二十一話 「願い」
デリトとの距離はかなりある、いくら天空に浮かぶ島であるこのラクスラズルでも届かないほどに上だ。
しかし、デリトの居る場所まで"どうやって飛んでいくか"よりも今重要なのは"どうやって近づくか"だ。
「畜生、あいつのあのレーザーみたいな遠距離攻撃どうにかならないのか…!」
「どうにかって言ったって…」
確かにデリトは上空で俺たちは地上、圧倒的に有利なのはデリトだ。
俺たちの攻撃を上空に飛ばすことはできないがデリトは地上に向かって攻撃するだけでいい、こんな無理ゲーが成立している戦闘で勝算なんて見いだせるわけがない。
「あークソ!セトッ、俺の防具の耐久力にも限界があるんだ。なるべく早く頼む!」
「あのなぁ!そんなこと言われても…」
「師匠!手伝うッスよ!」
気づくとジャンの肩に乗るようにしてビートが弓を構えていた。
「そうか!ビートなら遠距離攻撃ができるじゃないか!」
「残念ながら私の矢が重力で振ってきて終わりッスね、昔…真上に撃ってみたことあるんで。」
ビートレベルのプレイヤーの攻撃でも無理となったらほとんどの遠距離攻撃が無意味だろう、これはいよいよ本当の無理ゲーかもしれない。
「でも、利用価値が皆無ってわけじゃないッスよ?ととえば…」
そういってビートは弓をデリトへと向けて引き、放った。
「おま、さっき届かないって…MPの無駄遣いじゃないのか!?」
「いいから見ていてくださいッス」
するとビートの放った矢が一本一本、光の膜となってデリトの攻撃を相殺した。
「『シールド アロー』…これほとんど利用法が無かったんスけどね」
「ほう…これは今の状況にうってつけだな…」
「ジャン、今のうちにポーション飲んでおけ」
俺はジャンのほうに中回復するポーションを投げてやると、ジャンはそれを飲み干した。
「いや~スッキリ!まぁ、液晶越しだからわからないんだけどな!」
などと相も変わらず呑気にジャンは笑っているが個人的な意見を述べると、この状況は笑えない。
確かにビートのスキルはかなり役立っているが、それも時間の問題。
相手のMP量が目安すらもつかめないんじゃ何もできない、状況はほとんど変わっていない。
「畜生!どうすれば…!」
「師匠の能力はどうですか?あの…カウンター?とか言うやつです」
カウンター…
だがあれは相手が近くなきゃ意味がない、結局意味無いじゃないか。
「いや、まてセト。お前はこのゲーム内にいるからルール無視の行動が出来るんだよな?」
「あぁ、そうだが…」
「だったら…」
俺はジャンの作戦を聞いてそれしかないと思った、いや確信的な意味ではない。手段がそれしか無いからという消極的な意味でだ。
「…わかった、それで行こう」
『セト、覚悟を決めたか』
「覚悟ならもう結構前に決めただろ?俺が今決心したのは」
"仲間を絶対に死なせない"ってことだ。
『なるほどな、リノアからギルドメンバー、今のパーティも含めて"仲間"か…』
「あぁ。さて、そろそろいくぞ!」
『任せろ!』
俺はビートにシールドを張ってもらいながらデリトの真下へと向かうと、そこでジャンから距離をとった。
「愚かな。何をしようと無駄だということに気がつかぬか。」
デリトの言葉に耳を傾けている暇はない、
とにかくその場からジャンへと走る、
俺が今見つめているのは。
「今だ!振れッ!!」
「オウっ!」
ジャンの大剣へと俺が乗り、
ジャンのスキルであるスカイインパクトを真上に向かって放つ!!
「まだだ、まだ届かない…!」
その後、
ジャンの肩へとビートが跳び箱の踏み台のように乗ると、勢いよくジャンプして俺の足をめがけてシールド アローを階段のように放つ!
「任せたッス!」
光の膜となった矢が足場の役割を果たし、
デリトへと一気に近づく!
「散れ。」
デリトが近づいてくる俺めがけて攻撃を放つが、
デリトからの攻撃は全てカウンターで相殺する!
「任せろ、ウラァァアアアッ!!」
アナライの武器である槍が俺めがけて飛んでくる、
それを足場として更に上へと飛ぶ!
「あと少し…もう少し!」
しかし、
これ以上はゲームシステムやスキルの応用で上がることはできない。
(嘘だろ…?ここで終わりだと?そんな…)
身体が落ち始めた、
さっきまで近づいていたデリトが今度は逆に、徐々に遠のいていく。
(ここまで来たのに、これで終わりかよ…!)
願いだけじゃ叶わない、
それが現実かもしれない。
リアルでもそうだった、だから高校も落ち…就職もできず。
こんな世界へと閉じこもった。
「こんなもんか」
(ちがうだろ)
「所詮、俺にはここまでが限界だ」
(それでいいのか?)
「これ以上はもう何も望めない」
(助けを求めろよ)
「誰に?」
…誰に?
その時、
地上の戦火の中から一筋の光がこちらへと飛んできた。
「なんだ?」
(さぁ、俺よ願え)
「願う…」
(願え)
「リノアを…」
(願え!)
「リノアを助けたい!!」
その時、
落ちていこうとしていた俺の真横にいたのは。
「"願ったなら叶えろよ"!!」
「Test…?」
するとTは俺を掴んでデリトへと勢いよく投げた。
「何?主は我が蘇生させた存在、故に我の指示以外は聞けぬはず」
「舐めてくれるな、僕はこの世界のゲームマスターだぞ?僕の半身ごときである貴様に劣るわけがないだろう。」
「だが、我は主の忘れ去られたという憎悪からこうなったのだ。」
「だから終わらせに来た。」
「させぬ。」
「やるさ。」
Testは俺を投げた方向に俺より早く飛ぶと、
デリトの攻撃を全て消し去って道を作った。
「ただし、やるのは僕じゃない」
Testが作ってくれた道だ、チャンスだ。
これを逃すわけにはいかない!
『振るえ!』
「断ち切る!」
やっと、
やっと着いたぞ。
「デリトォォオオッ!!」
「無意味だ、この世界の支配者は我である」
デリトの背後に吸収されている世壊樹から触手のように飛び出してくるツタ、
それを正確に一本一本切り裂いて進む。
『右!左前方、上!』
「うおおおお!」
そしてデリトの目の前へとたどり着く。
世壊樹の根が足場となるため、ここからはゆっくりと戦える。
「さて、そろそろ終わらせてやんよ」
そして俺はデリトに向かって創世を突きつけた。
しかし、
俺が創世を構えたときにデリトがとった行動は…
「フフ…」
両腕を広げて、
こちらへと腕を向けている。
まるで抱きしめるかのように。
「何を…」
『セト!馬鹿、後ろだ!』
気づかないうちに俺の後ろへと近づいて来ていたツタに背中を押され、
デリトのほうへと倒れこんでしまった。
「しまっ…」
しかし、
特に何をされるわけでもなく俺はデリトに抱きしめられた。
「なっ?!」
「ようこそ」
しかし、
それで終わるはずもなく。
デリトの胸部分が怪しくうごめいたかと思えば、
そこから尖った何かが出てきて俺の胸を貫いた。
「グフッ…!?」
無論、
一発ごときではダメージは大きくはない。
ただ。
『セト!これは…』
「HPが…」
そう、
デリトはグリード・ブレイドを使ったのだ。
「ハァ…最高。流石、ここまで来ただけあって極上のエネルギーだ…」
「クッソ…この野郎!」
離れようとするがデリトの腕が絡みついて離れない、
このままでは俺のHPが0になる…!
「ノアッ!任せろ!」
「Test!」
Tが俺の壊世を取ってデリトのツタを切り裂いた。
「はぁ…助かった」
「あぁ、ここからがラストだ」
いよいよクライマックスってわけか…!




