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『真理子という名前』  作者: 蔭翁


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第24話 三浦奏 ――響きの芯


東北代表・三浦奏がステージ中央に立つ。


華やかさはない。

装いもシンプルで、余計な装飾は一切ない。


それでも――


その佇まいには、どこか“揺るがなさ”があった。



---


■ 立つということ


三浦奏は、軽く一礼する。


それだけの動作が、不思議と丁寧に見えた。


無駄がない。

誇張もない。


ただ、“そこにいる”。


審査員席で、風間隼が小さく目を細める。


(……静かだな)


だがそれは、藤原葵の静けさとは違う。


葵が“完成された静”なら、

奏は――


(削ぎ落とされた静、か)



---


■ 最初の音


伴奏が始まる。


そして、奏が歌い出す。


低めの音域。


決して大きくはない。


だが――


芯がある。


音が細くても、揺れない。


まるで一本の線が、そのまま空間を貫くように。



---


■ 舞台袖の反応


詩が小さく呟く。


「……強い」


紗江も思わず頷く。


「うん……なんか、ぶれない」


玲は無言のまま、じっと聴いていた。


(この声……)


装飾がない。


技巧も目立たない。


それなのに――


(逃げてない)


一音一音が、真正面から来る。



---


■ “芯”という武器


奏の歌は、広がらない。


派手に空間を支配するタイプではない。


だが――


逃げ場がない。


聴く者は、その声と正面から向き合わされる。


風間がノートに書き込む。


「芯」


それだけ。


だが、その一言に全てが含まれていた。



---


■ 詩の気づき


詩は、無意識に自分の胸を押さえていた。


(この感じ……)


昨日、自分ができなかったこと。


今日、少しだけできたこと。


それを――


(この人は、最初から持ってる)


声に迷いがない。


“ここで歌う”という覚悟が、最初から定まっている。



---


■ 紗江の感覚


紗江は少しだけ息苦しさを感じていた。


(……すごい)


でも、それ以上に――


(怖い)


自分のような“揺れ”がない。


透明でもない。


ただ、まっすぐ。


その強さに、自分の弱さを照らされるような感覚があった。



---


■ 玲の理解


玲は静かに目を細める。


(なるほど……)


ここまでで揃った。


詩の前進。

紗江の透明。

葵の完成。

そして――


(奏の“芯”)


玲の中で、何かがはっきりと形になる。


(この大会は、“違う強さ”のぶつかり合いだ)



---


■ クライマックス


奏の歌が終盤へ向かう。


声は変わらない。


大きくもならない。


だが――


一音ごとに、重みが増していく。


観客席の空気が、静かに締まる。


誰も動かない。


ただ、聴いている。



---


■ 最後の音


最後のフレーズ。


奏は一切揺れない。


まっすぐに音を伸ばし――


そのまま、静かに切った。


余韻が残る。


長い沈黙。


そして――


拍手が広がった。


大きくはない。


だが、深い。



---


■ 舞台袖へ


奏が戻ってくる。


表情は変わらない。


達成感も、安堵も見せない。


ただ、軽く一礼するだけ。


詩が思わず声をかける。


「……すごかったです」


奏は少しだけ視線を向ける。


「ありがとう」


それだけ。


短い言葉。


だが、そこにも迷いはなかった。



---


■ 次の段階へ


舞台では、次の出場者の準備が始まっている。


だが――


空気は、明らかに変わっていた。


詩は思う。


(強い人が、多すぎる)


紗江は思う。


(私……ここにいていいのかな)


玲は思う。


(面白い。もっと先が見たい)



---


■ 風間の確信


審査員席で、風間隼はゆっくりと頷いた。


(これで揃った)


完成。

前進。

透明。

そして芯。


どれも“正解”になり得る。


だからこそ――


(選ぶのが難しい)


風間は小さく笑う。


(いい大会だ)



---


ステージには、まだ多くの声が控えている。


だが、主役たちは揃い始めた。


ここから先は――


“ぶつかり合い”の時間だった。



---


(第24話・了 → 第25話へ続く)

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