第412話 偉そうな奴隷のエルフ
翌朝。
宿の一室に、俺たちは集まっていた。
「このまま情報が集まるのを待っていても、らちがあかないな」
机の上には、昨日までに集めた情報が並んでいる。
街の外れにある古い屋敷。
南から来る旅人。
修道服を着た女性の目撃情報。
どれもアマンダにつながる可能性はあるが、確証はない。
神剣グランディアも、アマンダが結界魔法を使っているせいで正確な場所を感じ取れないと言っている。
「こちらから動くしかない」
俺は地図を広げた。
「アマル王国内を広く調べる。街だけじゃない。周辺の集落や宿場町も含めて、アマンダにつながる情報を探す」
「ローラー作戦ですね」
自衛隊の隊員が確認する。
「ああ。時間はかかるかもしれないが、待っているよりはいい」
「分かりました。こちらも協力します」
こうして、俺たちはアマル王国内の広い範囲で情報収集を進めることになった。
もちろん、勝手に他人の家へ押し入ったり、現地の人々を脅したりするつもりはない。
商人として街や集落を訪れ、住民や商人から話を聞く。
不審な人物や、最近になって姿を見せるようになった者がいないかを調べる。
アマンダの名前を不用意に出さず、修道服を着た女性や、ヘリオス教の信徒を名乗る人物についても確認していく。
地道な作業だった。
それから数日が過ぎた。
俺たちはいくつもの街や集落を訪れたが、アマンダの居場所につながる情報は見つからなかった。
神剣の反応は相変わらず近い。
しかし、結界魔法のせいで場所を特定できない。
「本当にこの辺りにいるんだろうな?」
『はい。間違いありません』
「それなら、もう少し詳しく教えてほしいんだが……」
『申し訳ありません。結界に邪魔されています』
「分かった。無理を言って悪かった」
俺は神剣を布で包み直した。
焦っても仕方がない。
そう自分に言い聞かせていた。
その日の夕方、情報収集を終えた隊員たちが宿に戻ってきた。
「リオンさん。少し気になる話を聞きました」
「何か見つかったのか?」
「アマンダと関係があるかは分かりません。ただ、妙な人物の噂です」
「聞かせてくれ」
隊員は手元の記録を確認した。
「この近くの街で、エルフの女性が奴隷として売られているそうです」
「エルフの奴隷か。それ自体は珍しい話ではないのか?」
「奴隷制度がある国ですから、残念ながら珍しくはないようです。ただ、その女性について、少し変わった話がありまして」
「変わった話?」
「奴隷なのに、かなり偉そうな態度を取っているそうです」
「……偉そう?」
「はい。自分を買った主人に対しても遠慮がなく、周囲の人間にも命令するような口調だとか」
俺は思わず隊員の顔を見た。
奴隷なのに、主人に偉そうな態度を取る。
普通なら、そんなことをすれば扱いが悪くなりそうなものだ。
「それで、主人は何も言わないのか?」
「そこも妙なんです。主人は女性に対して強く出られないらしく、周囲も不思議がっているそうです」
「魅了魔法……という可能性は?」
「まだ分かりません。ただ、話を聞いた住民の中には、あの女性の目を見ると妙に逆らいにくくなる、と言っている人もいたそうです」
俺の表情が変わった。
「もう少し詳しく」
「その女性はエルフで、外見は若いそうです。かなり整った顔立ちで、言葉遣いは高圧的。自分が奴隷であることをまるで気にしていないようだと」
「名前は?」
「分かりません。売買の際にも、本名を名乗っていないようです」
俺は腕を組んだ。
魅了魔法。
逆らいにくくなる。
そして、奴隷として売られているエルフの女性。
アマンダとの関係があるかは分からない。
だが、無視するには気になる話だった。
「その女性がいる場所は?」
「この街から少し離れた商業都市です。奴隷商人が集まる地区で見かけられたそうです」
「分かった。調べる価値はあるな」
俺は地図を確認した。
アマンダの居場所を探すために各地を調べていたが、思いがけないところから妙な情報が出てきた。
もちろん、単なる態度の悪いエルフかもしれない。
それでも、魅了魔法らしき現象が起きているのなら、確認しておく必要がある。
俺は神剣グランディアを取り出した。
「グランディア。エルフの女性について、何か感じるか?」
『少し待ってください』
しばらく沈黙が続いた。
『……アマンダの気配とは違うようです。ただ、何か気になるものがあります』
「気になるもの?」
『はっきりとは分かりません。ですが、その女性の近くに行けば、何か分かるかもしれません』
「そうか」
やはり、無関係とは言い切れない。
アマンダ本人ではなくても、彼女と接触した人間かもしれない。
あるいは、同じような魔法を使う者の可能性もある。
「明日は、その商業都市へ向かう」
俺が言うと、隊員が頷いた。
「了解しました。現地の情報を確認しておきます」
「ただし、相手が奴隷だからといって、勝手に連れ出すようなことはしない。まずは事情を確認する」
「分かりました」
俺は再び地図を見つめた。
アマンダを探すために始めた調査で、別の奇妙な話が出てきた。
偉そうな奴隷のエルフ。
普通なら、ただの噂で片づけてもいい話だ。
だが、今の俺たちは慎重にならざるを得ない。
この国では、何かが起きている。
そして、その何かがアマンダにつながっている可能性もある。
「……一つずつ確認していくしかないな」
俺は神剣を見下ろした。
『はい。私も協力します』
アマンダの居場所は、まだ分からない。
しかし、俺たちの調査は少しずつ進み始めていた。




