第411話 見えないアマンダの居場所
アマル王国に入国した俺たちは、まず街の宿を確保した。
商人として行動する以上、いきなり大勢で動き回るわけにはいかない。
宿の部屋に荷物を運び込むと、俺たちは早速情報収集を始めた。
「この街で、最近変わったことはないか?」
俺は宿の主人に、商人らしい口調で尋ねた。
「変わったことですか?」
「ああ。見慣れない人間が出入りしているとか、妙な噂があるとか」
「そうですねえ……」
宿の主人は少し考えた。
「このところ、南の方から来る旅人が増えていますね。それと、街の外れにある古い屋敷に人が出入りしているという話も聞きます」
「古い屋敷?」
「ええ。ただ、誰が住んでいるのかは分かりません。近所の人もあまり関わりたがらないようで」
「そうか。ありがとう」
気になる情報ではあるが、今の段階ではアマンダとの関係は分からない。
俺たちは宿の主人に礼を言い、部屋へ戻った。
その後も隊員たちは交代で街を歩き、商人や住民から情報を集めた。
アマンダという名前を直接出すわけにはいかない。
不審な女性の目撃情報や、最近になって人が集まり始めた場所など、手掛かりになりそうな情報を慎重に探していく。
しかし、夕方になっても決定的な情報は得られなかった。
「リオンさん、こちらが今日集めた情報です」
部屋に戻ってきた隊員が、調査結果をまとめた紙を机に置いた。
「ありがとう」
俺は紙に目を通した。
古い屋敷への出入り。
南から来る旅人の増加。
街の外れで見かけられた、修道服姿の女性。
どれも気になる情報ではある。
だが、アマンダだと断定できるものはなかった。
「神剣はどうですか?」
隊員が尋ねた。
俺は布に包んでいたグランディアを取り出した。
「グランディア。何か分かったか?」
『近くにいることは間違いありません』
「近くというのは、どのくらいだ?」
『それが……正確な場所までは分からないのです』
「分からない?」
『はい。何かに邪魔されています』
俺は眉をひそめた。
「邪魔?」
『アマンダが結界魔法を使っています。私が居場所を感じ取れないように、何らかの対策をしているようです』
「結界魔法か……」
嫌な予感がした。
アマンダは、俺たちが追ってくることを想定しているのかもしれない。
あるいは、神剣が自分の居場所を探せることを知っているのか。
どちらにしても、偶然とは思えなかった。
「近くにいるのに、場所が分からないのか?」
『申し訳ありません。近づけば、何か分かるかもしれませんが、今は街のどの場所にいるのかまでは特定できません』
「そうか……」
俺は椅子に深く腰を下ろした。
ここまで来て、また足止めか。
神剣の反応を頼りにアマンダを探すつもりだったが、その手段を封じられている。
「リオンさん、どうしますか?」
「情報収集を続けるしかない。街の外れにある古い屋敷について、もう少し調べてみよう」
「了解しました」
隊員が頷いた。
俺は地図を広げ、街の周辺を確認した。
アマンダ捕獲のための準備はしてきた。
魅了魔法への対策も考えた。
日本側の協力も得た。
身分を隠して入国し、宿を確保して情報収集まで進めている。
それなのに、肝心の居場所が分からない。
「……あの女」
思わず声が漏れた。
アマンダは、こちらの動きを読んでいるのだろうか。
それとも、単に用心深いだけなのか。
どちらにしても、簡単には捕まえさせてくれないようだ。
『リオン、申し訳ありません』
グランディアが静かに言った。
「お前が謝ることじゃない。結界魔法を使っているアマンダが厄介なんだ」
『ですが、私が居場所を伝えられれば……』
「今できないことを悔やんでも仕方ない。別の方法を考える」
そう答えたものの、苛立ちは消えなかった。
俺は捕獲するための策まで用意してきた。
だが、相手の姿すら見つけられない。
このまま時間をかければ、アマンダが逃げる可能性もある。
それだけは避けたい。
「リオンさん。焦るお気持ちは分かりますが、今は慎重に進めましょう」
隊員の言葉に、俺は頷いた。
「ああ。分かっている」
分かっている。
焦って動けば、こちらの存在を知られる危険がある。
アマンダが魅了魔法を使う以上、下手に接触するわけにもいかない。
それでも、気持ちは落ち着かなかった。
あの少女が味わった苦しみを思い出す。
何千人もの人間を利用した女が、今もこの国のどこかで普通に暮らしているかもしれない。
そう考えると、じっと待つことがひどくもどかしかった。
「明日も調査を続ける。古い屋敷の情報を優先して集めてくれ」
「了解しました」
隊員たちが返事をする。
俺は再び地図に目を落とした。
神剣が感じ取る距離は近い。
アマンダは、この街のどこかにいる。
だが、結界魔法によって、その場所を隠している。
「……必ず見つける」
小さく呟いた俺の手には、神剣グランディアが握られていた。
『はい。私も最後まで協力します』
その声を聞き、俺は静かに頷いた。
アマンダとの距離は近い。
それなのに、手が届かない。
焦りを抑えながら、俺たちは次の手掛かりを待つことになった。




