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18 道場破り2

顔は隠しているようだが、その圧倒的な神聖力を前にその場にいる人間は圧倒された。


わざわざ名乗らなくても、否が応でもその人物が誰なのか強く意識させられる。


日本にも片手の指で収まる数しかいない人としての頂点。散々煽り散らかしていた金華山道場の連中も、今や静まり返っている。


シンとした空気を破ったのは、その空気を作り出した本人であった。


「私の学園の生徒が関わってる以上、学園の長として、この場は私が受け持たせてもらうわね」


敢えてなのか、神楽さんは金華山のやつらには顔も向けずに言葉を発した。

この言葉を受けた連中は、実に様々なリアクションをしている。


神楽さんが自分たちの方に顔を向けていないことを知ってか、あからさまに不満を顔に出しているやつもいれば、明らかに慌てふためいているやつもいる。


ただ連中の中に1人だけ、ほんの一瞬ニヤっと口角をあげたやつがいることが印象に残った。


「私は学園長ではあるけれど、この場はグランドマスターとして、公平性を担保することを約束しましょう。信頼度は私が見届け人になったほうが高いと思うけれど、どうかしら?」


神楽さんは話しかけながら、この場に現れて初めて金華山のやつらの方に顔を向けた。


「それとも、私が見届け人をやることに何か不都合なことがあるのかしら?」


こちらから顔は見えないが、おそらく顔には冷たい笑顔が張り付いていることだろう。

その顔を向けられた相手を見れば、目は笑っていないことは確かのようだ。


さすがの金華山の連中も、有無を言わせない神楽の醸し出す雰囲気には、受け入れざる負えなくなった。




♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「、、、勝ち負けの条件はこれでいいかしら?それぞれ賭けた条件の履行は、グランドマスターである私が責任を持って確実にすることを誓いましょう」


「お互いに、何か言いたいことはあるならこの場で言ってちょうだい」


勝負の取り決めなど、もろもろと確認が進んでいく中、場の緊張感は次第に高まっていった。


「じゃあ、始めましょうか。まずは、先鋒戦からね。先鋒の2人は用意してね。ふふ、両方ともうちの生徒だし、どちらを応援しようかしら」


神楽さんは、いたずらな笑顔をこちらに向けてくるが、ただ反応に困る。


この場に来てくれたということは、忍のことを気にかけてくれていたということだと思うが、グランドマスターとしての公平性を超えたことまで期待することはできない。


だが、忍はレジスタントとして破格の強さを持っている。連中を見回しても、いまだに神楽さんにビビっているやつが多いのを見るに、忍だけで案外なんとかなるかもしれない。


先生としての威厳を見せつけるために、ぜひ忍にはいい感じのところで負けてほしいものだ。うん。


そんな冗談(仮)を考えている間に、先鋒の2人は試合開始の準備が整ったようだ。


すでに2人は向き合って立っている。金華山の先鋒が忍のことをめちゃくちゃ睨んでいるような気がするが、きっと気のせいだろう。


どんだけ恨みを買ってんだよ、、、


金華山の先鋒はたしか、佐藤だか加藤だか、そんな名前のやつで1年Cクラスの生徒とか言ってたな。前に忍が喧嘩を売られて、ボコボコにしたとかしてないとか。


「はじめっ」


いつもより少しだけ低い、けれども美しい神楽さんの声が、道場内を伝播していく。


「風纏」


先に動いたのは佐藤(仮)だった。


風が足元から吹き上がり、徐々に身体にまとわりつき始める。もちろん、風は視認できないが、風の音と服のはためき、神聖力の流れが、そこで何が起こっているのかを教えてくれる。

おそらく身体能力にバフをかけるものだろう。


その力が発揮されたのはすぐのことだった。

予備動作がほとんどなく、自然に歩き出すかのように一歩を踏み出す。


しかし、それがあまりにも軽やかでありながら恐ろしく速いのだ。

自然な動作過ぎて、移動の幅に違和感を覚えるが、佐藤はすでに忍の目の前まで移動を済ませていた。


忍も同じ感覚に陥っているのだろう。正対しているから余計に違和感を感じたかもしれない。


反応が遅れてしまっている。その隙に、佐藤は剣を振り上げていた。おまけに、しっかりと剣にも風を纏わせている。


剣を使うみたいだけど、忍は素手で大丈夫なのか?

練習用の木剣とはいえ、当たったら普通に怪我をする。そのくらいの剣速は出ている。


両者の間はちょうど人が1人入れるほどまで詰まっており、完全に剣の間合いとなっている。

今から避けるのは難しいだろう。


さぁ、どうする忍。


ほんの少しだけ心配しておいたが、忍はそれを嘲笑うかのように、裏拳をうまく剣の側面に当て、弾き返すことに成功した。


その後も何回か同じようなことが繰り返された。


ただ、風纏による動作と速さの違和感になかなか慣れることが出来ておらず、いつも対応が後手になっている。


武術の達人ほど、相手のことをよく観察し細かな動作から次の行動を読む。

忍にとっては、今までの経験が足枷になってしまっているということだ。



対応がギリギリのせいで、交戦距離が極端に近くなり、纏っている風が忍の身体を少しずつ削っている。


だが、この場は神術による有利を演出しながらも決定打を与えることができない佐藤にとっても地獄で

あった。


思うように攻撃を当てることができず、イライラが顔にも出てきている。

いや、試合前から怒っていたような気もする。


「くそっ、なんで当たらないんだよ!」


怒りのせいで、攻撃がかなり単調になっているが、忍も決め手をつくることができずにいるところから、元々の実力は高いことが伺える。


お互いにこのままでは埒が開かないことに気づいたのか、一旦距離をとった。


「はぁはぁ、前より強くなってんな」


忍は笑いかけながら話しかけるが、佐藤は変わらず怒りを露わにしながら、口を閉ざしている。


「でも、俺の方がもっと強くなってるぜ!」


今度は、先に忍から仕掛けた。前にも見た人間離れした動きで、一息に距離をつめる。


それが正解だな。


風纏による違和感が生まれるのは、相手が能動的に動くからである。

こちらが、積極的に攻撃を仕掛ければ相手は大きく動けなくなり、違和感も少なくなる。


というか、なんかこいついちいちセリフがかっこよくてムカつくな。


忍は距離をつめた勢いのまま拳を振りかぶる。佐藤は、それを迎え討とうとギリギリで、身体の前に剣を差し込んだ。


同時に後ろに向かってステップしており、できるだけ勢いを殺そうとしている。


そのまま殴りつけるかと思われた忍だったが、鼻先がぶつかりそうな距離までくると、一気に佐藤の視界から消えた。


側から見ていたから分かったが、実際に戦っていたら本当に消えたように見えるだろう。


忍は急停止すると、体勢を低くし転倒を狙って足払いをしたのだ。


佐藤はこの動きに一瞬固まったものの、すぐさま視線を下げた。


「風昇」


そうして、このまま足を使って飛び上がり足払いを回避することは不可能であると悟ったのか、神術により垂直方向に風を発生させ、ふわっと浮き上がった。


どうやら、佐藤のスタイルは剣術がメインで遊撃や回避などサポートのために神術を行使するというもののようだ。


だが、この神術は隙が大きすぎた。佐藤はいまだに空中に留まっており、忍からしたら格好の的になっている。


忍がこの形になるように誘導し、それに成功した。


「終わりだ!」


「くっ!」


忍は佐藤が着地する1番無防備なタイミングで、殴りつけた。


一応ガードはしていたようだが、攻撃をモロにくらい殴り飛ばされる。そのまま道場の壁にぶつかり伸びてしまった。


「そこまでっ!手賀崎道場の勝利とする」


再び神楽さんの声が響く。


まずは1勝だな。

それにしても、意外と苦戦したなぁ。忍は肩を激しく上下させている。消耗は次の試合に響いていくことだろう。


まあ、エスパーにレジスタントが勝てるというは、本来あり得ないことではあるのだが。


「伊東!お前何やってるんだ!」


少し離れたところでは、伸びていた佐藤が、金華山のやつに叩き起こされて叱責されていた。


伊東って名前だったのね、少しだけかわいそうに見えてきた。いや、そんなこともないか。


「じゃあ、少し休憩して中堅戦に移りましょうか。手賀崎道場は勝ち残りね」


15分くらいか、忍が勝ったことや神楽さんがいることによって、休憩の時間は非常に静かな時間が過ぎていた。



縁側に座って庭を眺めていた神楽さんが立ち上がると、道場内の空気が一気に張り詰める。


神楽さんの動きに合わせて、忍と金華山の中堅もそれぞれ立ち上がり、向かい合うように並び立った。


「クリスさん頼みましたよ。伊東がヘマした分取り返して下さい。それに、あいつら先鋒のやつ倒したら後は雑魚しかいないですから」


金華山の連中から声がかかるが、クリスは当然だと言わんばかりに振り返りもせず、手を振って返事をしている。


「エスパーでなりながら、武術も極めている僕が負けるわけないだろう?特に君みたいなのにわね」


言うだけあって歩く姿は様になっている。おそらく、達人レベルの武術家なのだろう。性格は最悪そうだが。


ただ、その時も目線は忍に固定されており、忍の一挙手一投足を観察していた。レジスタントに対する油断は無いといっていいだろう。



「準備はいいわね、はじめっ」


本日2回目の合図が出される。


先鋒戦とは打って変わってどちらも動かない。

クリスは観察を続けているようだ。


「まだ後ろも残してるんで、今回は最初から全力で行かせてもらうっす」


その言葉にクリスは警戒を強めるが、自分から仕掛けることはなかった。

カウンターが得意なのかもしれない。


「手賀崎流奥義!」

















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