第15話:インフラの防壁、あるいは査問官の完敗
「力ずくか。……やれやれ、現場を知らない奴はこれだから困る」
突撃してくる武官たちの足元を見据え、俺は小さく息を吐いた。
暴力ですべてを制圧しようなど、物理法則を無視した愚行の極みだ。この新しく舗装された高規格道路と排水・路盤のネットワークは、単なる生活道路ではない――村を守るための最高の「防衛インフラ」でもあるのだから。
(基底ネットワーク接続。路盤制御プロンプト・アクティベート)
[System Initialized: Road_Control_Matrix]
[Target: Main_Street (Sectors 1 to 3)]
[Parameters: Surface friction coefficient modification, dynamic slope shift]
思考の海で、瞬時に道路の物性パラメータを書き換える。
美しく舗装された高規格道路の表面摩擦係数を、一瞬だけ「ほぼ氷点下(摩擦ゼロ)」へとフェイズシフトさせる。
PROMPT: "指定セクターの表層ミクロン単位を流動化。侵入者の足場を強制的に無効化せよ。"
「――転べ」
俺が指をパチンと鳴らした瞬間。
「なっ……!?」
突撃してきたガザードおよび武官たちの足元の路面が、一瞬にして鏡のようにツルツルの状態へと変化した。
重装備の武官たちが、まるで凍てついた氷の上をスケートですべるように、見事なまでの大転倒をかます。
ドタバタバタッ――! と、乾いた派手な音を立てて全員が重なり合うように地面へとひっくり返った。
「いてて……っ!? な、なんだこの地面は……!? まるで油を塗ったように滑るぞ……っ!?」
「バカな……足が、全く踏み込めない……っ!」
起き上がろうとあがいても、摩擦のない路面ではまともに立つことすらできない。ガザードたちはまるでひっくり返ったコオロギのように、地面の上で手足をバタバタさせるばかりだった。
「馬鹿め。我が村の道路は、お前らのような不法侵入者をウェルカムするほどヤワにできてないんでね」
俺が冷ややかに見下ろすと、後ろで見守っていたダガンや村人たちから「よくやった!」「ざまあみろ!」と割れんばかりの歓声と痛快な笑い声が巻き起こった。
「お、おのれ……小賢しい真似を……! 許さんぞ、魔導剣を抜け……っ!」
ガザードが顔を真っ赤に染め上げ、這いつくばりながら無理やり剣を振り回そうとしたその時。
「――そこまでになさいますことよ、ガザード」
シュッ……と、リリアがポケットから取り出した、王都直属の「主席監査官の証印(魔導公印)」をガザードの目の前にビシッと突きつけた。
「これを見てもまだ逆らう気ですの? 監査官であるわたくしが、この村のインフラ整備および代官アレン様の統治に一切の不正はなく、むしろ国家に多大な利益をもたらしていることをここに正式に証明しますわ! これ以上暴れるというなら、あなたたちを『王都への反逆および職権濫用』の罪でその場で告発しますのよ!」
リリアの凛とした、微塵の隙もない叱責に、ガザードはガタガタと震え出した。
主席監査官の公式な証明があれば、もはや宮廷水理局といえども表立って手出しはできない。法的にも政治的にも、彼らの手口は完全に詰んでいた。
「くっ……覚えていろ……! バドリック様がこれを許さぬぞ……! 撤退だ、退けぇっ!」
ガザードは悔し涙を滲ませながら歯を噛み締め、転がりながら起き上がった部下たちを引き連れ、文字通り這う這うの体で村から逃げ出していった。
こうして、王都からの最初の実力行使は、アレンのインフラ防衛術とリリアの完全な監査官証明によって、鮮やかに、そして圧倒的な形景で退けられたのだった。
「ふんっ! わたくしをナメてもらっては困りますわね!」
去っていく武官たちの背中に向かって胸を張り、得意満面な顔をするリリア。
その手にしっかりと握られていたのは、アレンに直してもらったお気に入りの日傘だった。




