は要、大将はお飾りだが詩音ということになった。


それを聞いた金華山の奴らは、大爆笑していた。

しかし、こちらからしたら何も笑うところは無い盤石の布陣だ。


と言うより、要が居れば盤石も盤石、負ける可能性はゼロである。


試合の負けの判断は、審判が続行不可能と認めた場合か、降参した場合のようだ。


ただ、ここで1つ問題が発生した。金華山の奴らが、身内から見届け人兼審判を出すと言うのだ。

試合の勝ち負けの判断は審判が行い、不正などの判断も行うため、まず間違いなく不利になるだろう。


本人たちは、


「うちの道場は日本全国に支部を置く日本最大級の新武闘派組織だ。信頼度も高いよなぁ?」


とかほざいてるが、信頼できるはずがない。


忍が困り果てていると、突然その人は現れた。

金華山の奴らも、その人の正体に気づくと一斉に恐れ慄く。


なんか前にもこんなシュチュエーションあった気がするが、そこに現れたのは、いつもの保健室の先生モードではなく、グランドマスターモードの神楽さんだった。








最新話更新します。

思ったより長くなってしまったので、今回は試合が始まる前までです。

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