23話 「槍と魔法」
テクター。
回復職の中でも特に色濃くその力を発揮する、俗にいうヒーラー専門職。
基本的に戦闘には不向きだが仲間のサポートには最も向いていると言えるだろう役職、
前衛で戦う仲間を後衛のヒーラーが全力でサポートする。
これこそ基本の形でありながら、最も重要なことでもある。
「だが、今回は厳しいものがあるな」
シロのメインクラスはテクター、確かに回復役にはうってつけだが。
今回は敵のとっておきと一対一の戦闘、攻撃職ではないテクターにとっては不利と言わざるを得ない。
「じゃあちょっと請け合ってみるか」
デリトは瞬間移動、もとい高速移動をして敵のど真ん中へと突っ込んでいった。
そして何やら交渉をしている様子。
「終わったぞ」
「うわっ!?」
声がしたときには既に俺の横へと戻ってきていた。
とにかく心臓に悪いことこの上ない。
「シロと一緒にフィリアを出す」
「二人も出すのか?」
「そうだ。その代わり相手も二人出す、これでおあいこだ」
なるほど、シロだけでは攻撃できない。
でもフィリアが居れば攻撃と回復に分けられるって寸法か、流石デリトだ相手の戦力増強を顧みず自軍を強化する。
"肉を切らせて骨を断つ"ってところか。
「とにかく始めましょうか」
「そうですね」
黒い布をとった敵二人。
そこに立っていたのは男と女だった。
「私の名は『シーカー』よろしく」
「僕の名は『キュディ』よろしくお願いします」
ご丁寧にも自己紹介までしてくださって、完全にこちらが舐められている証拠だ。
相手の攻撃方法はまだ何も分からない、だがこれだけ油断していられるということは相当な実力者ということ。
「シロ、フィリア!油断するなよ!」
念のために注意をしておくものの、俺の言葉にはデリトほどの重みは無い。
というか俺自身、デリトくらいの信頼は得ていないと思う。
「ご忠告、ありがとうございます!」
「大丈夫…ミスはしない」
あの二人なら大丈夫と俺は信じている、例え力量差が有ったとしても。
シーカーは杖を出し構え、キュディは槍を構えた。
恐らくシーカーは魔法系統の使い手でキュディは見たままの槍使い、大方シーカーの魔法でキュディを強化しコンボを決めるといったところか。
「いくよキュディ」
「どうぞ、準備はできています」
キュディは真正面からこちらへと突っ込んでくる、槍さえかわせれば隙だらけになりそうな攻撃だが。
シーカーはキュディが敵の間合いへと入る寸前で魔法を発動した。
「『アクセラレーション』!」
瞬間、キュディの槍攻撃の起動は消え代わりにダメージがフィリアへと入った。
最大HPが7500のフィリア、それでも一撃で残存体力6000まで削られる。
(…マズい、私だから良かったもののシロが喰らえばタダじゃ済まない)
攻めなければこちらが負ける、そんな単純な法則で出来上がっているこの戦闘において回復役は足手まとい。
例え通常の戦闘でヒーラーとして役立ったとしても、一騎打ちに近いこの状況においては回復の暇などない。
「…おいで『ケルベロス』!」
フィリアの魔本から無数の鎖が飛び出しキュディへと降り注ぐ、しかしキュディは必要最小限の鎖を全て斬り崩した。
それどころかこちらへじりじりと間合いを詰めている。
(…間合いに入ればもう一度さっきの攻撃を受ける羽目になる、ここで優先すべき行動は)
「…『バイオルド』」
フィリアの唱えた魔法「バイオルド」は対象を一定時間「ゾンビ」状態にするという魔法、逆に言えばダメージを与えることが出来ないのだ。
「おや、僕をゾンビにして何か得でもあるかね!」
加速魔法「アクセラレーション」によって素早さが数段アップしているキュディの攻撃をかわすことは不可能、フィリアのHPはどんどん減っていく。
「このまま殺したんじゃ面白くない、そこのシロという娘も痛ぶってあげよう」
キュディは矛先をシロへと向けた、シロに攻撃を回避することは100%不可能。
そんな中、シロの脳裏に過ぎったのは…
「フィリアとかいう少女よ、今『ヤバイ』と思っただろ?回復役がいなくなるもんねぇ?」
「ククク…」
フィリアの顔色が変わる、先ほどとは一転して勝利を確信した表情へと。
もはや全てが思い通りといった表情へと変化する。
「何がおかしい」
「滑稽だな、お前は既に死んでいるというのに」
何を、という顔でフィリアを睨んでいたキュディだったが次第に言葉の意味に気がつく。
急いでシロに攻撃して殺そうとするも、身体が言うことを聞かない。
「貴様ァァアア!!」
フィリアがシロの前に罠として張っていたもの、それこそ動きを封じる一手。
「『ディアボロス』」
キュディの足元からは無数の手が現れ、キュディを拘束した。
それどころか、闇の中へと持っていかんばかりの勢いで地面に引き付ける。
「…シロ、ゾンビに有効的な魔法は?」
シロはフィリアの一言に「ハッ」とする、攻撃職ではない回復職。
前線では全く持って役にたたないヒーラー、それでもある一定の条件が揃った時には…
「…攻撃職に化ける、か」
シロは杖を構えた。
「ゾンビに有効な魔法、それは『回復系』魔法です!」
そう、元から死んでいるゾンビには生命が無い。
故に回復魔法は逆にダメージとなるのだ。
「嘘だ…嘘だ嘘だ!」
「喰らいなさい…『ラ・ヒール』!」
拘束され、呪文を回避出来ないキュディへと回復魔法は直撃した。
身体は灰のようなエフェクトと共に崩壊を始め、槍も宝石を残して崩壊を始める。
「シーカー!奴らを、倒せ!」
シロは回復魔法をキュディに連射し続け、キュディのHPゲージはとうとう赤色に入った。
しかしシーカーは動こうとはしない、ただただキュディを見届けている。
「シーカー、何をしている!このヒーラーを止めろ!」
「い・や・よ♡」
即答。
キュディの命令を即答で断る、キュディはその言葉を聞き絶望した表情をした。
「シーカーァアア!」
何かをキュディが叫ぼうとしたその時、とうとうキュディのHPが尽きた。
しかしシーカーは表情一つ変えない。
(…アイツ、自分の戦力が落ちることを恐れていない?)
「さてと、茶番は終わりにしましょうかね」
シーカーは杖を持ち直し詠唱を始める、それを止めようにも止めることが出来ない。
フィリアは深刻なダメージを受けている上にシロの回復魔法はまだリキャストできていない。
「まずは人数を減らしましょうか」
(なんだ、何の魔法を使うつもりだ?)
シーカーが杖を置いた瞬間、シロが消え去った。
否、正確には"その場から"と言ったほうがいいだろう。
「ぐっ!」
シロを探すためフィリアは周囲を見渡し、思いのほか早く見つかった。
がしかしその姿は想像のソレを遥かに絶していた。
「フィリア…さん」
シロがその場に崩れ落ちる。
壁へと叩き込まれていたのだ、HPゲージも最早数ミリといったところ。
「…何をした」
「私が今使用したのはちょっと特別なスキルでね『クロック・エディション』っていうんだけど…知るわけないか」
聞いたことのない魔法だ、恐らくスフィアの能力だろうか。
いやそれにしたって強すぎる、全く持って見えなかった。
(とにかくシロを何とかしないと…)
相手のスフィアのLVもわからないのに攻撃を受けるのは危険極まりない、だがどうにかしてシロを助けに行かないと…
「そうそう、サービスあげちゃうよ~私のスフィアレベルは4だよ」
4!?
上から二番目の危険さ、あんなのが入った武器の攻撃を喰らったシロは確実に危険な状態にある。
しかも現実の身体もどれだけのダメージを喰らっているかわからない、リアルのシロを傷つけるわけにはいかない!
「サービスのつもりだったんだけど…逆に怖がらせちゃったかな?」
完全に気を失っているシロ、体力も魔力も限界値に達してしまっているフィリア。
この状況を打開できるのだろうか、デリトの顔色を窺うもそれは分かりそうにない。




