18話 「あっけないギルマス」
鎖によって地に座り込んでいるデリト、
それを見下すように近づいてくる少女。
「ほう、ネクロマンサーか」
「サブがヴァンパイア…」
デリトの言葉に繋ぐようにフィリアが答える。
が行動はそれとは裏腹、
次の攻撃に移ろうとしている。
「そうそう、一つ話をしてやろう」
「?」
苦し紛れの雑話だろうか、
デリトは床に座り込んだまま話し始める。
「この世に存在する物質のソレで、最も早いと言われているのが"光速"というのは賢い君なら知っているな?」
「うん」
「では、それよりも早いという可能性が見い出されている物質が何かわかるかな?」
フィリアは首を横に振る、熱心にデリトの話に聞き入っているようだ。
「"ニュートリノ"だ」
これにはギルマスも「ほう」という顔をしていた、
というか皆デリトの話には聞き入っている。
「しかし光との明確な速度の差は出なかったそうでな、それで終了」
「つまり?」
「"光速"がこの電脳世界では最速ってことだよ」
デリト不敵に笑う、
すると鎖に亀裂が走る。
「ま、時を止められたら別だがね」
ついに鎖は破壊されデリトの身体に自由が戻る。
デリトは二、三回手を握ったり開いたりした後、フィリアへと向き直る。
「つまり光速というのは…」
そこまで言うとデリトの姿が消える。
「こういうことだ」
すぐさまフィリアの目の前に現れ、
フィリアの顎に軽く手を添えると…
「少し寝てろ」
そのままフィリアの唇に自らの唇を重ねた。
「!!」
その場にフィリアが倒れる、
身体が軽く痙攣しているようだ。
「キャーっ!デリトさん何してるんですか!?」
「これは…あれだな、"あごくいきっす"だっけ?」
「ふむ、俺はロリコンでは無いがこれも中々…」
各自それぞれが様々な感情を抱く中、
デリトはフィリアの身体を持ち上げて三人の元へと戻る。
「勘違いするな、こいつを使っただけだ。やっぱり私は少女と拳で語り合うような趣味を持ち合わせてはいないみたいでな」
デリトが麻痺アイテムのビンをチラつかせる、
口移ししたということだろう。
「あぁ、あの状況でいくら光速といえど正式に飲ませるのは厳しいからか…」
「だから僕も味わったことのないファーストキスをその少女に…いぎっ!?」
ミロクの顎にシロの拳がクリティカルヒットする。
「少し黙ってください」
「は、はひ…」
「これが俗にいう"アゴグイ"か…」
などとふざけてはいるがデリトの顔は少し赤らんでいた。
「取り込み中のとこ悪いが、俺の相手は誰がするんだ?」
ギルマスが話を裂いて会話を切りだす、
恐らくデリトがもう一度戦うことになるのだろうが…
「悪いな、私は今日は店じまいだ…」
その場に膝をつくデリト、
先ほどの麻痺薬が身体に回り始めたようだ。
「姉御も飲んでたのか…」
「なんて強い麻痺薬なんだ、デリトですらこの様とは…」
そのままデリトは洞窟の岩肌へと腰を掛けた。
「あとは任せる」
あとは任せる…って、
誰に?
「俺と戦うのはそこの雑魚どもか?」
ギルマスの言葉に怒りが出始めている、
短気な性格のようでもう限界のようだ。
「いいや、こいつらじゃあないさ」
「何ぃ?」
デリトがタイムウィンドウを表示させる。
「ふ、そろそろか…」
その時計の時刻には特に意味も感じず、
そなままウィンドウは消えた。
「酒場、ルーラー…洞窟、そしてお前。ここまでで…」
「何をわけのわからないことを呟いている?」
デリトが顔を上げたとき、ギルマスはゾッとした。
「10時間だ」
デリトのその瞳は、怪しく光っていたのだ。
「さっき"雑魚"って言ったよな?」
「お…おう」
「お前と戦うのはそんな雑魚どもよりも雑魚いやつだ」
私達よりも雑魚?
そんな人って…
「もうきっと刺激に飢えている、猛獣のように噛みつくぞ?」
「さっきから何をほざいている!」
ギルマスは右手に出した槍をデリトへと投げた!
「フッ…」
デリトが笑う…そして…
『ガギィンッ!』
その場に折れた槍が落ちる、
槍の断面は刃できられたように綺麗なものだった。
否、斬られたのだ。
「お前の相手は…」
見覚えのある背中、
そして剣…そこにいたのは…
「ゼノだッ!」
剣を背中の鞘に静かに納めて前に出る、
そして消える。
「ん!?」
気がつくとギルマスの首元に刃をあてていた、
剣先に少量の血が伝う。
ギルマスの顔が青ざめる。
「最後に聞いてやる、お前の目的はなん"だった"んだ?」
「そ、それは」
「俺は今、非常に機嫌が悪い。手短にな」
ゼノの手に力が入る、
ギルマスの顔が更に引きつる。
「わかった…じゃあ自己紹介からだ…俺の名前はギル、ここギルマスになったのは先月のことでな…」
話しやすいように刃を少し離す。
「その頃、俺は普通のギルマスだった。だがある日、 このゲテルグルブで気がついたんだ…」
「『もしかしてNPCには自我があるんじゃないか』とな。そして現実で出来ないことが出来るこの世界、コチラを制服すれば俺の計画は完了だと。」
ギルは刃を押しのけるようにして立ち上がる、
そして剣を引き抜く。
「その為にはお前たちが邪魔というわけだ」
そのまま背中から抜いた大剣をゼノに振り下ろす!
「お前の狙いは何だ!」
それを防ぎ、
そのまま競り合いへと持ち込む。
「この世界を統べるもの、リンクだよォ!」
「何ッ!?」
リンク、
俺をここにさっき転送してくれた精霊…
あいつが狙われる?
「このゲームはアイツが制御しているという情報を得てなぁ、アイツを手に入れる!」
「そうはいくかよ…!」
だがどうする、ここでコイツを殺すと必然的にこいつはリンクの元へと蘇生転送される。
かといって放っておくわけにもいかない…!
「なぁに、むこうには守護者達が居るから大丈夫さ」
デリトが言う、
恐らくデリトが言うからには何か裏がある。
「じゃあ、信用するぜ!」
俺は光速化し、ギルの首を飛ばした。
「あばよ…」
最後に、
ギルは笑っていた。
不気味すぎて脳裏に焼き付き離れない…
◆ ― ラクスラズル・シティ/市街地 ― ◆
ふと疑問に思った。
デリトによると俺のように3日入り浸るプレイヤーも珍しくはないという、この世界には睡魔というものがちゃんと存在する。
睡眠系魔法もその一種だ。
「そういえば、寝泊りってみんなどうしてるんだろ…」
そう、寝泊りについてだ。
「ん?ゼノ、お前はそんなことも知らんのか」
「じゃあカイザは知ってるのかよ」
「知らんな」
「僕も~」
シロが頭を抱える、
どうやらシロだけが知っているようだ。
「あのですね…この世界にはPRSシステムというのがあって…」
それからしばらくの説明を聞き、とりあえずは理解できた。
「わかった、じゃあ俺にも専用の部屋があるってことか」
「そういうことです」
まだ頭を押さえているシロ、乙としか言いようがない。
「じゃあ皆!誰が自分の部屋に先につけるか競争しようぜ!」
「うむ、よかろう。騎士の魂見せてやる」
「ま、商売ついでに体力もってとこかな」
シロは「ダメだこいつら」と言った顔で見つめていた。
◆ ― PRS/ゼノの部屋 ― ◆
さて、
六畳もある広い一室を貰った。
シャワーやトイレ、台所も常備ときた。
「うーん!最高だなぁ~!…って」
一つ問題があるとすれば…
「なんでお前らが居るんだよ」
俺の目の前には赤い髪のドS少女と黒い髪の無機質少女が並んでいた、
後者については俺は全く持って接点がない。
そのうえ話したことも無い。
「む?私が弟子につくのは当たり前だろう」
「それはわかったとしても…そっちの娘はどうすんだよ」
こんな黒髪紅眼の少女、
俺のタイプとしか言いようがない。
いや、あれだよ?ロリコンとかじゃないよ?いやいや、いいわけじゃなくてだな…
「そんなことより寝床を作れ馬鹿者」
「は?俺ぇっ!?」
「お前意外に誰が居る、こんなか弱い少女に働けと?」
どこがか弱いのか、下手しなくても多分最強だぞコイツ。
「わかった、じゃあせめてその黒髪の娘の経緯を説明してくれ」
「む?知らん」
知らんじゃないだろ、お前が連れてきたんだろ。
「それとも何か?その少女がついてきたってか?」
「そうだ」
「まぁた、そんな嘘を…」
すると少女はデリトの陰へと隠れ、ボソっとひとこと。
「デリトお姉さま…」
ほう、お姉さまねぇ…
ん?「お姉さま」??
「はぁ!!?おま、「お姉さま」って!!?」
「知らん!私も初耳だ!」
デリトが初耳でどうする、俺ですら初耳なんだ。
「落ち着こう、とりあえず君の名前は?」
「ソイツの名前はフィリアだ」
お前が言うのかよ、やっぱり詳しいじゃねぇか。
「じゃ、じゃあフィリアちゃん。デリトとはどんな関係なのかな?」
「…」
あぁ、やっぱり答えないか…
「婚約者…」
は?
「ち、違う!私は婚約などした覚えはない!」
「キスも奪われた…」
「あーあ、ほらこう言ってるぞ。お前とうとう同性愛に目覚めたのか」
などと言い争っている間に、家族が1人増えました。




