第413話 檻の中のエルフ
「奴隷のエルフ、か……」
宿に戻ったリオンは、報告を聞いてからずっとその話が気になっていた。
奴隷でありながら主人に命令し、周囲の人間も逆らえない。さらに、目を合わせた者が妙な違和感を覚えるという。
アマンダの手掛かりかどうかは分からない。
だが、神剣グランディアが何かを感じ取っている以上、放置する理由もなかった。
「神剣。何か分かるか?」
リオンが腰に置いた剣に尋ねる。
『近くにいることは間違いありません。ただ、それが何なのかまでは分かりません』
「アマンダではないんだな?」
『少なくとも、私が感じている気配はアマンダのものとは違います』
「なら、直接会って確かめるしかないか」
リオンは立ち上がった。
「奴隷商の場所を調べてくれ。俺が行く」
同行していた特殊作戦群の隊員が頷く。
「護衛は必要ですか?」
「もちろんだ。ただし、相手を刺激しないようにしてくれ。まだ何者なのか分からない」
リオンは神剣を携え、数名の隊員とともに宿を出た。
商業都市の一角にある奴隷商の建物は、外から見ればそれほど大きくない。だが、出入りする人間は多く、商売は繁盛しているようだった。
リオンが店に入ると、恰幅のいい男が愛想よく出迎えた。
「いらっしゃいませ。奴隷をお探しでしょうか?」
「エルフの奴隷がいると聞いた。ずいぶんと偉そうな女らしいな」
その言葉を聞いた瞬間、男の笑顔がわずかに引きつった。
「ああ……あのエルフですか」
「会わせてもらいたい」
「少々、扱いに困っている奴隷でしてね。お客様に不快な思いをさせるかもしれませんが」
「構わない」
男は何か言いたげだったが、やがて諦めたように頷いた。
「こちらへどうぞ」
案内されたのは、建物の奥にある奴隷たちの収容区画だった。
そこにはいくつもの檻が並んでいたが、リオンの目はすぐに一つの檻へ向いた。
「……あれか?」
「ええ。あのエルフです」
檻の中には、一人の女性がいた。
長く美しい髪に、整った顔立ち。耳は長く、エルフであることが一目で分かる。
そして何より、彼女は檻の中にいる奴隷とは思えないほど優雅だった。
小さなテーブルを前に椅子へ腰掛け、白いカップを手にしている。
湯気の立つ紅茶を口に運び、まるで自分の屋敷でくつろいでいるかのように振る舞っていた。
身なりも清潔で、顔色もよい。痩せ衰えた様子などまるでない。
奴隷として売られている人間には到底見えなかった。
「おい、客人だぞ」
奴隷商が声をかける。
エルフはカップを置き、ゆっくりとこちらを見た。
「あら。新しいお客様?」
その声は落ち着いていて、どこか人を見下すような響きがあった。
「何の用かしら。私を買いに来たの?」
「まだ決めていない」
「そう。なら、無駄な時間を取らせないでちょうだい。私は忙しいの」
「檻の中でお茶を飲むのが忙しいのか?」
「失礼ね。お茶を楽しむ時間は大切なのよ」
奴隷商が慌てて口を挟む。
「お客様、申し訳ありません。この女はいつもこうなのです。こちらが何を言っても聞かず、まるで自分が主人であるかのように振る舞いまして……」
「黙っていなさい」
エルフが一言告げる。
すると奴隷商は、言葉を止めた。
その反応を見て、リオンの目が細くなる。
やはり妙だ。
彼女の言葉には、相手を従わせる何かがある。
リオンは腰に携えていた神剣へ手を伸ばした。
『リオン?』
神剣の声が頭に響く。
「確かめる」
リオンは鞘から神剣を抜いた。
エルフの視線が剣に向く。
「あら、物騒なものを持っているのね。そんなものを私に見せて、どうするつもり?」
リオンは答えなかった。
そして次の瞬間。
神剣の切っ先を、檻の中のエルフへ向けて突き刺した。




