第14話:王都からの査問官、あるいは泥上の決戦
「――そこまでだ、不法占拠の反逆者どもめ!」
秋晴れの青空を切り裂くように、砂煙を激しく巻き上げてバルツァー村の街道に乗り込んできたのは、王都の宮廷水理局が直轄する武装した査問武官の一団だった。
先頭を馬上で仕切るのは、冷徹な目を隠そうともしない一人の査問官――名をガザードという。水理局長バドリック卿の懐刀として、数々の不都合な現場を権力と暴力でねじ伏せてきた冷酷な男だ。
「村を囲め! 代官アレンをただちに拘束し、この土地の権利書を没収する!」
ガザードの非情な号令とともに、十数名の武官たちが抜き身の剣をギラつかせながら村人たちを取り囲んだ。
突然の暴力的な来訪者に、村の男たちが血相を変え、鍬やスコップを握りしめて一斉に前へ出ようとする。しかし、ダガンが大きな腕をガシッと広げて村人たちを制止した。
「おいおい、勝手に乗り込んできていきなり剣を抜くとはな。王都の役人はいつから上品さを捨てて山賊になったんだ?」
「黙れ、日雇いの下司が! 貴様らのような不法占拠の泥棒どもに人権などない! 逆らえばまとめて処刑するまでだ!」
ガザードは鼻で笑い、馬の上から村の様子を冷ややかに見下ろした。
――だが、その冷笑は長くは続かなかった。
彼の視線が、新しく舗装された白く美しい高規格道路、その両脇に整えられた石積みの側溝、そして少し離れた場所で黄金色に実り始めた広大な麦畑をとらえた瞬間、ガザードの表情がピタリと凍りついた。
「……なっ……!?」
彼が想定し、そしてバドリックから聞かされていたのは、歴代の代官たちが逃げ出したような、泥にまみれ、飢えと絶望に喘ぐ惨めな寒村の姿だったはずだ。
しかし、目の前に広がっていたのは、王都のどの直轄地よりも美しく、計画的に整備された「近代的な一大拠点」の光景だった。
「どういうことだ……? 洪水で流され、泥に沈んでいるはずの村が、なぜこれほど完璧にインフラ化されている……?」
「驚いたか?」
低い声とともに、俺は作業着のポケットに両手を突っ込んだまま、静かに武官たちの前へと歩み出た。
その背後には、アレンに直してもらったお気に入りの日傘を手に、凛とした表情を浮かべたリリアがしっかりと控えている。
「アレン……! 貴様、一体どんな不正な禁術を使ってこの土地を改変した! 宮廷水理局の許可なく大規模な土木改修を行うことは、明白な国家反逆罪だ!」
ガザードは怒りと焦りを隠せない声で叫び、鋭い剣を俺の鼻先に突きつけた。
証拠の捏造でも何でもいい。とにかくアレンを無理やり罪人に仕立て上げ、村の権利を強奪するというのがバドリックからの厳命だったのだ。
「不正だの禁術だの、相変わらず自分の頭で考えられない奴らの言うことはワンパターンだな」
俺は冷ややかに鼻で笑い、目の前の査問武官たちを見据えた。
「この土地を変えたのは、神の奇跡でも怪しげな禁術でもない。――土木だ。お前らが机の上で祈っている間に、俺たちはここに生きるためのインフラを築き上げた。それの何が反逆罪に当たる?」
「ふざけるな! 魔力なしの落ちこぼれが、たった一人でこのような大工事をできるわけがない! 逮捕しろ、首を刎ねろ!」
ガザードが絶叫し、武官たちが一斉に俺へと詰め寄ろうとした、その時――。
「そこまでですわ、ガザード!」
凛とした、しかし確かな気高さを持った声が、静まり返った街道に響き渡った。
一歩前へ踏み出したのは、主席監査官のリリアだった。
「リリア様……!? なぜ、あなたがこのような反逆者の側に……!?」
「わたくしはこの村の正規の主席監査官、リリア・フォン・グランツですの! ガザード、あなたこそバドリック様の私兵を勝手に引き連れ、国家の正規のインフラ事業を妨害するつもりですこと!? そんな横暴、このわたくしが許しませんわ!」
王都の名門・グランツ家の令嬢としての威厳を全開にしたリリアの迫力に、ガザードはわずかに気圧され、たじろいだ。
「お、お言葉ですがリリア様! バドリック様のお言いつけは――」
「バドリック様の私的な圧力など、この村の現実の前には何の意味もありませんわ!」
リリアは胸を張り、眩しいほどの誇らしい笑みで俺の隣に並んで言い放った。
――王都の犬を捨て、この村の未来を自分の意志で守ると決めた少女の覚悟が、そこにはあった。
「いいだろう……そこまで逆らうというのなら、貴様らごとこの村を力ずくで更地にしてくれる! かかれッ!」
ガザードの狂気に満ちた号令とともに、武官たちが一斉に抜刀して斬りかかってきた。
絶体絶命の包囲網の中、俺は静かに視線を巡らせ、コンソールのエンターキーに指をかけた。




