最終話 「ログアウト」
Testがデリトの腕とツタを切り落としてくれたおかげでデリトからは一旦距離をとれる、肝心なのはそのあとだ。
当然の如く、俺の体力やその他諸々を吸収したデリトは腕はおろかツタまで再生している。
「なぁ…どうするよ?」
「そういう無理ゲーを乗り越えてきたのはノア、君だろう?」
「違いねぇな!」
Tは俺より先にデリトへと走って近づき、もう一度ツタを切り落とし始めた。
「僕が攻撃している間にノア!君が奴を攻撃するんだ!」
「任せろ!」
俺はTestがデリトのツタを抑えている間にデリト"本体"への攻撃を試みる。
「さぁて、ここらで終わらせようか?」
「我、尽きぬ。」
デリトは俺に向かって手を広げると真っ先にスキルを発動させる。
「『チェーン・オブ・ディストラクション』。」
「なっ!?」
セトの身体が紫色の鎖に縛られて動きを封じられる、それと同時にMPを吸い取られていくのがわかる。
「この程度…!」
セトは壊世を手から放すと、そのままスキル発動へと移る。
「スィフトソーd…」
「『スキルクラッシュ。』」
「うぐっ!」
セトのスキルはデリトのスキルクラッシュによってことごとく無効化され、その分MPが更に消費される。
「おいおい、お前は何回つかまれば気が済むんだ!」
無論、すぐにTestが気がつき救出してくれたが。
「フー、フー…」
デリトが興奮した猛獣のように荒く息を吐き出す、それを見て俺たちは武器を構える。
「もう捕まるなよ?」
「あぁ、OKだ。それと…」
「なんだ?」
「お前が本体を狙ってくれないか?」
「…わかった、何か作戦があるんだろう?」
「まぁな」
俺はTestがデリト本体へ向かった瞬間にフラッシュスタンスを発動させる。
そして、高速で動きながらデリトのツタを部位破壊していく。
確かに高速でならデリトを攻撃出来るかもしれないが、恐らく奴は何かを仕込んでいる。
「ここか…!」
Tはデリトへと切り上げるように剣を振り上げる、そして剣はそのままデリトへと切り込みを入れる。
「うがぁぁあああっ!!」
「やったか!?」
(何も仕込んでいなかった…?いや…)
瞬間、デリトの口元がゆがむ。
それは恐ろしいほどの笑みだった、そう"勝者"の笑みだ。
「やっぱり仕込んでやがった!」
「我、落チズ…!」
デリトの身体から無数の刃が飛び出すように伸び、そのまま、ぶれることなく、真っすぐにTestを貫いた。
「グハァ…!!」
「終ワリダ」
そしてデリトは先ほど同様TestのHPを吸いだし始める、無論ゲームマスターだったと言えどHPは存在する。
やろうと思えばチートのような真似もできるのだろうが、それは彼のプライドが許さないのだろう。
これはゲーマーにしかわからない、きっとそういうプライドだろう。
「今だ"セト"!!」
「あぁ、"T"!」
そのまま俺はフラッシュスタンスでデリトへと近づいたのち、デリトの身体へと壊世を突き刺した。
そして、引き抜く!
「マサカ…!!」
「その"まさか"だ、お前のデータを引き抜く!」
「ヤメロ…ヤメロォォォオオオッ!!」
壊世へとまとわりつくように深遠に染まったデータが、粒子のエフェクトと共に引き抜かれる!
「ウグ…アアアアアアアアアアアあああああっ!!」
「喰らいやがれええっ!!」
そして、創世のスキルを発動させる。
「やめろ!やめろおおおおおおおおっ!!」
デリトの身体が次第に崩れ去っていき、そのまま世壊樹とともに俺たちの身体は空へと放り出される。
これで終わったのか…?
ハハ…案外あっけないものだな、でも強かったなぁ。
個人的にはどんなレイドボスよりも、な。
「…ト」
ミッドナイトバーミルドより強いかも…なんてな。
…暗いな…ここは。
「…ト、セト」
誰だ?
さっきから俺を呼ぶのは…
「この声は…」
『セトッ!』
声に驚くかのように俺は目を覚ます、そこにいたのは…
「セト…」
「り、リノア…」
そう、本当に会いたかった。
彼女を助けたい、その一心だった。
Testが消えるとき、
アイツの言っていたことをやっと思い出した。
思えば運命だったんだ…
「あぁ、あともう一つ。例外があるんだ、実は僕のなぜか肉体と記憶の両方を持ったデータがあってね。まぁ、消すつもりはないけど一応つたえておくよ。名前は…」
「名前は…?」
俺は焦らされるのが好きではなかったから、
早く聞き出したくてTestをせかした。
「出会った時に言ったことを思い出してね、君の物語に一番関わると思うからつけた名前だ。シナリオに囚われないためにも」
「もったいぶらないで言えよ」
そして、
Testは名前をゆっくりと言う。
「あぁ、名前は『Re:noa』だ」
「り…リノア?」
「それでもかまわないさ。君の人生に一番、関わってくるキャラだと思ってくれればいい。」
そうか…
リノアか…
「思い出したよ…」
「私も、セト…」
俺は初めからリノアと出会うために、
そのためにこのゲームをプレイしていたのかもしれない。
「私、セトに会えてよかった…」
「俺もだ、リノア…」
そして、
俺はリノアとともに空高くを真っ逆さまに落ちていることに気がつく…が
最後がリノアと一緒ならいいかもなって…
「ごめんね…私もう時間なの」
「…え?」
リノアは俺の手を握って、
優しく、
悲しそうに微笑む。
「デリトと一緒に世壊樹が消えた、つまり次の器が必要なの…」
「それじゃあ次の器って…」
「そう、リンク様よ」
そうか、
よくよく思い出してみればリノアはTestの半身だったけど、リンクの半分でもあるんだもんな…
「私がいないとリンク様は本当の力を出し切れない、この世界を制御できないの…だから」
「リンクに戻った後はどうなる?」
「忘れちゃうかな…何もかも…」
嘘だろ。
ジャンと一緒にクエストクリアした記憶も…
エリュシオンまでの旅も…
シュライト聖堂での出来事なんかも…
「それに…それにやっと会えたんじゃないか!」
「ごめんね…」
上へと巻き上がる空気が痛々しいほどに肌をなでる、
しかしまだ地面は見えない。
「畜生…!」
目から涙があふれ出してくる、
エフェクトなんかじゃなくて。本当の涙だ。
「え?」
リノアは情けなく泣く俺のほほに両手で優しく触れると、
そのまま優しく唇を重ねた。
『"…が…う"』
「…え?なんて?」
リノアは何か一言を言うと俺の手を離して距離をとった、
そして涙と笑みを浮かべながら身体が粒子のエフェクトと共に崩壊を始めた。
「待ってくれ…!まだ、まだリノアと話したり…旅したい場所がいっぱいある…」
俺は必死に手を伸ばした、
でももう遅かった。リノアは空へと散って行った。
「リノアァァァアアアアアアっ!!」
手のひらを見ると、
リノアの欠片だろうか?
緑色に綺麗に光る破片が微かに残っていた。
「リノア…」
俺は強く握りしめた、
離さないように。
「バカ野郎ッ!何諦めてんだッ!」
雲を突き抜けて一筋の閃光が俺をめがけて飛んでくる。
(あれは……オッサン?)
「オッサンじゃねぇっ!お前自身だッつってんだろっ!そんなことより急げ、お前ならまだ間に合う!」
「何が間に合うんだよ…リノアはもう消えt…」
「消えてねぇ!俺はお前に渡したはずだビンをな!」
(ビン…?)
俺はアイテムパックを表示する、
それはあった。
「でもこれって…?」
「それの中に入っている緑色の破片があるだろ?見覚えがないか」
ハッとして俺は手を開く、
そこには同じ破片、リノアの欠片があった。
「そうだ、そのビンの中の破片もリノアだ」
「でもオッサン、あんたはどうしてそんなものを…」
「俺は"救えなかった"未来から来た。」
(救えなかった未来…?)
「さぁ、急げ!今ならまだ間に合う、ビンの中にその破片を入れろ」
「え、お、おう…」
俺は言われるがままにビンの中へと破片を入れた、
するとビンの中の破片が輝きだした。
「これは…!?」
破片は一斉に飛び出すと、
空中で固まり、そしてどこかへ飛んでいった。
「リノアが完全によみがえるわけじゃない、だが彼女の魂は受け継がれた…データもな」
「思い出、か…」
未来の俺は俺の襟首をつかむと、
フラッシュスタンスを発動させた。
「これは…」
「これでわかったか?俺は未来のお前だよ」
「でもどうやって…」
「前にも言ったようにここでの時間は加速している、時間の操作なんてわけないだろ。てかリンクには言っておいたはずなんだけどなぁ…」
そういうことか、
にわかに信じがたいが…
ここはゲームの世界だ、非現実的なことが叶う世界。
「ここまではジャンに飛ばしてきてもらった、お前とはレベル差があるからな。飛脚力スキルにスキルポイント全部振っちまったよ。」
「それで…フラッシュスタンスも組み合わせてここまで来たってわけか」
地上がだんだん見えてくる、
フラッシュスタンスは雲を抜けるためだけに使われ、その後は解除されていた。
「あれは…」
地上には、
ジャスティン、ビート、アナライ、その他大勢のプレイヤーが俺を受け止めるように手を広げて集まっていた。
「セトォォオ!!ここだぁ!俺の大剣に任せろおお!!」
「先輩、大剣なんかに着地できるわけないでしょ」
「セトォ!帰ったらまた取引だぁ!!」
『セトさん!』
『セト―!』
『えっと…セトさーん!でいいのかな…?』
みんなが俺を迎えてくれた、
そして受け止めてくれた。
「みんな…ありがとう」
「おうよ!俺たちはもう仲間だもんな!」
あたりから一斉に「そうだ!」や「もちろんだ!」などの言葉が沸き上がる。
「さぁて、みんなそろそろ解散するかぁ!」
そういえば未来の俺はいつの間にかいなくなっていた、
恐らく今もどこかにいるのだろう。
「なぁ?セトはどうするんだ?」
「俺か?俺は…」
メニューをなんとなく操作していると、
そこには『ログアウト』の表示がかかったボタンが復活していた。
「一度帰れってか…」
「でも、身体は死んでるんだろ?」
「あぁそのことなんだが…」
『問題ありませんよ』
どこからともなくリンクの声がしてきた。
「これが…精霊様の声…!?」
あたりがざわめく。
『私はセト様をゲームに入れられるような干渉ができたほどです、自分でもいうのは何ですが"蘇生"なんて朝飯前です。』
「なんて凄まじさだ…」
俺は少し笑うと、
ログアウトボタンへと指を運んだ。
「そんじゃな!また会ったら一緒にクエスト行こうな!」
「あぁ、またな!」
「師匠!私もッスよ!」
「あぁ、また会おうな。」
そして、
現実へと戻った。
「…ん、うーん」
今、何時だ?
「これは…現実!」
急いで洗面所へと俺は走った、
鏡を見るとサムライのような俺ではなく…
いつも通りの死んだ魚のような目をした俺が居た。
「た…た、たた」
腕を大きく広げて叫んだ。
「たっだいまぁぁぁあああああ!!」
あ、
そういえば!
「やっぱりか…」
俺は急いでPCのほうへと向かった、
がそこにはもう『Lost new World』のアイコンもなければ画面も無かった。
「もう…これでおしまいなのかな」
そう思いながらも俺は必死で探した、が見つからなかった。
…そんなとき、一通のメールが届いた。
「なんだこれ?」
無論、
開いた。
内容は
『おめでとうございます、あなたは招待されました。どうぞ以下の物をお届けいたしますので空いています日時をお教えください』
(詐欺か…?差出人は…)
『差出人/リンク』
「これは…!」
俺はすぐにメールに貼られていたURLをクリックして、
その先にあったゲームをDLした。
そして届けるという物の日時もちゃんと指定した。
「あー!そうそう、おふくろに電話かけなきゃ」
俺は公衆電話へと走って、
なけなしの十円をはたいて電話をかけた。
「あ!おふくろ?俺、働くことにしたんだよ!」
そう…決めたんだ
「え?何の仕事かって?」
絶対に今度こそ離さないって…
「ゲームとかで不正をしないか監視する仕事、うん」
この世界も、あの世界も…
「給料?うん、ちゃんと貰えるんだよ」
そして、"彼女"も。
「え?なんのゲームかって?」
それは…
「それは…」
「『Read New World』だ」




