19話 「宝石の光」
深夜。
このゲームの世界にも夜は存在するもので、ちゃんと睡魔も襲ってくる。
「ギシギシ…」
隣のベッドのバネがきしむ音がする、デリトが寝返りでも打っているのだろうか。
それにしてはやたら音がする、まるで誰かが大人の階段を上っているような…
(一体何の音だ…?)
うっすらと瞼を開ける、そこには二つの影があり…
「ハァハァ…」
デリトはどうやら眠っているようだがその手首は揃えられ、鎖でベッドに繋がれている。
仰向けのデリトにまたがる様にフィリアが乗っており、激しい息遣いでデリトへと顔を近づけていく。
「んぅ…?フィリア…なっ!?何をしている!?」
案の定デリトが目を覚ます、急いでベッドから起き上がろうとするが鎖によって固定されているため身動きが取れない。
それに乗じて刻々とフィリアが近づく、急いで現状を回避しようと首を動かすがすぐに抑えられる。
「だめ、ちゃんとこっちを見て」
フィリアは自らの口に人差し指を入れると、それに唾液を含ませデリトのほうへ持っていく。
そしてデリトのくちへと人差し指を突っ込んだ。
「むぐぅっ!?」
思わず声を上げる、必死にあたりを見回し何か策を練るデリト。
俺に気が付き、目で助けを求める。
(助けるか…いや、眠いしやめとこ…)
俺は顔を反らすように寝返りを打ち、見なかったことにした。
「デリトお姉さま…ここならお姉さまは能力を使えない…」
背中から声が聞こえる、ついでにデリトからの俺に対する殺気も感じる。
「や、やめろ!私は女に興味などない…いやリンクなら…」
「デリトの身体スベスベ…」
「呼び捨てだと!?あくまでも私に何かするつもりだな!?」
マズい、これ以上あの二人を放っておくのはお子様に対する影響に不衛生かもしれない。
どうにかしてフィリアを止めなくては…ん?
「デリトまずは初めての記念として血を…」
髪の毛をどかして首筋を晒される、そこに向かいフィリアの口が近づく。
「なっ!?ま、待て!考え直せ!ここにはゼノも居てだな…」
「他人に見られるのが好きなの?変態さん…」
「変態はお前だ!さっさとこの鎖を外せ!」
「大丈夫、誰がいようと関係ない。さぁデリトの初血を…」
デリトの首筋にフィリアの八重歯が触れる、そしてゆっくりと肉へと食い込み…
「ふぐぅっ!?」
壁へと吹き飛ぶ。
「阿呆、関係ないわけがあるか。こっちが寝れないだろ、盛大に大人の階段踏み外してんじゃねぇよ」
襟首を掴まれ投げられたのだ、無論デリトの鎖も外れる。
「どうして…?」
「お前の魔本とか言うやつを見てみろ」
フィリアの見た先にある魔本を見ると、三つの頭を持ったぬいぐるみのような犬が顔を出して倒れていた。
「ケルベロス!」
そう、先ほどフィリアがデリトを襲っている間に鎖の先を辿りあの本を見つけたのだ。
あとは簡単、テーブルの上に置かれていたその本を勢いよく殴るだけだ。
「ケルベロス…お前はいいやつだった」
白目をむき気絶しているケルベロスを抱くフィリア、その背後に迫る陰。
「さぁて、お前にも過去の産物になってもらおうか」
指をボキボキとならすデリト、その目に光はない。
「デリトにヤられるなら本望。」
「"や"の字をカタカナにするなぁ!!」
その後、
フィリアの姿を見たものはいないという…嘘だけど。
◆ ― 世界樹 ― ◆
ここからが本題、
俺たちは世界樹へと呼び出されていた。
「えっと俺たちに何か御用ですか?」
目の前には世界樹の精霊であるリンクさんが浮遊していた、
流石にデリトに対するときのような態度は取れない。
「非常に言いにくいのですが…」
「ですが?」
「少々、危険なプレイヤーが居まして…」
危険な…
それってもしかして"デリート・スフィア"のことじゃ。
「存じておりますのであれば話は早いです、そのデリートスフィアを20種類全て揃えてほしいのです」
「でもそんな物どうして…」
「スフィアの力はわかりますね?」
たしかLv.1までは本当のダメージを与える、
Lv.5からは生命に関わる…だったか?
「はい、正確には
『Lv.1=ダメージをゲーム内でも受ける』
『Lv.2=宝石の能力がLv.1よりも強い』
『Lv.3=現実の身体に影響が出始める』
『Lv.4=宝石の能力がLv.3よりも強い』
『Lv.5=この宝石によってとどめを刺された場合、現実の身体も死ぬ』
…というわけです」
というわけです…じゃねぇよ!
それ全部ヤバイだろ、てか結局痛いじゃねぇか!
「そんで、それが20種類ですか」
「そうです」
宝石が20種類、敵は少なくとも20人はいるのか…
探すのだけでも厳しいな、どうやって集める。
「なぁゼノ、とりあえず俺の持っていた宝石を渡したらどうだ」
「あぁ、そうだな」
俺はアイテム欄を操作し宝石を出すとリンクに渡した、
リンクはそれを受け取ると21個の穴を穿つ石板のような物へとはめ込んだ。
板には21個の穴、真ん中に一つ穴が空いておりそれの周りを20個の穴が囲むように掘られている。
「それは?」
「これはこの宝石の力を無力化するものです、この石板の中心に一つだけ穴が空いていますでしょう?ここに他の20個の宝石の力が集まり、反発して消滅するということです。」
なるほど、対消滅ってわけか。
「それで、宝石はいくつ集まっている?」
「実は守護者の方々が10個は集めてくださったんですよ。」
守護者…デリトの言っていた奴らか、世界樹を守るとかなんとか。
「じゃあ私たちので10個というわけだな」
「はい、セト様の協力もあってか早く集まっております。」
最近よく耳にする『セト』とは誰だろう。
今までに出会った記憶もないし、話もデリト達以外からは聞いたことが無い。
そこまですごい人じゃないとか?
「あっれ~そこの人、レベル上がっているじゃないッスか~♪」
「え?」
世界樹の奥のほうに架かっている光の橋を一人の女性がコチラへと歩いてくる、今までずっとただのオブジェクトだと思っていた橋がまさか通行可能とは。
それに俺を指さしてきたあの女性はいったい誰だ、一度も出会った記憶がないぞ。
「あ、あいつは…!」
カイザが顔を青くする。
しかし俺はカイザからあんな女の話は聞いたことが無いし、一緒に出会ったことも無い。
なんというか…柄が悪そうだ。
「アイツだよ…俺がお前を襲った時にお前を助けたのは…!!」
「えっ!?」
ただのガラの悪い女だと思っていた…
恐らく何かの組織の制服であろう装備を前でガッパリ開けている、大解放だ。
背中に弓を背負い、獣のような耳をしている…なんだこの女。
「いやぁ~あの時は焦ったッスよ、目の前でいきなり攻撃受けてんスもん(笑)」
「なんだビートか」
ビートと呼ばれるその女は常にふざけている様な態度で会話をしていた、
コチラにも話を振ってきたがあまり俺とは合わなそうだ。
「命の恩人っスよ~?もっと拝むッス~冗談っスけど」
「信じたくない…救われたなんて信じたくない…っ!」
「まぁ、そういうな。下手したらビートは私よりも手練れだぞ」
嘘だろ、いや面白くもない嘘だ。
絶対に無い、デリトよりもこの女が強いことは絶対に無い。
そんな確率は皆無だ、俺でもスキルを使えば勝てそうだというのに。
「ま、この後のクエスト。一緒に行動っスから、よろしく頼むッスよ~」
「なん…DATO…」
「そんな、嫌がらないでくださいよぉ~!自分これでも腕には自信があるッスよ~」
この女とクエストを共に遂行するだと、そんなのは嫌だ。
嫌だァァァアアアッ!!




