10話 「死臭のする洞窟」
俺たちは4人パーティで旅を開始した、とりあえず次の町へと向かおうと思う。
「次の町は…『ルーラー・ズ・シティ』か」
「ほう、ルーラーか。なら私の知り合いも結構いるし情報も集まるだろう」
デリトは情報網がやたらと広い、一体どのくらいの時間プレイしたのだろうか。
きっと俺には皆目見当もつかないくらいの長さだろう、
俺も昔気づいたらプレイ時間がそのゲームの表示限界値まで達していたことがあったからな。
「だがゼノよ、ルーラーに向かうにはダンジョンを一つ越さねばな」
「ん?デリトのテレポート能力じゃダメなのか?」
俺は何の気なしにそう言うといきなり転んだ、
何かにつまづいたようで…というかデリトに足をかけられたようだ。
「何すんだよ!」
「いやな、地面に頭を打てば少しは治るかと思ったのだが…ダメか」
苦しさやダメージを受けているという感覚はあっても痛みは無い、
確かにこのあたりはゲームだと思う。
「いい?ダンジョンの一つすら攻略できないような奴がギルマスなんて倒せるわけないでしょ。」
「確かにそうだけど…」
「えっと、ゼノさん。ここはデリトさんに従いましょう?」
確かにデリトの言うことにも一理ある、楽のしすぎも良くないか。
ここはシロの一言もあるしおとなしく従うとしよう。
「わかったならさっさといくぞ」
なんか腑に落ちねぇなぁ…
◆ ― レッド・スコーピオン/本部 ― ◆
「うーん、特に何も起きないなぁ…」
そびえたつ岩山の頂上にて下を見物する男、
マスクによって顔が隠されてはいるがよく見覚えのある顔である。
「ふむ、名刺の枚数確認でもしておくか」
そう言い、男は自分の持ち物から名刺を取り出したが手が滑ったのか「あっ」と言って下へと落としてしまった。
「あー、まぁどうせ乗りこむつもりだったし…いいか」
本部では「Jokerからの予告だ!」などという騒ぎへと発展していた。
◆ ― 始まりの洞窟/入り口 ― ◆
現在、ゼノのパーティ一行はダンジョンへと侵入していた。
中は暗く、途中アイテム屋で購入した『松明』が唯一の明かりだった。
「ほえ~これがダンジョンですか…」
「あぁ、俺も始めて来たぜ」
「俺は一度通ったことがあるがな、その後はテレポートしか使わなかったから記憶が曖昧だ」
つまり全員初見のダンジョンに近いというわけか、
これはネタバレされていないアニメのような新鮮味を感じる。
"ダンジョン攻略"という文字を聞いただけでも胸が高鳴りそうだ、これこそ男のロマンの一つである"仲間たちとの洞窟探索"ってやつだろうか。
「お?早くも扉があるぞ」
早速、松明の光に照らされながらゴツゴツとした岩肌に茶色く錆びついたドアが姿を現した。
見た感じだけでも重そうに見える、これはどうやって開けるのだろうか…
「これって昔のRPGのように簡単に開けることってできるのか?」
「"百聞は一見に如かず"だ、まずは試してみろ」
俺はデリトに言われるがまま扉へと手を当てる、
するとちょっと力を入れてみるとどうだろうか。
扉が鈍い音をたてながら見るみるうちに開いていく、やはりここはゲームの世界だった。
「この世界で現実での常識が全て通じると思うな、ここは殆ど"なんでもアリ"だ」
"なんでもアリ"その甘い誘惑がゲームを人気のあるものへと変え、
そして悪を沸かす。
そしてある程度のルールを設けるが、その合間をぬって悪がはびこる。
「何でもあり…か」
「どうしたんですかゼノさん、行きますよ?」
目の前にシロの顔が急に現れ「うわっ」と声を上げそうになる、
「スマン、ボーっとしていた」と言って誤魔化したが…
実際、昔のことを思い出していたのだ。
「結局、スリルを求めているのかもな…」
俺は仲間たちが思っているよりも獰猛で残酷な人間、
いや"プレイヤー"なのかもしれない。
しばらく進んでいくとカイザが口を開く。
「ん?なんか妙な臭いがするぞ」
「確かに、焦げ臭いわね」
そうか?と思い自分も鼻を効かせようとしてみるが、何も感じない。
シロは自分の装備の匂いを嗅いで「私…じゃないですよね…?」などと必死になっている、なんというか…可愛い。
「あぁ、そこらの物とかの臭いじゃねぇ。コイツぁ…」
「"人を焼いた"臭いだな。」
カイザとデリトの言葉に背筋が一瞬凍る、
シロはまた頭が真っ白になったようで口を開けていた。
「そこのドアの奥からだな」
そう言って指したドアからはうっすらと光が漏れていた、
光は強くなったり弱くなったりを繰り返している。
「なんだろう…」
俺はなんとなく興味本位でドアを開く、
そこには…
「待て!…チッ!開けやがったか、お前ら!耳を塞いで目を閉じろ!!」
俺は好奇心だけでドアを開けたことを公開する、
勢いだけで開けるには刺激が強すぎた。
せめて、シロ達の様に一度心の準備をしてから開けていれば…
「なんだ…これ」
扉の先は大広間のようになっており、
真っ赤に燃え盛る炎に包まれていた。
『うわぁぁああああっ!!』
部屋中にこだまする悲鳴は次第に炎の燃え盛る音にかき消され、悲鳴の根源であろう人の声も小さくなっていく。
「おやぁ?お客さんかなぁ?」
強烈なインパクトに見舞われていた俺は突然の声に驚く、
その勢いからか一歩後ずさりをする。
「逃がさないよ」
目の前にいるプレイヤーが指を鳴らすと入ってきた扉は勢いよく閉まった、
それどころか開かなくなっている。
「な、なんで…!?」
「おっと、怖がらせてしまったかな。これは失礼」
もう一度プレイヤーは指を鳴らし、辺りを覆っていた炎を消しさる。
そこには黒こげになり、面影などといった言葉は通用しないほどに焼けた死体が沢山積まれていた。
「うっ!」
思わず吐きそうになる、
だが嫌でも死体の山は目に入る。
なぜなら、その積まれた死体の山の頂上にある椅子に奴は座っているのだから。
「お客さんに上から話をする、というのも礼儀としては不作法だったね。ちょいと待ってくれ…」
そう聞こえたときには既に奴は消えていた、
正確にはそれは俺の視界からというだけであって俺の近くということには変わりなかった。
「ようこそ」
突然のその声に「ビクッ」と動揺してしまう、奴は既に俺の目の前に移動していたのだ。
「くそっ!」
急いで間合いをとるべく後ろへとバックステップを決め込むが、
瞬時に背面は炎で囲まれた。
「挨拶もなしにいきなり「クソ」とは頂けないなぁ」
フードを脱ぎ始めたそのプレイヤーは何故か微笑している、
その姿だけでも目に焼き付けておこうと必死に目を見開く。
「一応僕も顔を見せておかないとねぇ」
男、銀髪、黄色い瞳…いやそんな情報だけでは他のプレイヤーと被ってしまう、
何か…
「そうそう、僕の宝物を見せてあげようかな。折角のお客さんだしね」
そう言うと男は首に下げてあるネックレスらしきものを服の中から取り出して見せた、
チェーンはただの鎖のようだがその先にある宝石は目を奪われるほどに美しかった。
「そ、それがどうした…」
「綺麗だろう?実はこれ特別な仕掛けもあってね…」
男の口元が歪む、
それに何かを感じたゼノは急いでその場を離れる。
「『デリート・フレイム』!!」
宝石は強く輝くとともに炎を吐き出した、
リキャストなどはなく連続で炎の玉を飛ばしてくる。
「くそっ!なんだあれ!」
どうしても全てはかわしきれず、
一撃を肩に喰らってしまう。
「ぐあっ!熱ッ!!!」
肩に衝突した炎の玉の勢いに押され、後ろの本棚へと突っ込む。
その振動によって倒れた本棚はドミノのように他の本棚へと倒れていき、
最終的には全ての本棚が倒れてしまった。
「あーあ、だめじゃないか。先人達の知恵の結晶をこんなにしちゃあ」
男がこちらへと歩いてくる、
現在本棚の下敷きになっている俺をまだ見つけてはいないようだが…
ある程度近づかれたら見つかってしまう。
「かくれんぼかい?ハハ、久しぶりだからちょっと腕を振るっちゃおうかな!!」
それ以上振るわれたら困る。
などという冗談を考えている暇もなく、
大量の炎の玉がコチラへと飛んでくる。
(やべぇ…!早くこの本棚をどかして脱出しないと…っ!!)
ゼノの上には本棚が乗っており、
退かすのには数秒かかりそうだった。
(扉を開けたときの要領で退かせそうだが、もう間に合わない…っ!!)
炎が直撃する、
本棚とともに本が飛び散る。
そこには残煙だけが立っていた。




